■ 夜気と微熱

 仙蔵はその美しい容姿故か、他の同級生よりも色事の忍務を割り当てられることが多い。
 それぞれの特徴を生かしての振り分けなのだろうが如何せん、仙蔵自身色事はそこまで得意というわけではなかった。
 座卓での授業はずば抜けて優秀だが実習ともなればそういうわけにはいかない。

 床に広がる艶やかな黒髪に何人の男が堕ちていったのだろうか。
 元来仙蔵は自分の思い通りにならないことを酷く嫌う。曰わく自分の体の変化に対応出来ないのがもどかしいらしい。そんなこともあって、色事の実習の前になると必ず仙蔵は伊作の元へとやってくる。

「…伊作」
「ああ。もう布団は敷いてあるから、適当に寛いでおいて」
 この薬を煎じ終わったら相手をしてあげるから、伊作はそう言って柔和な笑みを浮かべた。



「もう少し肩の力を抜いて…そう、」

 次々と耳元から吹き込まれる言の葉に酔ってしまいそうだ、仙蔵は熱を孕み始めた吐息にのせて伊作にそう呟いてみせる。

「誘い文句は完璧だけど、もう少し身体を慣らさなくちゃね」

「あ…っ、ゃ、」

 触れ合う肌が燃えるように熱い。このまま本当に溶けてしまいそうな、そんな錯覚が目の前を交錯する。

「上手上手、前よりうんとうまくなっているから今度は十分点はとれると思うよ」

 額に滲んだ汗を拭いながら、伊作はにこりと微笑む。

「…有り難う。どうしてもこれだけは自信がもてなくてな」
 そう言って仙蔵ははだけた寝着を正す。

「明日、がんばってね」
「ああ」

 夜は更けるばかり、月明かりが煌々と照らし出す影を見詰め、伊作は静かに仙蔵を見送った。


end.
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色事が苦手な仙蔵って萌えます。

御題はDiscolo様より

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