■ いつでもひらりと指を抜けていく
「…さく、………伊作っ!」
意識があやふやで、自分を呼び止める声も誰なのかわからない。
「あ、…ぇ?留さん?」
顔を覗き込む食満は不安げに伊作を見つめる。
「また変な薬でも飲まされたんだろう?」
「ん、あー、そうかも。なんか変かも」
目の焦点は合っておらず、呂律もまわっていない。
「伊作?大丈夫かおまえ」
「はは、どーだろ」
「伊作?…おいッ」
伊作が食満を抱くようにして床に倒れ込む。
「もう、やんなっちゃうや」
恋患いなんて馬鹿馬鹿しい。
君はいつでもひらりと僕の心にとまって、甘い香りを残して指をすり抜けてゆく。
甘いしびれが、じわりと心の蔵を焼き焦がして。
end.
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文次と仙蔵がいちゃこらしてるのを見ちゃった伊作の図。
御題はDiscolo様より
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