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 互いの同行者がサインを貰うまでの間、名前達は他愛のないお喋りに興じていた。二人は夜の闇横丁行きを画策しているのだと打ち明けた。
「ノクターン横丁?」名前が言った。「闇の魔法使いしか行かないような所って聞いてるよ。何しに行くの?」
「そりゃ、色々さ」
 双子はニヤッとしてみせた。二人はホグワーツでの日々を数々の規則破りと共に過ごしていたが、どうやらここでも好奇心が抑えられないらしい。
 夜の闇横丁はダイアゴン横丁に隣接した通りだ。名前は当然行った事がなかったが、表通りには到底並べられないような品物や、手に入れるだけでアズカバン行きが決定してしまうような道具で溢れているという。ちょっと覗きに行くくらい良いと思わないか?と尋ねる二人に、名前は曖昧な返事を返した。
「ハリーが煙突飛行にちょっぴり失敗してさ、あっちの暖炉に出ちまったんだ」
「僕達が今度ダイアゴンに来る時、うっかり灰を吸い込んでナントカ横丁って言ったら、ママは許してくれると思うか?」
「思わない」名前が断言した。「ハリーって?」
「ハリー・ポッター」
 二人の声が揃った。なるほど確かに赤毛の集団の中に、微かに黒髪が混ざっている。多分、あれがハリーだろう。その隣にちらりと見える栗毛は、もしかするとハーマイオニーかもしれない。弟が彼と仲良いんだ、とフレッドが言った。

 やがて、にわかにざわめきが広がった。「もしや、ハリー・ポッターでは?」
 人垣が動き、二つに割れた。どうやらロックハートがハリーに気付いたらしかった。あの勿忘草色のローブの魔法使いがロックハートらしい。
 それからのやりとりは、列から離れている名前達にもよく伝わった。ハリーがロックハートとのツーショット写真を撮られている事、『私はマジックだ』だけでなく、『泣き妖怪バンシーとのナウな休日』を始めとしたシリーズ全てをプレゼントされた事。それから、ロックハートが新たな職に就いた事を盛大に発表した事。
「……あたし達、全員外れだったね」
 盛大な拍手が沸き起こる中、名前がそう言うと、フレッドとジョージも低い声で唸った。最悪だぜとも、例のあの人が頭にこびりついてる可能性はあるぜとも聞こえた。
 名前は今年度に新しく闇の魔術に対する防衛術の教師になったロックハートを見ながら、早くも来年の先生はどんな人かなと考え始めていた。ホグワーツの闇の魔術に対する防衛術の担当教師は、一年以上続かないというジンクスがあるのだ。それが事実かは兎も角、名前はロックハートの授業にあまり期待を持てなかった――何となくだが。

 漸く解放されたハリーが、よろよろと人垣の奥に消えていくのを名前は眺めていた。
「ハリーはいつでも注目の的だね」
「ああ、何せハリー・ポッターだからな」
 名前の呟きに、フレッドが返事をした。「ハリーはきっと面白くないだろうな」とジョージが付け足す。
 ホグワーツに入学したばかりの頃、ハリーがいつも周りの視線を集めていた事を思い出した。今も、ロックハートに見惚れる魔女も多い中、彼が消えた先を見ようとする魔女や魔法使いも多かった。それほどまでに、生き残った男の子は皆の関心を引くのだ。
 名前達が来るのは遅かったので、ハンナ達がサインを貰うのにはまだ暫く時間が掛かる。名前がハリーと合流しようと提案すると、双子もそれぞれ頷いた。途中、彼らの父親であるウィーズリー氏とも合流し(彼は髪がかなり薄かった)、微かに見える赤毛を目指し、人波を掻き分けて店の奥へと進んだ。
「何か揉めてないか?」ジョージが言った。
 双子もウィーズリー氏も名前よりずっと背が高いので、どうやら人垣の向こう側が見えるらしい。ウィーズリー氏が「ロン!」と呼び掛け、名前達はその後に続いた。

 ジョージが言った“揉めてる”は、かなり事実に近かった。名前が漸く人混みを抜けると、ハリーとロンとハーマイオニー、その隣に見知らぬ赤毛の女の子、それからスリザリンのドラコ・マルフォイと、そのマルフォイによく似た成人の魔法使いが一堂に会していた。
 ルシウス・マルフォイは一瞬、名前と、それからフレッドとジョージを見たが、すぐさま目を逸らした。見なかった事にしたいのだろう。
 どうやらウィーズリー氏とマルフォイの父親はかなり仲が悪いらしく、互いに嫌味を言い合っている。もっとも、挑発の手管はマルフォイ氏の方が上のようだが。パパはあいつが嫌いなんだ、とフレッド(か、もしくはジョージ)が名前に耳打ちした。
「ウィーズリー、こんな連中を付き合っているようでは……君の家族はもう落ちるところまで落ちたと思っていたんですがね――」
 その後の台詞は聞き取れなかった。ウィーズリー氏がマルフォイ氏に飛び掛かり、取っ組み合いが始まったからだ。突然始まった喧嘩に店内は騒然とし、魔女達が金切り声を上げ、そしてそれ以上に店員が悲鳴を上げた。乱闘の余波で、あちこちで本がばらばらと降ってきて、平積みされた本も崩れ、今なお本棚がぐらぐらと揺れている。
 マルフォイ氏はマグルを嫌っているようなのにマグル式の殴り合いはするのだなと見るべきか、二人共杖を取り出してはいないので冷静ではあるのだろうと見るべきか、少々判断に迷ってしまう。
「やっつけろ、パパ!」とフレッド。
「やっちゃえおじさん!」と名前。
「アーサー、ダメ、やめて!」と、おそらくウィーズリー夫人。
 結局、ウィーズリー氏とマルフォイ氏の乱闘は、たまたま通り掛かったハグリッドが割って入る事で終息を迎えた。二人共、周りの買い物客が自分達に注目している事に漸く気付いたのか、マルフォイ氏は埃で汚れたローブを簡単に直すと、息子と二人店を出て行ったし、ウィーズリー氏もハグリッドに連れられて家族揃って店から出て行った(ウィーズリー家の子供達はそれぞれ名前に手を振ったし、名前も振り返した)。

 名前はハンナ達の元に戻り、彼女達がサインを貰うのを見届けると、ブロッツ書店を出て買い物を再開した。教科書以外にも、羽ペンや羊皮紙も買い足さなければならないし、薬問屋にも寄らなければならない。ホグワーツ生は忙しいのだ。
 それから三時間後、名前達は再び漏れ鍋に足を運んでいた。ちょうど、仕事終わりのアボット氏も合流し、四人で店主のトムにご馳走になった。
「――ルシウス・マルフォイだって?」
 アボット氏は殆どバタービールを吹き出しそうになりながら、気遣わしげに名前と、それから妻子に目をやった。
「面白かったよ、マルフォイのパパ、目に青痣できてた!」
「もう、名前ったら!」
 ハンナがぷりぷりと怒り、名前はくすくすと笑った。そんな様子を見て、アボット氏はかなり困った様子だった。どうやらハンナの心配性は父親譲りだったらしい。しかし結局、名前が近くに居たとはいえ、騒ぎに巻き込まれたわけでもない為、彼は何も言わなかった。

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