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名前とハンナは動き出したホグワーツ特急で、大きなトランクを引きずりながら空いているコンパートメントを探したが、すぐに見付かった。仲良しのハッフルパフの同級生、スーザン・ボーンズと、ジャスティン・フィンチ‐フレッチリー、それからアーニー・マクミランが一緒に座っている。名前達は「此処空いてる?」と尋ねる間もなく互いに再会を祝い、中に入れて貰った。
「ハンナ、名前も。元気にしていたかい?」
どこか演技掛かった、気取った話し方をするのはアーニーだ。彼は名前達がそれぞれ頷いたり、「うん」と返事をしたりすると、「それは良かった」と頷いてみせた。やはりどこか芝居掛かっている。
「薬草学のレポートだけど――」
「アーニー、もう宿題の話? まだ学校に着いてもいないんだよ、忘れようよ」
名前が言葉を遮ると、アーニーは微かに眉を上げた。以前の名前とアーニーだったらここで喧嘩に発展していただろうが、今では互いに譲歩する事を学んでいる。
しかし二人の成長具合が発揮される前に、ジャスティンが「まあまあ」と間に入った。
「学校に着くまでは、一応まだ夏休みでしょう? 違うかい?」
「……名前がちゃんと提出するなら、僕だって何も言わないさ」
どうやらアーニーは名前が夏休みの宿題を出さないタイプだと思っているらしい。かなり失礼だ。名前は既に、全ての宿題の提出の準備が出来ている。もっとも、宿題くらいしかやる事がないので終わらせているだけで、本来ならまだ手を付けていなかったかもしれないが。
いつの間にか、車窓から見える景色は見渡す限りの田園風景になっていた。どこまでも続く牧草畑や、点々と散らばる白い羊が過ぎ去っていく中、名前達はそれぞれ夏休みにあった事を話したり、爆発スナップで遊んだりした。
正午に差し掛かる頃、コンパートメントの扉が遠慮がちにノックされた。名前が出ると、そこに居たのは車内販売のカートではなく、グリフィンドールのハーマイオニー・グレンジャーだった。
「ハーマイオニー?」名前が言った。「久しぶり、元気?」
「ええ、元気よ。久しぶり、名前。ハンナも、皆も、お久しぶり」
ハーマイオニーはハンナ達に小さく手を振ってから、名前を見た。名前に用だとは思わなかったので、座り直そうとしていたのを途中で止める事になり、一瞬変な体勢になってしまった。
「名前、ハリーとロンを見なかった?」
「ハリーとロン?」
焦ったように頷くハーマイオニーに、名前は首を横に振った。それから振り返って級友達にもハリー・ポッター達を見ていないか尋ねたが、誰も見ていないようだった。
「見てないって」
「そう……」
ハーマイオニーが言うには、どう探しても二人がホグワーツ特急に居ないのだという。また、ハリーはウィーズリー家に滞在していたので、二人は一緒に居た筈らしい。
「フレッド達――ロンのお兄さんだけど――は居たから、あの二人だけ居ないのはおかしいわ。けど発車時間ぎりぎりだったし、あの二人が最後だったそうだから、もしかすると乗り遅れたかもしれないんですって」
どうしたら良いのかしら、と独り言のように言うハーマイオニーに、名前は暫く考えた。「手紙を書くのは?」
「手紙?」
「うちのデメテル貸したげる。ハリーとロンに手紙を書くと良いよ。乗り遅れたんなら、二人も困ってると思うし、少なくとも安心するんじゃない?」
デメテルは自分の名が呼ばれ、そして配達を任されそうな気配を察知しているのか、先程まで寝こけていたくせにきりっと姿勢を正し、ハーマイオニーをじっと見詰めている。ウィーズリーさんは一緒なんでしょと尋ねると、ハーマイオニーはおずおずと頷く。名前はにっこりして見せた。
「じゃ、平気だよ。姿現しでホグズミード村まで……っていうのは、ちょっと遠いかもしれないけど……近くのお店で煙突を貸してもらって村まで行けば、そこから歩いてホグワーツに行けるし、そうじゃなくても、二人がホグズミード駅で待ってれば、あたし達とも合流できると思うよ」
名前はそう言いながら、夏にダイアゴン横丁で少しだけ会ったウィーズリー氏の事を思い返していた。ちょっと短慮な所があるのは、正直否めないかもしれない。
「……仮にウィーズリーさんが二人が乗り遅れた事に気付かないでそのまま帰っちゃったとしても、周りは魔法使いの家族ばっかりだし、駅員さんも居るし、心配いらないよ」
名前が「ね」と同意を求めるように言うと、ハーマイオニーも「そうよね」と頷いた。それから彼女は名前に礼を言ってデメテルを抱え(「ハリーも梟を持ってるけど、パニックになってるといけないから」)、自分のコンパートメントに戻っていった。名前が漸く腰を下ろすと、前に座っているアーニーが「君がグレンジャーと仲が良いの、何度見ても本当に信じられないよ」とぼやいた。
「何それ」
「だって全然タイプが違うじゃないか。彼女は何だって一番の優等生だし、君は不真面目だし……」
「ま、人間的魅力ってやつかな」
名前はおどけたつもりだったが、誰も笑ってくれなかった。
ふと、ハンナが不安そうな顔をしている事に気が付いた。「ねえ名前、本当にホグワーツ特急に乗り遅れちゃったらどうしたら良いの?」
