■ U


「今銃声が聞こえたようですけど……」
「柳が仕留めたんかな?」

 本来の任務ではないが柳生と仁王は武器倉庫へ訪れていた。
 容易に小国の一つや二つはおとせるであろう武器の山、山、山。
 サイレンサーを搭載した機関銃や最新機種のマシンガン。はてには麻薬までおいてあって、二人はなかば驚きをこえて呆れの溜め息を吐き出していた。

「こんなようさんの武器で一体何しようっていうんじゃ」
「まったくです。流石にこの量は異常ですよ」

 二人で武器倉庫を物色していると入り口から人の気配。瞬時にやばいなんて思ったけれどすでに手遅れで。首を入り口に向ければ眉間にぎゅっと皺を寄せたチャーミングな泣き黒子のオニーサンが此方を凝視していらっしゃった。

「おまえら、そこで何してる」
「何って……盗難?」
「ほぅ……この俺様に向かってそんな生意気な口をきくとは、なかなかに度胸があるんじゃねぇの?」
「それはそれは、お褒めにあずかり光栄じゃき」
「こら仁王くんあまり相手を挑発するのは…っ」

 柳生の声は銃声に掻き消される。

「生きて帰すわけにはいかねぇな、大人しく殺されてもらうぜ」

 泣き黒子オニーサンは両腿から拳銃を引き抜いて容赦なくぶっ放す。
 適当なようにみえて銃口は確実に柳生と仁王のこめかみを狙っていて。

「あっぶな……っ!」
「おやおや、随分と物騒ですね」
「物騒も何も、侵入者を片付けんのが俺様の仕事なんだよ」

 素早く身を翻してオニーサンはまず柳生の肩を打ち抜く。そして次は足を狙うが柳生が投げた硝子片に意識を取られ僅かに焦点が狂って命中は叶わない。柳生はオニーサンが一度体勢を崩したのをチャンスとばかりに背後に向かって発砲。きちんと照準を合わせていないというのに銃弾はオニーサンの脇腹を掠めた。

「肩撃たれて表情ひとつ変えないとはな……おまえ、何者だ?」
「そんなこと仰っていますが貴方は自分の心配をすべきでは?脇腹、はやく止血しないと下手したら死にますよ」
「このままおめおめと逃げろってか?ふざけんじゃねぇよ!」

 オニーサンは尚も引く気はないらしく血の滲む脇腹を抑えて立ち上がる。
 しかし次の瞬間に両手の銃を蹴り落とされた。

「ざ―んねん。今回は俺らの勝ちじゃき」

 先ほど確実に五メートルは先にいたはずの仁王に後ろから銃口をつきつけられ、一瞬オニーサンが驚いた顔をする。

「瞬間移動したて思ったじゃろ?」

 手の先で光るワイヤーをいじりながら仁王が楽しそうに呟く。

「そんなほそっこいワイヤー一本でなにを……」
「ちょいと天井に引っ掛ければこの程度の距離、余裕なんじゃよ」

 柳生に気を取られすぎたのがおまえさんの敗因じゃ、と仁王はにい、と笑みを深めた。
 悔しげに歯を食いしばるオニーサンを余所に、肩の止血を終えた柳生が今度は前から額に銃口をあてる。

「ではお喋りはこれぐらいにして、貴方には消えていただきましょう」
「何か、言いたいこととかない?」
「…別にねぇよ。後は好きにしろ」



数拍をおいて、二発の銃声。



**


「弦一郎…ッ!どこにいるんだ弦一郎!」

 相手の領地内であることなんてお構いなしに、柳は声を張り上げる。
 すべては白石の策を見抜けなかった己の責任。頼むから無事でいてくれとただただ願うしかなくて。

「ほんま必死やなぁ、柳クン」
「……ッ!!」

 後ろを振り向いて、そこにいたのは白石と白石に姫抱きされた意識を失っているらしい真田。そして―……

「首、領……?」
「ごめんね蓮二。ちょっとだけ嘘ついちゃった」
「幸村クンが楽しいことしよういうから何かと思たんやけど、かる―い実戦演習したいゆうから」

 幸村と白石は顔を見合わせると悪戯っぽく笑みを零した。

「とにかく任務はこれで終了。真田は柳に預けるから、あとは煮るなり焼くなりお好きにど―ぞ」
「ちなみに柳生にはすべて話してあるし、仁王も大体の事情は飲み込んでるはず」
「ちなみに真田クンにはちょっとキツめの薬嗅いでもらったからしばらくは安静にさせたってな―」


 先ほどから二転三転する事態に柳は混乱と同時になかば安堵していた。真田が無事ならそれで、それだけで十分だと。


「とんだ遊びに付き合わされていたようだな、俺は」




 背後で嗤う道化二人に湧く怒りなどを持ち合わせているはずもなく、柳は静かに寝息を立てる真田を抱え直しそっと口付けを落とした。






芽芽音様リク、マフィアパラレルでした!
正直尻切れとんぼ感が否めません…これが相楽の限界です。申し訳…ないです…(吐血)
CP要素が思いの外薄くなったり独断と偏見で絶頂野郎と泣き黒子を出したりとかなりやりたい放題しました。
ご期待に添えていればよいのですが…

相楽本人は書いていてとても楽しかったです!芽芽音様、素敵なリクエストありがとうございました…!



2012/6/12


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