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汽車は終着点であるホグズミード駅に無事に停車し、名前達は押し合いながらプラットホームに降り立った。結局、デメテルは戻ってこなかった。もっとも、手紙を届けた後、ハーマイオニーの所へ戻っている可能性もあるが(その場合、生徒達の荷物と一緒に城に運ばれることになるだろう)。去年と同じように、ハグリッドが「イッチ年生!」と声を張り上げている。
恐々前へ進む新入生に道を譲ってから、名前達は生徒の波に従って歩いた。在校生への案内は無かったが、上級生達はどこへ向かえば良いのか当然知っているのだ。駅から少し歩くと広い停車場があり、セストラルに牽かれた黒い馬車が百台ほど停まっていた。全てホグワーツの馬車だ。
馬車に乗る順番を待っている時、名前は少し離れた所に二つ揃った赤毛を見付けた。
「ちょっと先行ってて、戻ってこなかったら先に乗って行って良いから」
どこへ行くの?と尋ねるハンナの声が追い掛けて来たが、名前は手を振るだけに留めた。フレッドとジョージは、名前が声を掛けると揃って振り返った。その隣には、見知った黒人の四年生の姿もある。
「やあ」フレッドとジョージが言った。
「ロンとハリーが乗り遅れたかもって、聞いた?」
双子が目を見交わした。
「聞いたよ」そう言ったのは、恐らくジョージだ。
――名前は未だ、二人の区別が付いていなかった。二人は一卵性の双子だが、どうも恰好まで寄せている節がある。ソバカスの位置まで同じなのは仕方がないにしても、髪型くらい別々にしてくれても良いんじゃないだろうか。まあ、仮に見分けがつくように図らってくれたところで、わざと特徴を入れ替えてからかってきそうでもあるが。
「ハーマイオニー、去年も何か探してたよな。まったく、弟も隅に置けないよ」
フレッドの軽い口振りに、名前も何となく落ち着いた。ハーマイオニーやハンナにはああ言ったが、名前も内心では心配だったのだ。ハリーは割と無茶をやる方のようだし、ロンも同様だ。
しかし、どうやらフレッド達にとってみれば、ホグワーツ特急に乗り遅れるなんて事は興味深い出来事であれ、そこまで心配するほどの事でもないようだ。名前のそんな考えが顔に出たのだろう、フレッドは「ま、ハリーは梟を持ってるしな」と付け足した。
丁度その時馬車の順番が来て、名前は三人と一緒に馬車に載せて貰った。セストラルが牽く馬車は独りでに扉が閉まり、それからゆっくりと馬車道を進み始めた。
「あたし、誰かに箒を借りて、二人を探しに行くべきだったかなって思ってたんだ」
「箒だって?」フレッドが笑った。
「多分、無理だったんじゃないかな。車内販売の婆さんに止められる」
「車内販売……?」
名前が鸚鵡返しに言うと、フレッドとジョージは揃ってにやっとした。「君、あの婆さんがただの魔女だと思ってるかい?」
「婆さんと来たら、うちのママくらいおっかなかったな」
「そうなの?」
にやにやと笑っている二人に、名前はどういう意味なのか尋ねようとしたが、それより先に黒人の男の子が「君、こいつらの事、一から十まで真に受けなくて良いぜ」と言った。
「ジョークの塊みたいな奴らなんだから」
「そうだね」名前はまったく同意見だった。
「えーっと、リーで良かったよね? クィディッチの実況をしてる……」
「そうそう。リー・ジョーダンだ。君、名前・名字だろ?」
握手をしながら、彼が名前の名前を知っている事に驚いた。リーとはこれまでもフレッド達と居る時に一言、二言話したことはあったが、こうして改まって自己紹介をしたのは初めてだったのだ。彼は二人と同い年のグリフィンドール生で、寮対抗のクィディッチ戦が行われる時、解説席で実況放送を行っている生徒だ。
リーに名前が知られているのは、双子から聞いて知っていたのだろうと思ったのだが、どうやら違うらしい。彼は明らかに笑っていた。「君、結構有名だからさ」
禁じられた森に入ろうとしたとか、寮でマートラップを飼おうとしたとか。身に覚えしかない情報に、名前は閉口した。
いずれにせよ、箒で迎えに行くのは無理だった筈だ。名前は多少箒に慣れていたが、二人が乗り遅れたかもしれないと聞いた時には既にイングランドを出る頃だったし、二人はそれぞれ重いトランクを持っているのだから、その距離を飛ぶのは不可能だ。そもそもそこに辿り着くまででさえ、マグルの目を掻い潜る手段が無い。箒でキングズ・クロス駅に行っていたら、号外の一面を飾ったのは名前だっただろう。
