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 決闘クラブの告知が玄関ホールに貼り出され、生徒達はにわかに活気付いた。皆、鬱屈とした雰囲気を吹き飛ばす何かを求めていたし、ホグワーツで禁止されている決闘を大々的に行える機会を逃すのは勿体ないと考える生徒が多かった。名前はというと、決闘自体には大して興味が無かったが、仲良しのハンナ達が楽しそうにしているのを見て、彼女達と一緒に参加することに決めた。
 名前達は日曜の夜、仲良しの五人で一緒に大広間を訪れた。どうやら学校中が参加するらしく、大勢の生徒がひしめき合っていた。普段の長テーブルは隅に寄せられており、一方の壁側に決闘用の舞台が出来ていた。
「――誰が教えるって言ってたっけ」
 派手な色の舞台に半ば予想が付いていたが、名前は一人呟いた。が、生徒達の――主に女子生徒の歓声に飲み込まれ、宙に消える。現れたのはロックハートだ。その後ろにはスネイプが居る。名前はこのクラブの先行きがいきなり不安になった。
 教師で考えられる組み合わせの中で一番最悪なんじゃないかと名前がぼやくと、隣に立つアーニーはかなり笑いたそうな顔をしていたが、何とか堪えていた。ハンナとスーザン、そしてジャスティンは、ロックハートの登場に惚れ惚れとしている。ちなみに、今日のロックハートのローブは深紫色だ。
「あれだけ沢山の怪物に立ち向かった先生だ。これで安心だ、そうでしょう?」
 そう言って名前達を見たジャスティンは、心の底からそう思っているらしい。名前とアーニーは曖昧な笑みを返すことしかできなかった。いくらマグル生まれとはいえ、あんまり信じすぎじゃないだろうか。


 おそらくこのクラブの発起人はロックハートで、スネイプはそれに嫌々付き合わされているのだろう。決闘というからには相手が必要だし、数百人もの未成年の魔法使いを相手にするのだから、教師が一人きりというのもまずい。
 スネイプはホグワーツの教師の中では若手だから、ひょっとするとロックハートの相手役を他の先生達から押し付けられたのかもしれない。名前はそんな事を思った。確か、マグル学の先生の方がスネイプより年齢は若い筈だが、彼にも騎士道精神があったという事なのだろう。もしくは、ロックハートを合法的に吹き飛ばせる機会を、スネイプが逃さなかったのかもしれない。
 既に何人かの上級生は、彼らの顔触れを見て、早々に大広間から離脱していた。それが賢いかもなと思いつつも、名前はロックハートが話すのを待った。

 ロックハートが開会の挨拶をし、まず教師二人が決闘の模範演技をする事になった。一礼をし、杖を構える。正式な決闘の作法だ。
 それからロックハートは煌びやかに杖を振ったが、スネイプの動きは速かった。フリットウィックは決闘士だったらしいと噂があったが、スネイプの杖捌きもなかなかだ。ロックハートが魔法を掛けようとしたその時には、彼の杖は手から離れていた。スネイプが武装解除の呪文を使ったのだ。主にスリザリン生から歓声が上がった。
 吹き飛ばされたロックハートはよろよろと立ち上がり、舞台に戻った。
「さあ、みんな解ったでしょうね!」
 壁に激突した余波で、いつものヘアセットがすっかり崩れていたが、それでもロックハートは笑顔を浮かべていた。女の子達から安堵の溜息が上がる。
「スネイプ先生、確かに、生徒にあの術を見せようとしたのは素晴らしいお考えです。しかし遠慮なく一言申し上げれば、先生が何をなさろうとしたかが、あまりにも見え透いていましたね。それを止めようと思えば、いとも簡単だったでしょう。しかし、生徒に見せた方が、教育的に良いと思いましてね……」
 あまりにも遠慮のない一言だったが、ロックハートはそれ以上続けなかった。自分の相方が、自身の信奉者ではない事に漸く気が付いたらしい。名前は今から本物の決闘が始まるのではないかと一瞬心配したが、流石のスネイプもそこまでではないようだ。かなり険悪な顔をしているが。

