■ 難攻不落の唇
「熱…ッ」
まったく、油断していた。煎れたての茶に口をつけるなど仙蔵にとって自殺行為にも等しいというのに。
「大丈夫?火傷した?」
「平気だ。もう慣れた」
仙蔵は幼い頃から重度の猫舌だ。湯気がたっているものはすべて駄目なようで、念入りに冷ましてから食べるというのが最早習慣づいてしまっていたのだが…今回は少々気を弛めてしまっていたようだ。
「舌の火傷はなかなか治らないからね―。あ、薬あるけど持ってこようか?」
「…すまん、頼む」
数分たてば小さなチューブ型の容器をもった伊作が戻ってくる。
「これ塗り薬なんだけど、空気に長時間触れさせちゃいけないんだよね」
「…じゃあどうやって塗るのだ?」
「まあ使い方が難点な代物ではあるんだけれど…」
伊作は小さく何かを呟き、意を決したように仙蔵を見つめる。
「仙蔵。少し口を開けて。で、目を閉じる。…絶対目あけないでね!」
何か目に刺激がいくような薬なのだろうか。そんな疑問も余所に仙蔵は伊作に言われたとおり口を開け、目を閉じる。
刹那、唇に触れる柔らかい感触に仙蔵は絶句する。
間違えるはずもない。これは…唇の味。
「ん、ん―っ!」
抵抗する間も無く舌先を絡めとられる。
何度も角度をかえながら伊作が舌に薬を塗っていく。
「ゃ…ン、」
ようやく薬を塗り終え唇を離せば目尻に涙を溜め頬を真っ赤に染めた仙蔵が目に入る。
「ごめん…」
「そうするならそうと始めから言えばいいものを…!」
「だって仙蔵いやだっていうかもって思ったから…」
伊作が目を逸らし気味に視線を泳がせる。
「馬鹿者!…それぐらい別に構わない……」
先程の接吻を思い出したのか仙蔵の語尾がみるみるまに尻すぼみになる。
「じゃあ、もう一回するっていったら仙蔵はやってくれるの?」
「そ、それは…ッ」
伊作の目の奥が意地悪げに細められる。
「やっぱり駄目なんじゃないか」
見た目に反して節くれだった指で顎をとらえられ息をつく間もなく唇を重ねられる。
ひとつひとつ歯列をなぞられ呑み込みきれなかった唾液が顎を伝う。
「ゃう…ぁ…」
「仙蔵、煽りすぎ」
「あ、煽ってなどいない!」
「まあそれはともかく、とりあえずは治るまで毎日保健室にきてね。…わかった?」
確信犯的な笑みで伊作はにやりと笑う。
end
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友人が猫舌に困っている、とぼやいていたのを思い出して衝動的に書きました(笑)
猫舌な仙蔵いいです。飲み物とか冷ましてる姿とかすごく可愛いと思います…!
御題はDiscolo様より
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