■ 惚れたら最後
「仙蔵!私と今夜手合わせ願えないか!!」
夜の帳が落ちて暫くした頃。自室で読書に耽っていた仙蔵は突然開いた障子の先に目をやった。
「別に構わないが…私に頼まずとも長次や文次郎に付き合ってもらえばよかろう」
「文次郎も長次も委員会やら忍務の準備で無理だというから仙蔵を誘いにきた!」
「……事情はわかったから少しの間待て。着替える」
暫くして着替えを終えた仙蔵は小平太と共に裏山まで音もなく疾る。
丁度森の開けた場所に辿り着き、二人は足を止めた。
「では、始めようか」
小平太は足元にあった小石を指先で弾くとにいっと口端を吊り上げた。
「石が落ちたら開始だ!」
「おう」
空高く舞った小石はあっと言う間に重力に任せ地面へと戻ってくる。
そして地につくかつかないかの微妙な位置へ差し掛かり…―
二つの影が、交錯する。
「おまえとやり合うなんて四年の合同演習以来じゃないか?」
人体急所を的確に狙う仙蔵を交わし小平太も負けじと突きを繰り出す。
ひゅん、と小平太の蹴りがとび、避けきれなかった仙蔵は小平太の軌道を横に凪いで制す。そして器用に肘を使って牽制をすると、距離をとるため数歩後退った。
「今日はえらく月が綺麗だな!」
仙蔵が空を見上げると、自分達を照らし出すかのように月が顔を覗かせる。
「それにしてもおまえの動きは文次郎や長次と違って随分と荒い」
「そうか?私は別に変わらんと思うが」
僅かに体勢を崩した仙蔵はなんとか立て直そうとさらに距離をとろうとするが、小平太がそれを許さない。
「……くっ、」
「つかまえた!!」
完全に体勢を崩し地面に倒れ込んだその上から馬乗りになり、勝ち誇った笑みを見せ小平太は軽快に笑って見せた。
「私も腕が落ちたかな」
仙蔵が体を起こそうと後ろ手をつくが小平太がそれを勢いよく払う。小平太の行動を予想もしなかった仙蔵は再び地面に体を打ち付け、痛みに顔をしかめた。
「どういうつもりだ小平太」
「折角勝ったんだから、何か一つぐらい私の云うこと聞いてくれてもいいだろう?」
「…ああ、」
仙蔵に跨ったままうーん、と首を捻る小平太はふいに閃いたようにぱん、と手を鳴らした。
「抱かせて!」
「……は?」
「だから、抱かせてよ。……いいだろう?」
混乱する仙蔵の心境を知ってか知らずか小平太は意気揚々と忍装束を剥ぐ。
「まさか小平太、ここでするつもりではないだろうな…っ!?」
「え、駄目?」
小平太は仙蔵のはだけた忍装束からのぞく白い肌にゆっくりと舌を這わせると、愉しげに喉を鳴らした。
「い…ぅ、ッ…!」
鎖骨から腹筋にかけて舌でなぞられると、無意識に体が跳ね上がる。
「仙蔵、昔からここ弱いよな」
おまえに何がわかる、と言ってやりたいところではあるが、昔色の実習であたったことがあるのを思い出し仙蔵は赤面する。
「あの時の仙蔵、すっごい可愛くてさぁ……ずっと、忘れられなかった」
小平太の瞳の奥で野生がぎらりと牙をむく。
「あまり羽目を外すなよ」
「どうだろう。仙蔵が乱れるとこ見せてくれたらすぐにでも離してあげる」
出来なかったら、ずっとこのままだから。そう言って小平太は獣を彷彿させる笑みで笑ってみせる。
惚れたら最後、
end.
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はい、まさかのこへ仙でした(笑)
私の中で小平太は野生児なのでこんな仕様になりました。
御題はDiscolo様より
2011/12/15 加筆修正
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