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次の日の朝、名前は朝早くに目を覚ました。それから手早く着替え、ハンナに書置きを残し、梟小屋へと向かった。チャーリーに手紙を出す為だ。
名前は彼に、ジニーがグリフィンドールに選ばれた事を一早く伝えてあげようと思っていた。もちろんジニー本人や、他の兄弟が知らせるだろう事は解っているが、恐らく実家への手紙が先だし、外国に居るチャーリーは後回しにされるだろう。答えが殆ど解り切っているとはいえ、やはり知りたい事には変わりない筈だ。
名前は手紙の大半を夏休みの内に書いており、寮の名を書くだけにしておいたので、こうしてすぐに手紙を出しに行くことが出来た。本当なら昨日の内に出しておきたかったのだが、梟小屋は西塔にあるし、夜に出歩くわけにもいかないので、こうして朝一番で出しに来たというわけだ。
名前はてっきり一番乗りだと思ったのだが、梟小屋には先客が居た。ドラコ・マルフォイだ。
名前がマルフォイの姿に気付いたのと同じように、マルフォイも名前に気付いたようだった。「おはよー!」と声を掛けると、微かな目礼が返される。
彼の近くの止まり木には、見事なワシミミズクが止まっていた。名前はそのミミズクがマルフォイ家の梟だと知っている。朝食の際、スリザリンの長テーブルに降り立つ場面を何度か見た事があるのだ。
この距離で話し掛けないのも不自然かと思い、名前は「ビンセントは一緒じゃないの?」と尋ねた。
「……ああ」
「ふーん、珍しいね」
名前の幼馴染のビンセント・クラッブは、学校生活の大半をこの少年と過ごしているようだった。他の友達居ないの?と何度か尋ねていたが、クラッブはその都度微妙な顔をするだけで、返事をしないのが常だった。そのクラッブは一緒に居ないし、同じくよく一緒に居るグレゴリー・ゴイルの姿も無い。
マルフォイとはクラッブを通じて顔見知りではあるが、これまで殆ど話した事が無かった。あまり良い噂を聞かないので、積極的に仲良くなりたいとも思わないのが現状だ。
名前は飼い梟のデメテルを探した――居た。やはりシロフクロウの隣に留まっている。
メンフクロウは小柄だし、体の前方は白色をしているので、彼女の隣に居れば名前から隠れられると思っているのかもしれない。が、ホグワーツにはシロフクロウは殆ど居らず、名前が目立つ彼女を頼りに、デメテルを探している事には気付いていないようだった。
「またよろしくね、デメテル」
名前はそう言って自分の梟に手紙を託そうとしたが、デメテルはギャーッと鳴き声を上げた。拒否している。名前は眉を上げた。
直近の手紙は、夏にハンナ宛の手紙を運ばせたくらいだ――一瞬そう考えたが、そういえばつい昨日ハーマイオニーに貸したのだった。
名前は知らなかったが、デメテルはハーマイオニーからの手紙をハリーに届ける為、フォード・アングリアを追い掛けてグレートブリテン島を殆ど縦断していた。ハリーとロンは、自分達を追い掛けてくる梟に少しも気が付かなかったのだ。最終的に暴れ柳に殴られそうになるし、アングリアから弾き出されたハリーの頭に投げる形で手紙を届けたデメテルは、心身共に疲れ切っていた。その上、ドーバー海峡を渡っての長距離飛行など冗談じゃない。
しかし名前は当然そんな梟事情を知らなかったので、デメテルが何故嫌がるのか解らなかった。何となくくたびれているようには見えるが、まだ若い梟だし、速達でもないのでそれほど拒否する理由は無い筈なのだが。
名前がデメテルに手紙を括ろうと悪戦苦闘していると、そんな様子を見かねてなのか、「うちの梟を貸そうか」と声が掛かった。声の主は当然マルフォイだ。
「随分と疲れているみたいだけど」
まさか話し掛けられるとは思わず、名前が彼の顔を見詰めると、その眉間に微かな皺ができる。どうやら完全に善意の申し出だったようだ。あのドラコ・マルフォイが。