「ま、パパ達も一緒だし、ロンだってそこまで馬鹿じゃないさ」ジョージが言った。
城が間近に迫ってきた頃、フレッドが思い出したように名前に尋ねた。
「ドビーって名前の屋敷しもべ妖精知らないか?」
「ドビー? 屋敷しもべ妖精?」
名前は尋ね返したが、どうやらフレッド達はその反応で名前が知らないと察したようだった。
知らないなら良いんだ、という二人の言い方は、どこか含みがある。そもそも、名前は屋敷しもべ妖精に個人名がある事を今初めて知ったのだ。魔法生物としての習性なら兎も角、屋敷しもべ妖精についての詳しい解説が書かれた本なんて殆ど無いし、お屋敷に住んでいるわけでもないので屋敷しもべ妖精には縁が無い。一応、去年ホグワーツの厨房を訪れ、百人以上の屋敷しもべ妖精がホグワーツで働いている事は知ったが、彼らが名前に名乗った事は無かった。
「知らない。何であたしが知ってると思ったの?」
「だって君、あいつらと仲良いじゃないか」
名前は口を曲げた。「屋敷しもべ妖精の友達なんて居ないよ」
名前は今度厨房に行った時、彼らの名前を聞いてみようと思いながら、二人がリーにドビーの事を話しているのを聞いていた。
夏休み、ドビーと名乗る屋敷しもべ妖精がハリー・ポッターの前に現れ、学校へ行くのを阻止しようとしたのだという。そしてそのドビーが浮遊魔法を使ったので、魔法の不正使用を誤検知した魔法省から、ハリーは警告を受けたらしい。伯父夫婦はカンカンに怒って、彼は危うく夏中部屋に閉じ込められる羽目になるところだったそうだ。俺達が行かなきゃやばかったんだとフレッドが言った。
「魔法を使ったのはドビーなのに、ハリーが警告を食らったのか?」
怪訝そうに尋ねるリーに、双子はそっくり同じ動きで頷いた。
長期休暇の間、名前達ホグワーツの生徒は魔法を使ってはいけない事になっている。もっともそれは校則だからというだけではなく、未成年魔法使いの制限事項令に引っ掛かるからだ。
マグルの前で魔法を行使することは原則違反だが、未成年の場合、魔力のコントロールもまだ上手くないので、より厳格に制限されている。それに違反すると、最悪杖を折られる事になる筈だ。
「魔法省は未成年が魔法を使うと解るって言うけど、それは適切な表現じゃない。あいつらは魔法を使った形跡を探知できるけど、誰が使ったのかまでは解らないのさ」
「多分、ハリーの家の近所には魔法族が居ないんだろう。で、プリペッド通りで魔法が使われたから、対象はハリーしか居ないって思ったのさ」
「うちなんかじゃ、未成年が魔法を使った通知があっても、魔法を使ったのが僕達なのか、就学前のロニー坊やなのか、それとも近所のフォーセットさん家なのか解んないだろ? だから僕達がこっそり魔法を使っても、今まで警告状なんて受け取った事無いんだ」
「ママからのお叱りは受けた事あるけどな」
「そう、可哀想なハリー……」名前は二人を無視して呟いた。
名前は当然、今まで魔法省から警告文なんて受け取った事が無い。もちろんそれは、魔法をうっかり使ったりしないように気を付けているからなのだが、ひょっとするとキングズリーと暮らしているからというだけだったのかもしれない。いずれにせよ、何もしていないのに摘発されるなんて、流石にハリーが気の毒だ。
「ま、元々ホグワーツの屋敷しもべ妖精だと思ってたわけじゃないんだけどな」ジョージが言った。
「ホグワーツのしもべ妖精の主人は、多分校長のダンブルドアだ。ダンブルドアがハリーに学校に来るななんて言うわけがない」
やがて城に着き、名前は大広間で彼らと別れた。ハッフルパフの長テーブルに座りながら、名前はふと、二人がどうやってハリーをマグルの親戚の家から連れ出したのかと聞くのを忘れた事に気が付いた。ダイアゴン横丁で彼らと会った時、話しこそしなかったが、名前はフローリアン・アンド・ブロッツ書店でハリーの姿を目撃している。
ハンナ達が来るまで悶々とそんな事を考えていたので、名前は周りで交わされる「車」とか、「アングリア」とか、そういう単語に気が付かなかった。
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