■ でたらめな好きの仕方
「弦一郎、虫に刺されているぞ」
部活が終わって着替えている途中、隣で着替えを終えた柳にそう言われて真田は指差された首筋に手をあてる。
「別段痒みはないが……」
そう言って真田は首を捻り、ふいにある可能性に思い当たった。
「虫刺されでないとしたらもしや、キスマークとやらか?」
からかうように柳に言われて、真田はむっと顔をこわばらせた。
「なっ何て破廉恥なことをいうのだ蓮二…っ!」
「さして隠すこともないだろう。この年頃の男児ならばそれ位は構わないと思うが?」
どうせ精市につけられたんだろう、ととどめをさされて、いよいよ反論が出来なくなる。
「下手に抗うより堂々と見せつけてやればいいさ。その方が精市も喜ぶだろう」
そのような問題では、と真田が食い下がろうとするが柳はどこ吹く風といった風に取り合おうとはしない。
「あいつも俺も、人一倍独占的が強い」
この痕がついた過程として。結果として幸村と事に至ったのは本当に偶然で、完全に幸村に流されたといって過言ではないだろう。
しかし真田自身そういう願望がなかったのかと問われれば素直にノーとは言い切れない。
真田も柳の言う通り年頃真っ盛りの思春期男児、据え膳を食わぬほどの腑抜けでもない。
誘われたから襲った。この理論がまかり通るかはまた別としても結果は結果。それによって出来た痕跡を隠すということはつまりその行為自体に後ろめたさを感じているということであって。
それはそれで幸村に失礼だから、今はこれでよかったということにしておこう。
言い訳がましくはあるがそこまで自己完結をした後、真田は溜め息をひとつ零して首筋の痕を指先でなぞった。
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2012/6/12
御題は魔女のおはなし様より
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