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スリザリン生で一番仲が良いのは、クラッブを除けば同じ二年生のトレイシー・デイビスだが、彼女はマルフォイのような目立つグループからは離れたところにいた。その為、尋ねても知らないだろうと名前は考えた。ノットは、「マルフォイってスリザリンの継承者なの?」と尋ねられると、かなり怪訝な目で名前を見た。
「何だって?」
「別に? そうじゃないかって疑ってる人が居ただけ」
あたしは違うと思ってるけど、と付け足すと、ノットは暫し考えた様子だった。
ノットはスリザリン生の中でも少しだけ違う立ち位置に居た。彼は名家の生まれらしいのに、同じ格の生徒達とつるまず、むしろ誰かと一緒に居るところを殆ど見なかった。しかし、逆にマルフォイと険悪という話も聞かない。
名前としては彼とは仲が良いと思っていたし、何となく、不躾な質問をしても素直に答えてくれるのではないかという予感があった。ノットと話したい時は、図書室に行けば大抵会うことができる。
「違う」と、ノットが言った。
「継承者が誰なのかは僕も知らない。けど、ドラコじゃない事は確かだ。手伝ってやりたいとはよく言ってるけど」
「へえ〜」
「君、前も継承者が誰か気にしてたね」
そんなに気になるもの?と逆に尋ね返してくるノットに、名前は「まあね」と頷いた。
ノットにしてみれば、純血である名前が、継承者の正体を気にするのは理に適っていないという事らしい。確かに、スリザリンの継承者はマグル生まれの生徒を追い出したいと思っているようだが、それ以外の生徒には――今の所――害は無い。
自身が純血で、そして純血主義の人間からしてみれば、スリザリンの継承者が誰かなど、あまり関係のない話だろう。
はっきりと聞いた事があるわけではなかったが、おそらく、ノットは純血主義だ。
「スリザリンではないの? 誰が怪しいとかさ」
「無いね」ノットは短く言った。
「そりゃあ勿論、噂はあるよ。ドラコも最初の頃は疑われてた。けど、彼は聞かれたら否定するし……君も知ってるかもしれないけど、ドラコは自慢したがる性質だろう。仮に彼本人がスリザリンの継承者だったとしたら、もっと思わせぶりな態度を取ったと思うね」
「そうなんだ」
本を選ぶ手を止め、ノットが名前を見た。「君も疑われてたよ」
名前はぽかんと口を開けた。
「あたし?」
名前の間抜けな反応で、ノットは満足したようだった。「最初の内だけだけどね」
「君、クラッブと仲良いだろう。君の親がスリザリン出身という事は知られた話だしね」
「パパは混血だし、そんな事あるわけなくない?」
彼は肩を竦めてみせた。「まあ結局、候補に挙がったという程度だったよ。それに、ハッフルパフ生がスリザリンの継承者を名乗るなんて厚かましいっていうのが上級生達の意見だった。ただ、僕らは君の事を知ってるから、君みたいなただの女の子が継承者なわけないって言ったんだ。だから早々に候補から外れた」
結局、スリザリンでは候補に挙げられていた生徒は他にも何人か居たが、特に怪しい人物は居ないという結論になったらしい。
「……ふーん、あたしが継承者じゃないって否定してくれたみたいだね。どうもありがとう!」
「僕だって君がそうだと思ってるわけじゃないさ」
流石の名前でも、マルフォイ本人に継承者ではないのかと尋ねる勇気は無かったが、ノットが言ったことは正しいような気がした。つまり、マルフォイは継承者ではないのだ。ハーマイオニー達が直接確かめようとする前に名前に聞いてくれたら、彼女が変身に失敗する事も無かっただろうに。まあ、ノットが言った事をそのまま伝えたとしても、彼らが納得したかどうかは別の話だが。