 二人で組になり、決闘を行う事になった。もちろん本当の決闘ではないし、使う魔法も先程の武装解除術と決められている。名前はハンナか、もしくはスーザンとやるつもりだったが、どうやら寮の違う生徒間を交流させようという狙いもあるのか、ロックハート達が生徒の中を歩き、それぞれ別の寮の生徒と組を作らせた。名前も近くに居た別の寮の二年生と行う事になった。双子のパチル姉妹の片割れだ。隣に居るのがラベンダーなので、おそらくパーバティだろう。
 名前とパーバティはロックハートの合図で礼をし、それから杖を構えた。
「武器を取り上げるだけですよ」ロックハートが生徒達に向けて念を押した。「一――二――三――」
 名前は三の合図で「エクスペリアームス!」と叫んだ。
 パーバティも同じように杖を振っていたが、どうやら名前の方が少し早かったようで、名前の武装解除呪文で弾かれた彼女の杖はくるくると回って名前の手元に飛んできていた。
「すごいわ」
 パーバティが感心したように言った。名前はお礼を言いつつ彼女に駆け寄り、杖を返す。
「このクラブ、本当に為になると思う?」
 名前がひそひそとそう尋ねると、パーバティは困ったような顔をした。名前達のように上手く――もしくはお上品に――武装解除した組は、そう多くなかった。ロックハートの合図で生徒達は呪文をかけ合う筈だったが、「三」の合図の前に杖を振っていた生徒も大勢居たし、名前が見たところ、武装解除呪文でない呪文を使っている組も多かった。もちろん、上手く武装解除が使えなかった生徒も多く居たようだ。
 魔法が不発だったのは兎も角、ふざけてやっている生徒の方が多いのは問題だ。初回でこれなら、既にクラブの体を成していない。ロックハート(と、スネイプ)がこの状況を改善できるとは思えないし、参加はこれきりにした方が良さそうだ。
 スネイプが汎用的な反対呪文を大広間全体に掛けるまで、あちらこちらで惨事が起こっていた。クラゲのように足がふにゃふにゃになったり、鼻から蝙蝠が生えたり。なるべくしてなった、そんな感じだ。隣のロン・ウィーズリーとシェーマス・フィネガンの組だけは、悪ふざけの産物ではないようだったが。
「――むしろ、非友好的な術の防ぎ方をお教えする方が良いようですね」
 生徒達の混乱を何とか鎮めた後、ロックハートはそう言ったが、スネイプは返事をしなかった。

 ロックハートは決闘クラブの方向性を変え、防衛向きの呪文を教える事にしたようだった。模範演技の為、ジャスティンと、彼と組になっていたネビルに打診したが、スネイプがやめさせた。ジャスティンは憧れのロックハートからの指名が無かったことになり、少々がっかりしたようだった。
「ロングボトムは、簡単極まりない呪文でさえ惨事を引き起こす。フィンチ‐フレッチリーの残骸を、マッチ箱に入れて医務室に運び込むのがオチでしょうな」
 名前はネビルが羞恥で顔を赤くしたのを見た。スネイプは名前に対しても意地悪だが、どうやらネビルに対してもそうらしい。
 その後、スネイプはジャスティン達の代わりに、ハリーとマルフォイの組を指名した。二人は舞台の両端に別れて立ち、それぞれ教師の指示を仰いだ。マルフォイは当然、寮監のスネイプが指導している。
「ハリーったら、お気の毒ね」
 そうだね、ロックハートのアドバイスなんて役に立たなそうだもん。名前はそう言おうか言うまいか直前まで迷っていたが、結局「そうだね」と言うだけに留めた。次の瞬間、「彼、自分から目立とうとはしないし。でもそれなら、わたしが代わって欲しいくらいだわ。ロックハート先生ならきっと、良い魔法を教えてくれるもの」とパーバティが言ったので、名前は自分の選択を褒め称えた。
「どっちが勝つかな」
「そりゃ、ハリーよ。だって生き残った男の子よ?」
 パーバティはそう言ったが、あまり言葉通りに信じてはいないようだ。名前達は二年生だし、人に向けて魔法を使うのは慣れていない。決闘に使える魔法なら尚更だ。ハリー・ポッターは確かに礼のあの人を打ち破ったことで有名だが、誰彼構わず呪いを掛けたりする男の子ではない。
 去年、廊下で会ったネビルがいかにぴったり足をくっつけていたかを思い出すと、むしろマルフォイの方にやや分があるかもしれない。
 名前はそんな事を考えながら、成り行きを見守った。
 大広間に居た誰もが想像もしなかった事が起きたのは、それからすぐ後のことだった。あのハリー・ポッターが、パーセルタングを話したのだ。


