■ 見え透いた嘘も気づかぬふり

「わぁ!こなもんさんだ―」
 何時も童らしくあどけない笑顔で此処に迎え入れてくれる此の子の裏の顔はそれはきっと恐ろしいものなのだろう、雑渡は伏木蔵に初めて会った時から今までの間ずっとその様に感じていた。今も現れた途端に隠し持っていた苦無を後ろ手に構える始末だ。
 彼に何かをした覚えはないが、きっと何か気に食わないことでもあったのだろう。
「元気そうでなによりだよ。あれ、今日は伊作君はいないのかい?」
「………ええ」
 その一瞬の表情の機微を雑渡は見逃さなかった。
 嗚呼そうか、そういうことか。
 前から薄々感じてはいた。
 きっと此の子は伊作君のことが好きなのだ。そして彼を独り占めする雑渡を恨めしく思っている。
「伊作先輩は実習に行かれているので今はいませんよ」
 残念でしたね、とありったけの皮肉を込めて言ってくるのだから本当に憎らしいことこの上ない。
 単なる子供の戯れ言ならいざ知らず、分かってものを言っているのだから幼いからと云って容易く侮れたものではない。
「ねぇこなもんさん。こなもんさんは伊作先輩のどこがすきなんですか?」
 僕と伊作君の関係を知った上での質問なのだろう。どう答えたものか、正直対応に困る。
 此の子は我が物顔で雑渡の膝の上を陣取った挙げ句、あどけない純粋な子供の皮を被っていとも愉しげに地雷の上で地団駄を踏んでみせるのだ。
「ん―そうだねぇ。素直なところ、かな」
 逃げるようにありきたりな答えを投げてやる。どうだ、これぐらいで満足だろう。
「成る程、体の相性もばっちりですもんね」
 雑渡は膝上の少年を凝視する。まさか、そのまさかだ。
 少年はざまあみろとばかりにニヤニヤと厭な笑みを貼り付け、微笑みに似た憂いを含んだ表情で雑渡を見上げてくる。完敗だ、完全にしてやられた。
「え―…もしかしてみてた?」
 そうだとしたら大変だ。こんな小さな子供にとんでもないものを見せてしまったことになる。言葉を慎重に選びながら雑渡が口を開きかけるが、それは直ぐに無邪気な声に遮られる。
「え?なんのことですか?」
 はぐらかされた、そう思ったがこれ以上墓穴を掘るのは御免なのでそれ以上の追求は敢えてしない。

――よく大人は狡いってよくいうけど。

「あ、もしかして僕、変なこといいました?」
 純粋の皮を被った此の子の方がそこらに転がっている大人よりよっぽど恐ろしい。 年端のいかない青い餓鬼。なめてかかれば忽ち呑み込まれ、奈落の底へと突き落とされるのだ。


end.
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今回はブラック伏木蔵がピュア(笑)な雑渡さんを翻弄する、というのを目指したんですが最終的に何時も通りよくわからないものになりました(笑)
雑渡さんが伊作を抱いてる(逆もまた然り)のを目撃した伏木蔵君が雑渡さんに対してどのような反応を示すのか、と考えた結果がこれです。
幼いながら修正不可能な程に歪んでしまった伏木蔵君が如何にしてこうなったのか、というのを妄想するのも楽しいですよね!

御題はDiscolo様より

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