■ 変なこと言わなきゃかっこいいのに

 何重にも巻かれた包帯が、先輩の“不運”をより一層際立たせていた。

「今度は一体なにしたんですか、伊作先輩」

 呆れ気味にそう尋ねると困ったような笑みを浮かべながら伊作先輩は此方に向けて苦笑してみせた。
「また綾部の掘った穴に落ちちゃってね―」
 泥だらけの顔を片腕で拭って、深い深い溜息を吐き出す。
 制服で隠してはいるが伊作先輩は体中生傷だらけである。そう、それは擦り切れていない肌はないのではと疑うほどに 。
 古傷と比較的新しい傷が何重にも交差しそれは見るに耐えないものだ。
「こなもんさんと伊作先輩って、なんだか似てますよね」
「え?」
 自分の手当てを終え薬を煎じ始めていた先輩の手が止まる。
「他人に興味無いところとか、何事にも斜めに構えるところとか。体中きずだらけですし―…」
 伏木蔵はあることないことを指折りにあげていき、指が足り切らなくなったところでようやくとまる。
「なるほどねぇ…伏木蔵にはそう見えていたわけか。なかなかにいい線はいっているけど、まだ甘いね。僕や雑渡さんみたいな人種はそんな生易しいもんじゃないよ」
「生易しい、ですか」
「そう。僕は人の命を救えると同時に奪うこともできる、それをわかった上で保健委員長を務めているわけ」
 半ば不可抗力ではあったんだけどね、と先輩は今度は自嘲気味に笑った。
「じゃあもしも先輩が保健委員じゃなくて、潮江先輩の会計委員であったり食満先輩の用具委員であったとしたらまた違う先輩になっていたわけですか」
「どうだろう。まぁそんな“もしも”を考えたところで堂々巡りになって終わりさ。考えるだけムダ、ってね」
 伏木蔵は黙って立ち上がると、伊作の目の前に腰をおろす。
「じゃあ、今から僕が雑渡みたいに伊作先輩に接吻したら先輩、どうします?」
「腰砕けるまで離さない、かな」
 冗談で云ったはずなのに伊作先輩の目は本気だった。別にこわいとかそんな感情はおこらないけれど、ただ滑稽だな、と。けして声には出さないけれど。
「それって、すごいスリルですね」
「そこをスリルの一言で片付けてしまえる伏木蔵も大概だよ。どちらかというと僕たちよりの人間だ」
「やだなぁ、先輩と一緒にされるのは心外です―」
 伏木蔵がふふ、と笑みをこぼせば伊作先輩も笑った。

 変なこと言わなきゃかっこいいのに。
 こんなの僕が言えた台詞でもないや、なんて。
 所詮こんなもの、餓鬼の戯れ言に過ぎないけれど。
 そう、何時までもこの人を囚えられるのならば。


end.
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One to Six !様に参加させていただきました!
御題ガン無視で本当に申し訳ない仕上がりに……
普段は書かないCPが書けて個人的にとても楽しかったです。

有り難う御座いました!


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