クリスマス以降、名前は談話室に居る事が多くなった。キングズリーがクリスマスプレゼントにくれた本、『透明術の透明本』を読む為だ。これが厄介な本で、身を隠すための術が書かれた本のようなのだが、表紙も、頁も、何もかもが透明なのだ。
恐らく、キングズリーは秘密の部屋の怪物から身を隠せと言いたかったのだろうが、名付け子が本を読む事自体に苦労するとは思わなかったのだろうか。
同封されていた現れゴムを使い、数ページだけ読んでみたところ、内容自体は興味深かったので、こうして続きも読もうと奮闘している。談話室なら暖かいので、延々と現れゴムをかけていてもあまり苦にならなかった。
「目くらまし術なんて、覚えようとしたって仕方ないでしょう。どうせなら授業で習う呪文をやればいいのに」
「解んないよ、何年か頑張ればいけるかも」名前は現れゴムで透明な頁を擦りながら言った。
名前が読めたのはまだ本の触りの所だけだが、『透明術の透明本』に目くらまし術が載っている事は突き止めていた。
「NEWTレベルよ、使えるわけないわ。それにあなた、呪文学嫌いじゃない」
呆れた様子のスーザン。名前も殆ど同意見だが、試してみる価値はある。
「目くらまし術なんて難しい魔法、どうして知りたいの?」ハンナが不思議そうに尋ねた。
「だって、目くらまし術はマスターしておかなくっちゃ、ヒッポグリフとか飼えないじゃんか」
彼女達は揃って呆れたような声を出した。
ヒッポグリフのような大型の魔法生物は、飼育する際、マグルから見付からないように目くらまし術を掛ける事が義務付けられている。もちろんヒッポグリフを飼う予定は無かったが、将来急に野良ヒッポグリフを拾う事も無いわけではない。となると、目くらまし術は覚えておかなければならないだろう。
「クリスパン・クロンクの二の舞にならないでね」スーザンがぼやいた。
「やあ、名前」
名前が引き続き黙々と現れゴムをかけていると、通り掛かったセドリックに声を掛けられた。
彼はクリスマスからこの方、こうして名前によく声を掛けてくれる。先日は、厨房の場所を教えようとしてくれた。どうやら、ジャスティンが石化した事で、いつもより元気が無い名前を、彼なりに元気付けようとしてくれているらしかった。なお、その時は、名前が既に厨房の場所を知っていたので、セドリックはかなり驚いていたが。
彼は名前が挨拶を返しながらも、熱心に現れゴムをかけ続けているのを見て、「大変そうだね」と言葉を続けた。
「よかったら手伝おうか」
「本当?」名前はパッと顔を上げた。
「もう疲れちゃった。目次も見付からなくて、どこらへんを現せば良いのかも解らないんだよ!」
「なるほど……」
その時、ハンナとスーザンがさっと目を見交わしていたが、名前は現れカスを集めていたので気が付かなかった。彼に言われるまま、透明本をセドリックに渡す。凄く透明なんだね、と呟いているセドリックに、名前は新しい現れゴムを渡そうとした。が、彼は受け取らなかった。
「レベリオ……じゃないな、アパレシウム」
セドリックが何かの呪文を呟きながら杖で本をコツコツと叩くと、杖が触れたところからじわじわと群青色の表紙が現れ出した。
彼は名前に透明だった本を返しながら、隠されている物を見付けるには便利な呪文だよ、と微笑んだ。セドリックは名前が感激し、お礼を言うと思ったのだろう。まさか名前がぷりぷりと怒り出すとは思わなかったに違いない。「折角三十ページくらい現れてたのに……!」
「ずるいよ、何で一気にやれちゃうの?」
「それは……ごめん……?」
当惑しているらしいセドリックに、名前は尚も文句を言おうとしたが、先に言う事がある筈だとスーザンに怒られた。兎も角、名前は透明本を読めるようになったし(セドリックにはきちんとお礼を言った)、その日から目くらまし術を練習し始めた。
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