「あー……」名前は考えながら話した。「ううん、いいよ。ありがとう。送り先ルーマニアだから長く掛かっちゃうの。そんなに借りてられないし、その子も嫌そうだし、気持ちだけ貰っておくね。どうもありがとう」
名前の返事に、マルフォイは自分の傍らに佇むワシミミズクを見た。今でこそきりっとした顔をしているが、先程名前が「ルーマニア」と言った時、彼の耳のような羽がぴくっと動いたのを名前は目撃していた。
会話は打ち切ったつもりだったが、意外にもマルフォイは再び話し掛けてきた。名家のマルフォイ家の一人息子で、とびきりの純血主義のマルフォイ。てっきり名前のような一般生徒は――誰彼ともなく良い顔をする、純血主義の真逆を行くような名前の事は嫌いなのだと思っていたが、どうやら会話をするくらいは許容範囲らしい。もしくは、名前がクラッブの友達なので、ある程度気を回しているのかもしれない。
「ルーマニアにペンパルでも居るのか?」
「んー……まあ、そうだね」
言葉に迷ったのは答えたくなかったのではなく、ペンフレンドと言って良い相手なのか判断に困ったからだ。チャーリーは知り合いのドラゴン使いというだけで、友達ではない筈だ。しかし考えてみれば、始めの方のやり取り以外は特別大事な要件があって手紙を出しているわけではないので、歳の離れた文通友達と言っても良いのかもしれない。チャーリーはノーベルタを始めとしたドラゴンの写真を送ってくれたり、名前はそれにお礼を書いたり、宿題の愚痴を書いて送ったりしていた。
名前が「背、伸びた?」と言ったのは、単なる雑談のつもりだった。「まあ三か月ぶりくらいだし、背も伸びるよね」
マルフォイの返事が遅いので、名前はデメテルの脚に手紙を結わおうとするのをやめ、彼を見た。マルフォイはどういうわけか、ややショックを受けたような顔をしている。
「あ、会っただろう。先月、ダイアゴン横丁で」
「ダイアゴン横丁?」
思い掛けないマルフォイの言葉に、名前は言われた単語を繰り返した。ダイアゴン横丁。確かに、名前はハンナと共にダイアゴン横丁に行った。しかし、彼と話しただろうか。そもそもマルフォイと話した事も殆ど無いのだ。会っていたなら、忘れる事も無いと思うのだが。
名前が思い出せないでいると、マルフォイは「君もフローリアン・アンド・ブロッツに居ただろう」とやや焦れたように言った。
ダイアゴン横丁に行ったあの日、名前はハンナの教科書を買う為にブロッツ書店に立ち寄った。そこではロックハートのサイン会が行われていたのだ。それから――ウィーズリー氏とマルフォイ氏が揉めて、殴り合いの乱闘になった。次の日には一面記事でこそないものの、書店での殴り合いの事が日刊予言者新聞に載っていた。
ウィーズリー氏が殴ったのはマルフォイ氏、つまりマルフォイの父親だ。そう考えてみると、そういえばドラコも一緒にあの場に居たかもしれない。
「――……ああ」
君はあれを“会った”って言うの?と名前は言おうとしたが、マルフォイはどういうわけか怒ったように梟小屋を出て行った。マルフォイ家のワシミミズクは置いてきぼりだ。慌てて「手紙、出さないの?」と呼び掛けると、マルフォイは再び梟小屋に戻ってきて、手早い動作で手紙を括りつけ、再び梟小屋を出て行った。
暫くしてから、「彼、ちょっと変わってるね」と名前は呟いた。デメテルに向けて言ったつもりだったのだが、彼は飼い主の問い掛けを無視し、代わりに隣のシロフクロウがホーと返事をしてくれた。
名前は近くに居た学校の梟――梟を飼っていない生徒が郵便を出せるように、誰でも使って良い梟が何羽か飼われている――に向け、誰かルーマニアに行ってくれないかと呼び掛けたが、デメテルが再び怒ったように鋭く鳴いて手紙を奪おうとしたので、名前は予定通り彼の脚に手紙を結び付けた。どうやら配達には行きたくないが、飼い主が他の梟を頼ろうとするのはもっと気に食わないらしい。名前はデメテルが飛び立つのを見届けてから、朝食を食べに大広間に向かった。
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