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 スリザリンの継承者を名乗る生徒は一向に捕まらず、クィディッチシーズンが始まった。試合後、事件も起きたようだったが、名前は観戦帰りの同寮生達が楽しそうにしているのを見て、このまま何事もなく済んでいくのではないかと感じた。
 猫を石に変えたのはちょっとした悪ふざけであり、公表されてはいないだけで、犯人はもう既に罰則を受けているのではないかと。
 しかしながら、第二の犠牲者はその日の内に現れてしまった。

 グリフィンドールの一年生――あの、カメラが好きな子だ――が石になったと名前達が知ったのは、次の日になってからだった。
 その一年生は消灯時間を過ぎた頃に廊下をうろついていたらしいが、それでも石に変えられてしまうほど悪い事はしていない筈だ。
「嫌いなんだよな、マグル生まれってやつ」
 名前は顔を上げ、隣に座るザカリアスを見たが、ぽつりと零れたそれを聞かれているとは思わなかったのか、ザカリアスは食べていたトーストを無理やり口に押し込むと、ちょうどやってきた同級生達の方へ黙って歩いていってしまった。名前は小さく溜息をつき、彼に倣ってジャスティンの隣を確保すべく立ち上がった。

 古き良き純血主義を尊ぶ人達は兎も角、名前としては、誰が魔法族出身だとか、あの子はハーフだとか、そういった事をこれまで気にしたことがなかった。せいぜい、相手がマグル界育ちで魔法界のジョークが通じなかった時等に、あの子は家族がマグルのようだから次からはもう少し解りやすく話しを振ろうかなとか、そう思うくらいだ。それがこの継承者騒ぎのせいで、誰が混血だとか、マグル生まれだとか、純血だとかが、何となく解るようになってしまった。
 正直、かなり嫌な気分だ。
 ホグワーツ全体でどのくらい居るのかまでは流石に把握できないが、同学年には少なくとも五人程度のマグル生まれが居るようだった。ハッフルパフには一人だけだ。
 名前達魔法族生まれのハッフルパフ生は、誰ともなくジャスティンの近くに居るようになった。暫くするとジャスティンの方も名前達の真意に気付いたらしいが、苦笑を浮かべはしたものの、何かを言ったりはしなかった。

 マグル生まれでなくても、気落ちしている生徒は大勢居た。ジニー・ウィーズリーはいつ見掛けても元気がなく、相当落ち込んでいるようだった。名前は普段のジニーを知らないので、大人しい子なのだろうと思っていたのだが、彼女の兄達に言わせるとそういうわけでもないらしい。
「ロンのやつは、あの子が猫好きだからだろうって言ってたけどな」
「ジニーはコリンと仲が良かったんだ」フレッドはそう言ってから、「相当滅入ってるよ」と付け足した。
「パースも色々世話を焼いてるけど、ありゃ逆効果だな」
「君も気に掛けてやってくれよな」
 ジョージにそう言われ、名前は頷いたが、「全身から毛を生やしたらジニーは面白がると思うか?」という問いには首を横に振った(なお、フレッドとジョージは結局実行し、監督生に怒られたらしい)。


 声を掛けてきたスリザリンの四年生に、名前は喜んで代金を支払おうとしていたのだが、寸前になって「そんなに良いものなら僕も買うよ」と横槍が入った。魔除けになるという銀の蝋燭を受け取ったのは、名前ではなくノットだった。
 ノットは名前と同じ二年生であり、名前の前に立っているのは四年生だったのだが、どうやら彼はノットに遠慮しているようで、「いや……」とか何とかもごもご言った。
「セオドールも欲しいの? ムーンカーフの糞を使った蝋燭なんて、なかなかお目に掛かれないもんね」
 名前の言葉にぎょっとしたのは四年生の男子生徒だけでなく、ノットも同じだった。彼が呆気に取られている内に、四年生はそそくさと蝋燭を奪い返し、そのまま何も言わず去って行った。
「……君、あれが偽物だって知ってて買おうとしてたのかい?」
「だって、ムーンカーフの糞なんてなかなか手に入らないよ。満月の時にしか取れないし。魔法生物飼育学でやったのかな」
「………………」
 珍しい事に、ノットはどう返事をしようか迷っているようだった。頭の回転が速い彼が言葉に詰まることは滅多にない。

 二人目の犠牲者が出てからというもの、ホグワーツでは継承者避けの魔除けグッズがそこら中で出回るようになった。名前の友達にも、何人かそういうお守りを持ち歩いている人が居る。大抵は偽物だし、どうやら例年OWLやNEWTの時期にも流行るようで、下級生が主に引っ掛かるのだ。
 先ほどの四年生も、名前が二年生だと見て話し掛けて来たのだろう。もっとも、純血主義に則った言い方をするならば名前は正真正銘の純血なので、例え偽物が出回っていると知らなくても、特に買いたいとは思わないのだが。買おうとしていたのも、ムーンカーフの糞が混ざった蝋燭を燃やせばどんな匂いがするのか知りたかっただけだ。多分、臭いだけだろうが。
 よく知ってるねと口にするノットに、ガブリエルが教えてくれたんだよと名前は笑った。
「わざわざ心配してくれたの?」
「――まさか」ノットは素っ気なく言った。「僕は君に用があったんだ。これ、君のじゃないか?」
 ノットが差し出してきたのは、見覚えのある分厚い本だった。『ホグワーツの歴史』。受け取ると、ホグワーツの蔵書ではなく個人の持ち物で、表紙には見慣れた字で「又貸し可。最後の人は名前まで」と書かれた羊皮紙がぞんざいに貼られている。記憶にあるよりも少々くたびれているのは、生徒達の手から手と渡っていったからだろう。
「あたしのだ。どうもありがとう」
「名前が君の事で良かったよ。名前って名前の子を城中探し回らなきゃならないところだった」
 手当たり次第女の子に声を掛けているノットを想像すると、正直かなり面白い。彼は一人で居る事が多いし、女の子と一緒に居る場面を殆ど見た事がないからだ。何なら、スリザリンの同級生ですら、一緒に居るところをあまり見掛けない。
 けらけらと笑い出した名前に、ノットは姓も書くべきだと呆れたように言った。
「次からはそうするよ。他の寮まで行くと思ってなかったんだもん」
「ああ、そういう事か」
 彼が図書室に行くというので、名前も便乗することにした。まだ魔法史のレポートが終わっていないのだ。ビンズはとやかく言う方じゃないし、ノットは名前がレポートを丸々写してもあまり文句を言わない。
 スリザリンの継承者は誰だと思うかと尋ねると、ノットはちらりと視線を寄越したが、「さあね」と興味無さそうに口にしただけだった。

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