■ はちみつハニー


 蜂蜜みたいに甘い、


 無意識に手をのばせば、節くれだった無骨な手のひらが仙蔵を包み込んでくれる。
 低体温の仙蔵にとって、文次郎の体温は酷く心地良く感じる。

「なぁ、文次郎」

 なんだ?と返事を返す文次郎の腰に腕をまわせば仙蔵は甘えるように腕に力をこめる。

「どうした、柄にもない」
「今日はそういう気分なんだ」
「へぇ」

 文次郎自身仙蔵が甘え下手なのは重々承知している。つまり、だ。素直を甘えてくる、即ちこれには何かしら裏があるということになるわけなのだが。

「文次郎、」

 猫なで声が耳を擽る。一体なんだっていうんだ。もしや頭でも打ったのではあるまいか、本気でそんな心配をし始めていた文次郎の耳にふいに聞こえてきたのは…―

「文次郎、なにをしている」

 文次郎の思考が一時的に停止する。今目の前にいるはずの仙蔵の声が背後から聞こえたのだ。
 恐る恐る振り返ってみれば、明らかに怒っている様子の仙蔵が腕組みをしながら仁王立ちしているのが見えた。

「阿呆、それは鉢屋だ」

 呆れ顔の仙蔵がそう言った直後、ようやく現状を理解した文次郎は腕の中におさまる仙蔵、もとい鉢屋をちらりと見る。

「地獄の会計委員長も、恋人には甘いんですね」

 仙蔵に聞こえない声量で耳元で囁いたかと思いきや驚くほどの逃げ足の速さで鉢屋は五年長屋へと姿を消した。

「馬鹿文次郎、後輩に誑かされては下級生に示しがつかんだろうが」

 文次郎はそんな仙蔵の言葉を聞き流しつつ手をのばして、ぎゅう、と腕に力をこめる。

「なっ急に何を……っ」

 顔を真っ赤にして文次郎を引き剥がそうとする仙蔵の胸に顔を埋め、改めて自覚する。


――甘い、な


 甘さの欠片もない空気とは裏腹、仙蔵にだけは甘さを見せてしまう己に。


「可愛いな、おまえ」

「……――!!」

 気を緩めた瞬間に零れた一言に仙蔵はいよいよ言葉にできないといった風に顔を赤らめる。
 こういう生娘みたいな反応は昔から一つも変わらない。
 冷静沈着、眉目秀麗と謳われどやはり仙蔵も生身の人である。

「偶には、いいだろう?」

 顔をあげようとしない仙蔵の顎をとらえて無理矢理あげさせると、文次郎は軽く口付けを落とした。

「……甘いおまえなんて、気持ち悪い」
「偶には、っていったろうが」

 最後まで素直になりきれない仙蔵がますます愛おしく思えて、



はちみつハニー



end.
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仙蔵に甘い文次郎を書こうとしたらこうなりました。もうちょっとシリアスになる予定でしたが最終的にただの甘甘に(笑)
タイトルはボカロの曲名から拝借しました。


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