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大広間に着くと、前の方の席に生徒が固まっているような気がした。朝一番で手紙を出しに行ったので出遅れたかなと思うも、どうやら事情は違うようだとすぐに気付く。前の方に座っている生徒達、その大半は女子生徒だった。
ハッフルパフの長テーブルの前の方にハンナとスーザンが座っているのを見付けたが、暫く考えてから近くに居たアーニー達の所に入れてもらった。
「遅かったね、これ、時間割――」
名前が差し出された時間割を受け取ろうとした時、女の人の特大の怒声が鼓膜を突き破った。「車を盗み出すなんて!」
本物の何倍にも増幅された吼えメールの声は、大広間中に轟いた。響き渡ったなんてもんじゃない。昨年、ネビルが受け取ったのを見た時は屋外だったので、あれでもまだマシだったのだと思い知らされた。窓ガラスは揺れ、天井からは塵や埃が落ちてきて、スプーンやゴブレットはカタカタと震える。何なら頭も揺れていて、耳を塞いでも怒鳴り声は生徒達の耳に届いた。
それから丸々二分間、説教は続いた。嫌でも耳に入ってくる声によると、どうやらハリーが空飛ぶ車で登校し、そして暴れ柳に衝突したのは事実で、そして車の持ち主はこの怒鳴り声の主の夫だったらしい。
幸いだったのは、ハリーとこの吼えメールの受け取り主が友達だったらしいという事だろう。車を盗んだわけではない。勝手に持ち出してはいるようだが。夏休みの間、フレッドとジョージが部屋に閉じ込められたというハリーをどうやって連れ出してきたか、名前は何となく解った気がした。
ウィーズリー夫人の大声が聞こえなくなると、名前は恐る恐る耳から手を外した。どうせ朝食に遅れるなら、これが終わってから来たかった。静まり返っていた大広間は、やがていつものざわめきを――笑い声混じりだ――取り戻していた。
「――最初の授業は薬草学だって」
名前がそう言うと、アーニーがちらっと名前を見た。
「君、今の全然気にならないのかい?」
「うーん」名前は流そうとしたが、失敗した。
吼えメールは受け取り主の名前を呼ばなかったが、彼らは車の持ち主の子供に目星を付けたようだった。正直、見たところ、ハリーは交友関係が広い方ではないので仕方がないとも言える。もしくは、ホグワーツ特急でハーマイオニーが二人を探しに来たからかもしれない。
アーニー達は、ウィーズリー家があの車を持ってたんだろうかとか、本当に車を飛ばす魔法を掛けたんだろうかとか、ウィーズリー氏は魔法省でマグル関係の部署に就いてると聞いた事があるから実験か何かの産物だったのかもしれないとか、そんな事を話していた。
朝食を食べ終えると、名前達は一緒に城の外の温室へと向かった。後からやってきたハンナ達に、名前は彼女達を上手く見付けられなかったと嘯いた。それから少しするとスプラウト先生がやってきた。ロックハート先生と一緒に。
ハンナを始めとした女子生徒達(と、ジャスティンを含めた何人かの男子生徒達)が色めき立った。今日のローブはトルコ石色だ。
「やあ、皆さん!」ロックハートが挨拶した。
「スプラウト先生に『暴れ柳』の正しい治療法をお見せしていましてね――」
名前達の寮監、スプラウト先生は、どういうわけか沢山の包帯を抱えていたが、どうやら昨日車に衝突された暴れ柳を治療していたからだったらしい。木にどうやって包帯を使うのかは解らないが、恐らく枝葉の補強に使うのだろう。
「――たまたま私、旅の途中、『暴れ柳』というエキゾチックな植物に出遭ったことがあるだけですから……」
「みんな、今日は三号温室へ!」
ロックハートの言葉を打ち切るように、スプラウト先生が端的に言った。普段、滅多に怒ったり苛々したりしない先生だが、今日は随分とご機嫌斜めらしい。
昨日の歓迎会の時にも感じたが、ホグワーツの教師陣は、新任のロックハートの事があまり好きではないようだった。彼が紹介された時、周りの先生達はかなり堅い表情をしていた。生真面目な人が多いので、ロックハートのようなよく喋るタイプの人とはそりが合わないのかもしれない。少なくとも、名前のように何となく好きじゃないというわけではないだろう。
生徒達が初めて入る三号温室に足を踏み入れている時、ロックハートが何やらスプラウト先生に話し掛け、それからハリーの肩を抱いて温室のドアを閉めてしまった。スプラウト先生がどこかぴりぴりしているので、名前達のおしゃべりは何となく控えめだ。
温室の中は去年まで使っていた一号温室と違い、どこか毒々しい植物が多いようだった。名前には生えている樹や、鉢植えで咲いている花の殆どが解らなかったし、並べられている耳当てを何に使うのか見当も付かなかったので、ジャスティンに聞こうとしたのだが、彼はちらちらと温室の外を伺っているようだったので結局何も聞かなかった。
始業の合図が鳴っても、スプラウト先生は暫く黙ったままだった。
数分後、ハリーは温室に入ってきて、彼が位置に着くと、先生が講義を始めた。マンドレイクという植物について勉強するらしい。
ハーマイオニーが先生の問いにすらすらと答えているのを聞きながら、名前は教室の前の方に並べられている植物を見た。時折、葉っぱが独りでに揺れている。「姿形を変えられたり、呪いをかけられたりした人を元の姿に戻すのに使われます」
それからもう一つスプラウト先生が質問をして(これに答えたのもハーマイオニーだった)、植え替えを行う事になった。先生が手本を見せてくれると言うので、名前達は先生の合図で耳当てを付け、マンドレイクの叫び声に備えた。耳当てには沈黙呪文が重ね掛けされているのか、耳を覆うと少しも音が聞こえなくなった。緩やかに聞こえてくる低音は、きっと名前の心臓の音だ。
スプラウト先生がマンドレイクを引き抜くと、人間の赤ん坊を縮めたような泥まみれの根っこが泣き叫んでいるのが見えた。あらん限りの声で泣いているのだろうが、泣き声は全く聞こえない。先生は手慣れた動作で違う鉢に植え直すと、生徒達に耳当てを取るように合図した。
それから名前達は四人一組になり、マンドレイクの植え替え作業を始めた。名前達の所にはアーニーが加わり、ジャスティンは近くで三人組だったハリー達の組へ加わった。
ジャスティンはハリー達と知り合いだっただろうかと思ったが、どうやら実際に話すのは初めてだったようで、簡単に自己紹介がするのが聞こえてくる。
「――僕、ほら、イートン校に行くことが決まってましたけど、こっちの学校に来れて、本当にうれしい――」
ハンナとスーザンが延々とロックハートについて盛り上がっているので、名前は自分がハリー達の所に入れて貰えば良かったと呟いた。いかに完璧な角度で髪の毛がセットされていたかなんて、まったくもって興味が無い。
「よしてくれ」アーニーがハンナ達に聞こえないように小さく言った。本当に嫌そうな顔をしている。「ジャスティンを一緒にしたら、彼ら、本当にロックハートとしか言えなくなっちゃうよ」
簡単そうに見えた植え替え作業は、授業時間いっぱい使うことになった。不細工な赤ん坊達が土から離れた寒さに嫌がって暴れ回るので、かなり骨の折れる作業だったからだ。マンドレイクは栽培自体が難しいので希少価値が高いと先生が言っていたが、確かにマンドレイクの育苗業者にだけはなりたくない。名前達は泥まみれになりながら、次の授業へと向かった。
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