68
次の日、名前はハリーとロンの姿を探した。見付けたのは大広間だった。今日はボクシングデーだが、屋敷しもべ妖精達は年中無休らしく、普段通りの朝食が並んでいる。ハリー達は、名前が近寄って行くとどちらもぎくっとした顔をした。
「おはよ」
名前が二人をじっと見たまま言うと、彼らは口々に「おはよう」とぼそぼそ言った。
「昨日の事について聞きたいんだけど。二人共、いったい何やってたの?」
ハリーとロンは互いに目を見交わし合った。どうやら名前には言い辛い事らしい。そして、質の悪い夢などではなく、昨日のクラッブとゴイルは本当に彼らだったらしい。
「君、クラッブと仲が良いの、正気?」ロンが言った。
名前がロンを見ると、気まずそうに眼を逸らされる。
「まあね」と名前。「ていうか……ビンセントって無事なんだよね?」
二人が一瞬ぽかんとするので、「クラッブの事」と付け足した。
「大丈夫だよ、ちゃんと目を覚ましてたから」
ハリーはそう言ってから、名前に事の次第を――おそらくだが、全てではない――話してくれた。スリザリンの継承者を突き止めようと思った事、一番怪しいのはマルフォイだと考えた事、クラッブとゴイルに変身して尋ねれば、何か解るのではないかと考えた事。
眠り薬で眠らせ、材料を失敬した後、物置に押し込んだクラッブとゴイルがその後どうなったかは定かではないのだが、ハリーはその事については詳しい説明をしなかった。目を覚ましていたらしいのは事実だし、これ以上正直に――睡眠薬を仕込んだカップケーキを騙して食べさせた、等と素直に言えば、名前が気を悪くすることは解っていた。折角継承者ではないと信じてくれたのに、名前に嫌われたくはない。
かなり突拍子も無い話に、名前は彼らにからかわれているのではないかと思った。しかし、ハリーもロンも大真面目だ。
マルフォイがスリザリンの継承者だというのは、有り得ない事ではないのかもしれないが――。
「でも、違ったんだ。マルフォイは継承者じゃなかった」
「……本人がそう言ったの?」
二人は頷いた。
ホグワーツで見掛けるクラッブは、ほぼいつもマルフォイの後ろを歩いていた。まるでボディーガードか、マグルのSPのように。しかし、名前がクラッブと会う時、マルフォイの話題になる事は殆ど無かった。もちろん名前だってわざわざマルフォイについて話したりはしないが、彼らはさほど仲が良いわけではないのではないかと睨んでいた。
クラッブや、そしてゴイルが継承者について尋ねたとして、マルフォイは真面目に答えてくれるのだろうか。
計画を思い付いたのはハーマイオニーだから、これ以上の事はハーマイオニーに聞いて欲しいとハリーは言った。
「……ハーマイオニーが考えたの? それを?」
「良かった、君もおかしいって思うんだ」ロンがホッとしたように言った。
自分達でも無理がある計画だと思っていたようだ。名前も同じ気持ちだった。
「じゃ、ハーマイオニーに聞くよ。でもハーマイオニーは? まだ起きてきてないの?」
二人は再び目を見交わした。
「えーっと、ハーマイオニーは今、医務室に居る……」
「医務室?」名前はびくっとした。「まさか……」
「違うよ、石になったんじゃない」
身を強張らせた名前を見て、ハリーが急いで否定してくれたので、名前はほっと息をついた。
彼が言うには、ハーマイオニーは少し体調を崩してしまったそうだ。クリスマス・ディナーで見掛けた時は、具合が悪そうには見えなかったが、まあそういう事もあるだろう。
朝食を済ませた後、名前は医務室に向かった。ハーマイオニーのお見舞いに行く為だ。それで体調がましになっていたら、昨晩の偽クラッブと偽ゴイルの計画の事を詳しく聞こうと思っていた。しかし、結局その日、ハーマイオニーには会えず仕舞いだった。
「面会謝絶?」
名前が繰り返すと、マダム・ポンフリーは口をぎゅっと引き結んだまま頷いた。
ハリー達の口振りからして、寒さで風邪を引いてしまった程度のものだと思っていたのだが、想像より悪かったらしい。ベッドの周りにはカーテンが引かれ、患者の姿が見えないように取り計らってあった。
「その、石になってしまったんじゃないんですよね……?」
「大丈夫ですよ、意識はありますから」マダムは少しだけ表情を和らげたが、次の瞬間にはまた元の険しい顔に戻った。「一か月程度入院は必要ですが」
「い、一か月……」
かなり重症だ。マダム・ポンフリーは単純な怪我ならすぐに治してくれるので、よほど難しい病気に掛かってしまったのだろう。いったい何があったのだろうと気にはなったが、マダムが教えてくれないのは目に見えていたし、「お大事にって伝えて下さい」と伝言をお願いして、名前は医務室を後にした。
それから、学校が始まるまでの二週間弱、名前はクリスマスカードの返事を書いたり、貰ったプレゼントで遊んだり、上級生の友達に宿題を手伝って貰ったり、大鍋をかき混ぜたりしながら過ごした。
ハンナは学校が始まる一日前に戻ってきた。名前は彼女の姿を見るや否や、真っ先に駆け寄り、「最高のクリスマスプレゼントをありがとう!」と抱き着いた。
「喜んでもらえて良かったわ。あなたも素敵なプレゼントをありがとう」
「どういたしまして!」名前はにっこりした。「あたし、あんなに嬉しいプレゼント初めて! ハンナが作ってくれたんだよね?」
「ええ。ロコモーターは難しかったから、セドリックに教えてもらったの。その様子だと、ちゃんと動いたみたいね」
「本物みたいで可愛かったよ! あたし、みんなに自慢しちゃった」
「……自慢した? みんなに?」
名前は自分が抱き締めているハンナが身を強張らせたのが解った。「あ、あれを見せたの……?」
「マクゴナガル先生も褒めてくれたよ、移動呪文を上手に使っていますねって」
「し、信じられない……!」
ハンナは顔を赤くさせ、わあわあ喚いた。「せ、先生にまで見せるなんて……!」
名前はパッと腕を話し、ハンナをまじまじと見る。
「だって嬉しかったんだもん。それにマクゴナガル先生だけじゃないよ、学校に居るみんなに見せたんだから」
「冗談でしょう!?」
どうやら、作った本人としては、仲良しの名前やルームメイトくらいなら兎も角、他の誰かに見せるのは恥ずかしかったらしい。人に見せられるような出来ではないというのが彼女の意見だが、名前としてはチョコレート・ドラゴンが凄いから見せびらかしたかっただけではなく、こんなに可愛いドラゴンを名前の為だけに手間暇かけて作ってくれて、そしてプレゼントしてくれた友達が居る事自体を自慢したかったのであって、彼女が嫌がる理由がいまいち解らない。
名前が本当に学校に居る全員に自慢したと知ったら、彼女は何と言うだろう。
ハンナは「もう二度と貴方にハンドメイドの贈り物はしないわ!」と真っ赤な顔で宣言し、名前は彼女の言い方がおかしくてけらけらと笑った。なお、ハンナは本当にこのチョコレート・ドラゴン以降、手作りの物を二度とプレゼントしてくれなかった。
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