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一月のある日、名前はスプラウト先生からの依頼で、マンドレイクの世話の手伝いをしていた。もっとも、手伝いと言っても、マンドレイクの世話そのものではなく、温室に邪魔避け呪文を掛け直す事だ。
名前は少しずつ丁寧に呪文を唱え、全てが終わる頃には辺りは暗くなっていた。
「どうもありがとう、助かりました」スプラウト先生が言った。
「いえ……」名前はもごもごと口を動かした。
スプラウト先生がしつこい名前を黙らせる為、敢えて手伝わせているのは明らかだ。恐らく、他にも仕事があるとはいえ、これくらいの作業は彼女一人で難なくこなしてしまうのだろう。しかし、こうしてマンドレイクが育っているのを見ると、少しだけ安心することができた。
マンドレイクは順調に成長してきていた。葉は元気に茂っているし、大きなものだと名前の腰くらいにまで成長している。以前、名前達は授業で植え替えを行ったが、その時はまだ小さな苗だったマンドレイクが、今ではすっかり丈夫な株になっていた。もう名前達二年生では植え替えられないだろう。
「このまま何事も無ければ、マンドレイクは五月頃には収穫できるでしょう。そうすれば、ポピーがマンドレイク回復薬を作る事ができます」
「でも先生、前から思ってたんですけど、このマンドレイクが育つのを待たずに、新しく購入できないんですか? 収穫済みのものを買えば、それで薬が作れますよね?」
「成熟した株は取引禁止品目なんですよ」スプラウト先生が端的に言った。
「かろうじて苗であれば輸送も可能なのですが、それでも連盟の許可が必要な植物ですから。収穫後のマンドレイクを買うことができれば良かったのですが、マンドレイク回復薬は収穫したばかりのマンドレイクを使わなくてはいけないんです。その日の内に収穫したものでないと、効果が発揮されないのですよ。それに、凍結呪文を掛けたらマンドレイクの成分そのものが変わってしまうので、回復薬には使えません」
他の魔法薬なら良かったんですけどねと残念そうに言うスプラウトに、名前も頷いた。
確かに、苗のマンドレイクなら気絶をするだけで済むらしいが、成熟したマンドレイクの叫び声はその限りではない。何かの事故でマンドレイクが土から出てしまった場合、魔法族もマグルも関係なく、大勢の人間が死ぬ可能性がある。
近い内にまた手伝って欲しいと言われ、名前は頷いた。
温室から戻る途中、名前は意外な人物を見付けた。「ジニー?」
振り返ったジニーは、「名前……」と小さく呟いた。具合が悪いのか、あまり顔色が良くない気がする。名前は気が付かなかったふりをして、「こんなところで何してるの?」と尋ねた。
名前としては、グリフィンドール寮か、さもなくば医務室へ送っていくつもりだったので、「あのね、名前に相談があるの……」と打ち明けられたのは予想外だった。
「どうしたの?」名前は優しく聞いた。
「その、変な物を手に入れてしまったの」
「変な物?」
ジニーが言うには、怪しい物品を手に入れてしまったが、捨てるに捨てられないのだという。
その怪しい物というのがいったい何なのか、ジニーは説明しなかったが、名前は彼女が言った怪しい物品を、下級生の間で流行っている魔除けグッズだろうと考えた。ジニーは気が弱そうだし、上級生に脅されて断れなかったのかもしれない。
「暖炉に放り込んじゃえ!」
「だ、暖炉に?」
ジニーは見るからに動揺していた。名前は安心させるように笑ってみせる。
「本当は消失呪文で消しちゃうのが一番良いと思うけどね。使える?」
「ううん」
「あたしも。知ってる? 昔のホグワーツは今みたいに水洗じゃなくて、みんなトイレした後、魔法で消失させてたんだって」
「……まさか、そんなの嘘よ」
名前の言葉に、ジニーは漸く小さく笑みを見せた。
彼女は少しだけ元気になったようで、名前に「やってみる」と告げ、寮の方へ戻っていった。なお、分霊箱であるリドルの日記は暖炉に入れても少しも燃えなかったので、ジニーは後日、三階にある使用禁止のトイレに流す事にしたのだが、名前はそれを知らない。
二月になった。相変わらず、ホグワーツ城には不気味な気配が渦巻いていた。アーニーを始めとしたハッフルパフの同級生達は、依然としてハリーを疑っていたし、生徒の大多数がそうだった。
また、猫や生徒だけでなく、既に死んでいるほとんど首無しニックが石になった事から、生徒達は以前にも増して恐怖を抱いていた。名前としても、秘密の部屋の怪物というのは魔法生物ではなく、ケトルバーンが言っていたように闇の魔術の事なのではないかと思えて仕方が無かった。
校長のダンブルドアは、犯人が誰かという問題はあまり気にしなくて良いと言っていた。となるとやはり、本当はスリザリンの継承者など存在せず、闇の魔術そのものが怪物の正体で、それが何らかの要因で勝手に暴走しているのかもしれない。
言いようのない不安感は拭えなかったが、それでも良い事はあった。二月の第一火曜日に、ハーマイオニーが退院したのだ。
「ハーマイオニー!」彼女の姿を見掛けた途端、名前はわっと駆け出して彼女に抱き着いた。
ハーマイオニーはすっかり元通りになっていた。耳も尻尾も無くなっているし、毛も生えていないし、黄色かった目も元の褐色に戻っている。
再会を喜ぶ名前達の後ろで、ハリーとロンが所在なさげにしていた。ハーマイオニーは「久しぶりね」とはにかんだ。
「昨日の薬草学は居なかったよね? まだ長引くのかなって思っちゃった。良かった、みんな心配してたよ」
「ありがとう、名前。さっきやっとマダム・ポンフリーのお許しが出たのよ」
本当なら月曜日から復帰したかったんだけど、と呟くハーマイオニーは本当に悔しそうだ。
勉強熱心な彼女の事だから、授業を一日も無駄にしたくないと思っていたに違いない。ちなみに、彼女が入院している間、ハリーとロンが授業内容をメモした羊皮紙を毎日届けていたそうだ。入院している時くらい休めば良いのに、と名前は思ったが、口を挟まなかった。
名前はハーマイオニーと別れ、ハッフルパフの長テーブルに戻った。名前達の様子を見ていたのだろう、ハンナが「よかったわね」と名前に声を掛けた。
彼女はどうやら、マグル生まれのハーマイオニーが、本当は継承者に襲われたのではないかと疑っていたらしく、心の底からそう思っているようだった。名前は勢い良く頷いて、すっかり冷めてしまった卵を口に運んだ。
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