■ 小さな幸せ
昼過ぎの食堂は生徒の姿もまばらで、午前の実技演習を終えた六年生はそれぞれ疲れた様子で少々遅い昼食にありついていた。
「本当、素直じゃないよね。仙蔵って」
箸でふかしいもを転がしながら、唐突に伊作が呆れ気味に呟く。
「なにを失礼な!」
伊作に転がされていたふかしいもに自らの箸を突き立て、仙蔵は不満を露わに頬を膨らました。
「私のどこが素直でないと……」
「文次郎がぼやいてたよ、仙蔵は守りが堅すぎて手を出すに出せないって」
「……っ、」
「ほぅら図星」
どうせろくに口吸いとかもさせてあげてないんでしょ?、と追い討ちをかけるように伊作に指摘され仙蔵は言い返す言葉もなく口を噤む。
「別に恋仲なんだったら口付けでもなんでもやるのが当たり前でしょう?」
「言うのと実際にやるのとでは勝手が違う」
「じゃあ仙蔵は文次郎と口吸いしたくないの?」
「…それは、」
「それも違う?」
「……したい、けど」
ごにょごにょと口籠もる仙蔵に伊作が囁く。
「好きな相手の前でぐらい、素直になったら?」
* * *
「も、文次郎!」
「ん?なんだ?」
皆が寝静まった六年長屋、月明かりに照らされた廊下。誰もいないことを確認して、振り向き様に唇を奪う。
「な、せ、仙蔵……っ!?」
狼狽える文次郎に、仙蔵は僅かに頬を赤らめてそっぽをむく。
「仙蔵、」
「なんだ」
ぐい、と肩をつかまれてもう一度。今度は文次郎から口付けられる。
「今日はえらく積極的じゃねぇか」
「べ、べつにそんなことは…っ」
――好きな相手の前でぐらい、素直になったら?
「…ある、かもしれない」
赤く染まった頬の熱が、引く気配はなさそうだった。
* * *
「仙蔵が最近えらく積極的だって、文次郎喜んでたよ」
「…ふん、……そうか」
仙蔵の頬がわずかにほころんだのを、伊作は見逃さなかった。
end.
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ツンデレ仙蔵は本当に可愛いです。8対2ぐらいの割合がベストだと思います。
御題はTOY様、JUKE BOX.様より
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