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それから学校が始まるまでの二週間、名前はアボット夫妻に色々な所へ連れて行って貰った。マグルの遊園地や動物園、キャンプや海水浴等々。また、一度スーザンの家にも二人で遊びに行った。
フランスに旅行に行っていたというスーザンは日に焼けていたが、名前がハンナの家に泊まっていると知ると心底羨ましがった。来年は名前の家、それからスーザンの家にも泊まりに行こうと約束し、彼女の伯母が焼いたというレモンパイに舌鼓を打ち、それから名前達はコッツウォルズに戻った。
八月最後の夜、後は寝るだけとなった時、名前はアボット氏に小さく手招きをされた。名前は内心で首を傾げつつ、彼の元へ向かう。ハンナは未だにアボット夫人と論争を繰り広げている(「毛糸の靴下なんて恥ずかしいわ! だって私、もう二年生なのよ!」)。
「すまないね」アボット氏は苦笑を浮かべていた。
「あの二人、普段は仲が良いんだが」
「いいんです。あたし――」ママと口喧嘩なんてしたことが無いから、ちょっと新鮮なの、等とは流石に口に出せない。「――ハンナが怒ってるのって珍しいから、見てるとちょっと得した気分になるんです」
アボット氏はぽかんとしてから、それから低く笑い始めた。名前もにっこりしてから、「長い間ありがとうございました」と頭を下げた。彼は仕事があるので、九月一日も朝早くから家を出る事になっていた。彼と顔を合わせるのは、つまりこれが最後という事になる。
改めて礼を言った名前に、アボット氏は困ったように笑った。
「良いんだよ。娘の友達なんて、僕らにとっても娘みたいなものだ」
窓の外はすっかり暗くなっていた。遠くに見えるマグルの村も、今は寝静まっていて、ぽつぽつと灯りが見える程度だ。
「……娘は顔立ちは母親似なんだが、どうも内面は僕に似ているようでね」アボット氏が言った。
「プレッシャーに弱いんだ。小さな事でも気にする質だから、本当はホグワーツにやるのも心配だった。体も強い方じゃないし、心配で眠れなくなることなんてしょっちゅうだった。君が泊まりに来ると知った時、僕は驚いたよ。まさかハンナが友達を連れてくるなんてってね。此処は魔法族が少ないし、かと言ってマグルの子達ともなかなか遊ばせてやれない。君は娘にとって、殆ど初めての友達なんだ。初めての友達が君みたいな子で良かった。娘と友達になってくれて、どうもありがとう」
名前はぱちぱちと目を瞬かせた。
「そんな、あの、全然……」
名前が言葉に詰まっているのを見て、アボット氏は優しく微笑んだ。それから「娘は君に迷惑を掛けるかもしれないが、これからも仲良くしてやってくれると僕も嬉しい」と言葉を続け、「またおいで」と言って名前を優しく抱き締めた。
九月一日の朝、名前とハンナは、以前と同じようにアボット夫人に連れられてロンドンに来た。キングズ・クロス駅の9と4分の3番線、十一時発――去年とまったく同じ電車だ。
名前はいつも、夏休みなんて早く終われば良いと思っていた。しかしこんなにも学校が始まるのが嫌だと思うなんて、思ってもみなかった。
旅立ちにぴったりの陽気とは言えなかった。夏だというのにどんよりと曇っている。雨が降っていないだけマシかもしれないが、それでもこの日くらい良い陽気であって欲しいものだ。
赤い車体でお馴染みのホグワーツ特急の周りは、大勢の生徒やその保護者達でひしめき合っていた。名前とハンナも、ホグワーツ特急の出入り口の側で、アボット夫人に最後のお別れをした。
「あたし、楽しかったです。ありがとうございました」
名前がそう言うと、アボット夫人はくすくす笑い、そして名前に言った。
「あなたが来てくれて、私達も楽しかったわ、名前」
抱き締めてくれたハンナのお母さんは、とても暖かかった。
昨晩、名前はアボット氏とも別れのハグをしていたが、アボット夫人のそれは何だか違う。ふんわりとしていて、恥ずかしかったが、それ以上に何故だかとても安心した。
ホグワーツ特急の汽笛が鳴り始め、名前達の居る戸口からも煙突からの煙が見え始めた時、ハンナと母親は最後のハグをしていた。周りでも同じような光景が見られた。家族との別れには、一年生だろうと上級生だろうとさほど大きな違いは無いらしい。各々がさよならを叫んでいて、皆がコンパートメントの窓から身を乗り出し、そして全員が思い思いに親達に別れを告げていた。クリスマス休暇までは家族に会えないのだから当然だ。
「名前、ハンナをお願いね。この子ったらもう二年生になるのに、まだ忘れん坊さんなのよ」
アボット夫人がくすくすと笑いながら言うと、ハンナは「ママ!」と抗議の声を上げた。名前は彼女がわざと毛糸の靴下のを部屋に置き忘れて来たのを知っていたが、どうやら夫人にもお見通しだったらしい。
知らず知らずの内に頬を緩ませながら、名前も笑顔でアボット夫人に手を振った。
汽車が動き出す頃に漸く膨れっ面をやめたハンナは、自分の母親に千切れんばかりに手を振った。アボット夫人も、同じように手を振っていた。もちろん、名前も。ホグワーツ特急がカーブを曲がり、アボット夫人の姿が見えなくなるまで、二人はずっと手を振っていた。
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