■ 傷を照らしだした

 帰り道の人気の少ない通りに出ると同時に柳の手を掴めば、それに応えるように柳も手を握り返してきた。
「柳先輩、」
「ん?何だ?」
 柳の視線が赤也に向けられて、不覚にもどきりとしてしまう。睫が揺れる様が酷く綺麗だ、と頭の隅の方で感想を零した後、握った手に無意識に力をこめた。
「ずっと気になってたんスけど、聞いていいですか?」
「ああ、構わない」
 赤也の視線が軽く宙を泳ぐ。言うか言わまいか、迷いが見て取れた。
「俺が、立海のテニス部に入ったばっかりの頃に。見ちゃったんすよ、柳先輩が泣いてるとこ」
 柳の目が僅かに見開かれる。まさかそんなことを言われるとは思ってもみなかったのだろう。しかし動揺を見せたのはほんの一瞬で、すぐにいつも通りの柳に戻った。
「あの時…なんで泣いてたんですか」
 躊躇いがちに赤也が柳を見上げる。
 それに対して柳は手を繋いでいない方の手を顎にあてて、軽く悩む素振りをみせた。
「赤也にしては難しいことを聞くな…」
「ちょっどういう意味っスか!?」
 柳は少し躊躇いを見せたがもう過ぎたことだ、と言って赤也の頭を撫でながらゆっくりと口を開く。
「俺は、三強と呼ばれるのが嫌いでな。周りから三強だの言われ始めたのは確か一年の終わり頃だったが…とにかく、そう言われることが気に食わなかったんだ」
「その…なんで?」
「比較対象の二人が余りにも強かったからだ。…精市にも弦一郎にも未だに勝てる気がしないからな」
 柳は続ける。
「そのコンプレックスに押しつぶされそうになっていた頃に先輩から執拗な嫌がらせを受けていてな」
「………」
「精市と弦一郎は気にすることはないと慰めてはくれたが…どうしても、耐えきれなかった」
 悔しかったんだ、と柳は呟くように言った。
「…、何故赤也が泣きそうになっているんだ」
「だ、だって…!そんな酷いこと絶対赦せないですよ!」
「もう気にしていないさ。随分と前のことであるし……すまないな、そんな顔をさせるつもりではなかったんだが」
 目尻に涙をためて顔を歪ませる赤也の頭をもう一回撫でつけて、ありがとう、と柳は言う。
「誰にも言ったことがない話だ、他言は無用だぞ?」
「…は、はい!」

 柳と秘密を共有できる喜びと、言いようのない悔しさが相俟って赤也は無意識に柳の手を両手で握り締めていた。





(もう、迷わない)


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2012/3/10
御題はDiscolo様より

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