「それなのに周りに誰も居なかったら……?」
名前はハンナの顔を見詰めながら、アボット氏に言われた事を思い出していた。
「――平気だよ。今日だって遅れなかったでしょ? 万が一乗り遅れちゃって、そしてどうしても誰も居なかったら、夜の騎士バスを呼ぶと良いよ。まあ、流石にホームまでは来てくれないと思うから、一度キングズ・クロス駅の外には行かなきゃいけないかもしれないけど。それにホグワーツ特急が出る時は、魔法省の人がホームの出入り口の近くに何人も居てくれるんだって。どうしたってマグルと接触しちゃうし、魔法界のやり方に慣れてない人も多いから。そうだよね、スーザン?」
急に話を振られたスーザンは少々驚いたようだったが、「そうね」と頷いた。
「私達が使うのは主にホグワーツ特急だけど、キングズ・クロスからは他の魔法界の線路も沢山伸びているわ。魔法省の職員が何人も配置されてる筈だし、九月一日は特に多いそうよ。多分、もしも乗り遅れた生徒が居たら、向こうから声を掛けてくれるんじゃないかしら」
スーザンは伯母が魔法省の職員な事もあり、名前達より魔法省の事情に詳しいのだ。ハンナは漸く落ち着いたようで、「そうなの」と小さく微笑んだ。
それからは、車内販売のカートを押した魔女が訪れた以外は、特に何事もなく汽車は進んだ。しいて異変を挙げるなら、ハンナだけでなく、スーザン、そしてジャスティンまでもがかなりロックハートに入れ込んでいるらしいと判明した事だろうか。名前とアーニーは彼らがロックハートについて勢い良く話し出す事に呆気に取られ、そして話題についていけなかった(名前はアーニーとの確かな友情を感じた)。闖入者が居なければ、彼らはホグワーツに着くまでロックハート談義を続けていたかもしれない。荒野を抜け、いくつものトンネルを抜けた頃、その一風変わった来訪者は現れた。
初めにそれに気付いたのは、窓際に座っていたスーザンだった。窓の外を汽車と並走して、一羽の梟が必死に飛んでいたのだ。スーザンが窓を開けると、その哀れな梟は勢い良くコンパートメントに飛び込み、それから羽をまき散らしつつぐしゃっと不格好に着地した。名前達はてっきりデメテルがハリーからの返事を持ってきたのだと思ったが、宛先こそ名前宛だったものの、梟はデメテルではなく見知らぬ森フクロウだった。
「……夕刊?」
名前は怪訝に思うも、梟に代金を支払った。梟は足に括られた革袋に銅貨が入ったのを確認すると、すぐさま窓を飛び出していった。再び羽をまき散らしながら。
日刊予言者新聞は、イギリス魔法界でシェアの殆どを占めている日刊紙だ。魔法省に始まり、様々な事象にフォーカスされているが、やや偏向気味な事は否めない。名前はキングズリーに言われて購読してはいるが、殆ど読んでいなかった。そもそも、二年生の女の子が好んで新聞を読むわけがない。
その予言者新聞が発刊されるのは、基本的には朝刊だけの筈だった。魔法界もメディアが発達――マグル界の産業革命に便乗する形だが――したので、以前ほど新聞の需要が無くなったのだ。こうして夕刊が届くのは、何かよほどの出来事が起こった時だけだ。
名前としてはそのままトランクの中に仕舞い込むつもりだったが、アーニーが読みたいと言うのでそのまま彼に渡した。
「フォード・アングリアって誰だい?」
見出しに目を通したアーニーが不思議そうに言った。それに返事をしたのは名前達の誰でもなく、マグル生まれのジャスティンだった。「人じゃありませんよ」
アーニーがぎょっとしてジャスティンを見る。
「車種ですよ。自動車……って伝わりますか? フォードという会社が作っている、車という乗り物です。アングリアはその中の一つですよ。もっとも、ちょっと古いですけどね」
そのアングリアがどうしたのかとジャスティンが尋ね、アーニーは一面を飾っている記事の概要を読み上げた。空を飛んでいるフォード車が、イギリスのあちこちでマグルに目撃されたのだという。
とんでもない法律違反――名前達が言葉を失くしている中、マグル生まれのジャスティンが一人、「フォード社は魔法界では空を飛べる車を出しているんですね。良いなあ」と呑気に言った。
「うーん……多分だけど、不正に魔法が掛けられてるんだと思うわ」と、スーザン。
「不正に?」
「マグルが作ったものに魔法を掛けるのは、厳密には禁止されてるの。壊れた物を直すとか、綺麗にするとか、大きさを少し変えるとか、そのくらいなら良いけど……空飛ぶ車はマグルの発明じゃないんでしょう?」
ジャスティンが頷くと、スーザンが「やっぱり」と呟いた。
名前は二人が話しているのを聞きながら、アーニーが読み上げた記事の内容を思い出していた。郵便局のタワーというと、フィッツロビアにある電波塔の事だろう。つまりロンドンであり、キングズ・クロス駅からも程近いという事になる。
「それじゃ、間違いなく違法だわ。きっと誰かが面白がってやったのね。かなりの数のマグルに見られてるみたいだし、きっと大事になるわよ」
「なんだ」ジャスティンが残念そうに言った。「うちにもあれば良いなと思ったのに」
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