 マルフォイが魔法で蛇を生み出したまでならまだ良かった。スリザリン生だし、スネイプが入れ知恵したのだろうと誰もが考えた。しかし蛇を消そうとしたロックハートが失敗し、怒った蛇が近くに居たジャスティンに襲い掛かろうとした。ハリーが話した蛇語によって。

 憤慨して出て行ったジャスティンを、名前は走って追い掛けた。追い付いたのは談話室に入ってからだったが。
 ジャスティンは近くのソファに腰を下ろしていた。顔面は蒼白で、強張っている。名前が隣に座り、「大丈夫?」と話し掛けると、彼はびくりと体を揺らした。
「僕がマグル生まれだからですか?」ジャスティンが言った。
「僕の両親がマグルだから……魔法が使えない人達だからというだけで、僕はこんな目に遭わなければならないのですか?」
「そんな事、絶対にあるわけないよ」
 名前ははっきりとそう言ったが、彼に届いたかはよく解らなかった。
 その後、同じく走って追い掛けて来たアーニー達同級生がジャスティンを取り囲み、これからは一人で行動しない方が良いだの、パーセルマウスは闇の魔法使いの証だなどと話していた。


 明くる日の月曜日。一時間目の授業はグリフィンドールとの合同の薬草学だったが、猛吹雪の影響で休講になった。それを名前達に知らせてくれたのは寮付きゴーストの太った修道士で、どうやら天気自体が問題なのではなく、気温が急激に下がったことにより、マンドレイクの世話が増えたので、その為の休講という事なのだそうだ。靴下を履かせるらしい。
 マンドレイクに靴下を履かせたり、マフラーを巻いたりするのはちょっと面白そうだと思ったが、名前は授業が無くなって良かったと思った。ハリー・ポッターがスリザリンの継承者である可能性が高まった今、その彼が居る授業は雰囲気が悪くなること請け合いだからだ。
 名前が降ってわいた自由時間をどうしようかなと考えていると、隣に誰かが腰掛けた。ジャスティンだ。名前はトーストで口をもごもごさせながら、「おはよう」と言った。
「おはようございます」
 名前がこうして一人で行動しているのは珍しいことではなかったが、ジャスティンが朝食時に一人なのはかなり珍しいことだ。近頃では特に。
 「何で一人なの?」という言葉は飲み込み、「薬草学休講なんだって」と話し掛けた。
「もう少し早く教えてくれたら、まだ寝れたのにね」
「そんな事を言って。君、どうせ今からもう一度寝るつもりでしょう」
 お見通しだとでも言いたげな彼の表情に、名前も笑った。

 少なくとも、ジャスティンは至極いつも通りに見えた。昨夜のような、涙を堪えている顔ではなく、普段通りのジャスティン・フィンチ‐フレッチリーに。
 君はポッターとも友達なんですかと尋ねられ、名前は返事に困った。
「……そうだって言ったら?」
「――すみません、意地の悪い聞き方をしましたね」
 ジャスティンは肩を揺らした。「名前が、彼の事をどう思ってるのか知りたくて」

 蛇をけしかけられたのは自分な筈なのに、少なくとも、今のジャスティンは怒っているわけではないようだった。昨晩は確かに憤っていたし、怖がっていた。名前だったら、怒って何故あんな事をしたのかと尋ねるか、もしくは今後一切の関係を断とうとしたかもしれないのに。しかしながら、ジャスティンはどこまでも普段通りに見えた。
「……ハーマイオニーとは友達だけど、ハリーのことはまだあんまり知らなくて」名前は本当の事を言った。「でも、ハリーのことは知らないけど、ジャスティンの事はよく知ってるよ。ジャスティンはあんな、悪ふざけをされたりするような事、してないって」
 ジャスティンは何も言わず、名前を見ていた。
 それにハーマイオニーはマグル生まれだし、ハリーの親戚はマグルだって聞いてるから、スリザリンの継承者じゃないとは思ってるよと付け足すと、彼は小さく「そうですね……」と呟いた。
 名前には、彼が何を思ったのか解らなかった。ジャスティンは朝食を食べたら寮に戻ると言うので(「アーニー、僕に隠れておけなんて言うんですよ……」)、名前も先に寮に戻った。しかしその一時間後、名前はその選択を後悔することになる。

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