■ 嘆けども君は戻らず
※死ネタです。
――ああ、君の声を、
伊作が死んだらしい。
なんでも、負傷者の手当てをしている途中で流れ弾にあたったとかなんとか。頭を綺麗に撃ち抜かれていたからきっと即死だったろう、と現場に居合わせていた仙蔵が言っていた。
痛みに悶えて死ぬよりかは随分と楽な死に方だ、と淡々と語る反面、頬を伝った涙の跡まで誤魔化しきれなかったようだ。
それに比べ涙のひとつも出てこない俺は、なんて非道なのだろうか。
「おまえは……強いな、留三郎」
違う、……違う。
いつも隣にいたはずの、伊作がもういないという現実を受け入れられないだけなんだ。
涙を流してしまえば伊作の死を肯定することになってしまうから。
あの笑顔が、体温がもう手の届かない場所にいってしまったという事実に押し潰されてしまいそうで。
受け入れられるはずがないじゃないか。
だから、
――ああ、君の声を、
―――抱いて、歩いていく
まだおまえは俺の隣に、
end.
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伊作の死を受け入れられない留三郎と受け入れつつも動揺を隠しきれない仙蔵。
御題はDiscolo様より
スピッツの楓の歌詞も拝借しました。
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