■ 夜を舞う蝶々

「ほぅ…此はまた見事な……」

 きめ細やかな刺繍がほどこされた着物を目にするなり仙蔵は思わず感嘆の息を漏らす。
「ちょっと派手すぎやしないか?」
「否、おまえならばこれぐらいで丁度いいだろう」
 仙蔵は文次郎から着物を受け取り、手早く着替えを済ませると夜の街へと繰り出す為の仕上げに唇に真っ赤な猩猩緋の紅をひく。

「渡しておいてこんな事をいうのもなんだが……遊びに興じるのも結構、然し余り羽目を外し過ぎるなよ」
「それぐらいわかっているさ」

 仙蔵は文次郎の額に口付けを落とし、聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の声量で有り難う、と耳元で囁くと着物を翻し宵闇に消える。

 仙蔵曰わく、己の容姿に誑(たぶら)かされ、惑わされた哀れな男の末路を見るのが好きなのだと云う。
 悪趣味に違いはないが、自分自身の女装の力量をはかるのが心底ご満悦らしい。女装の成績が芳しくない文次郎からすれば羨ましいことこの上ない趣味ではある。

 口付けされた額を指でなぞれば、淡くついた紅の色。

 それを己の口元にあて、奴の感触に酔いしれる。

「……嗚呼、」

 毒されるとは、正にこの事。


end.
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仙蔵にでれでれな文次郎って好きです。

御題はDiscolo様より

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