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次の日は土曜日だったし、試験が終わった解放感もあって、普段よりずっと遅い時間に目を覚ました。クィディッチの試合がある日だったし、皆もそうだろうと思っていたのだが、談話室に来ると普段と様子が違っていた。談話室には大勢の寮生が居て、あちこちで顔を突き合わせ、真剣な表情で何やら話し合っている。とても解放感に満ち溢れたという雰囲気ではない。名前は内心で首を傾げつつ、友達を探した。
部屋の一角に、ハンナを含め、ハッフルパフの一年生が寄り集まっているテーブルがあった。名前が「何かあったの?」と尋ねながら近付くと、それぞれ「おはよう名前」とどこか晴れ晴れとした顔で笑ったり、「何かあったかだって?」と怪訝そうな顔で言ったりした。
「君、今更起きて来たのか?」
ザカリアス・スミスはかなり呆れた様子だ。もっとも彼は皮肉屋で、この手の事はしょっちゅうだったが。名前が肩を竦めてみせると、じりじりとした様子のアーニーが、勿体ぶった調子で口を開いた。
「ハリー・ポッターが、例のあの人から賢者の石を守ったんだ……!」
「……何が何って言ったの?」
名前が問い返すと、アーニーはかなりがっかりした様子だった。
同級生達がそれに気付いたのは、今日の朝方の事だったらしい。この日、名前の友達の中で一番早起きだったのはミーガンで、彼女が談話室に来た時には、既にその話で持ち切りだったのだという。
賢者の石。あらゆる金属を金に変えることが出来、そして不老不死になれる命の水を生み出すという、錬金術の極致とも呼べる代物。もっとも名前がそれを知ったのは今が初めてだったのだが、兎も角もそのかなり貴重な物体が、ホグワーツに隠されていたのだという。ホグワーツに隠されていたのは、賢者の石を作った魔法使いが、ダンブルドアと友人関係にあるかららしい。
名前はニコラス・フラメルという聞き覚えのある名前が、ハーマイオニーが調べていた魔法使いの事だと思い出した。
「――それで、ハリー・ポッターは石を守る為に自分も試練を乗り越えて、例のあの人と対決して、それで勝ったんだ」
「……アーニー、例のあの人が死んだって事はみんな知ってるよ」
名前がそう口にすると、アーニーは少々ムッとしたようだった。学期の前半、よく見た表情だ。しかし名前が「それなのに、どうしてそれが例のあの人だったって解るの?」と続けると、少しだけ考えた様子を見せた。
「僕達もそれは解らないんだ。けど、ゴースト達や絵画の間でも同じ事を言ってるし、何より死んだクィレルがあの人の手先だったんだ。例のあの人を生き返らせる為に賢者の石を奪おうとしたんだって考えれば、筋は通るだろう?」
言っている途中で恐ろしくなったのか、アーニーはぶるっと震えたし、名前も同じ気持ちだった。もっとも名前が震えたのは、例のあの人が死んでいないかもしれない事に対してではなかったが。
名前は朝食を食べようと――もっとも、この時間になると大広間に行っても間に合うか間に合わないかぎりぎりなところなので、厨房へ行って頭を下げる方が手っ取り早いかもしれない――談話室を出ようとしたが、その前にハンナに呼び止められた。
「あのね名前、名前は彼と仲が良いでしょう……?」
お見舞いに行きたいのだと口にするハンナに、名前は「誰の事?」と言った。本当に解らなかったのだ。彼女が「ハリー・ポッターよ……!」と小さく叫ぶので、漸く合点した。今なお昏倒しているというハリーをせめて見舞いに行きたいという優しさも本当なのだろうが、ハンナが彼と一緒に居る事を見た事は無く、ミーハーな気持ちが隠し切れていないのは間違いない。ついこの間まで、グリフィンドールが百五十点減点された事に怒っていたというのに。
しかし、「別に仲良くないよ」と言うとかなり残念そうにするので、名前は仕方なく「ハーマイオニーとは友達だけど」と付け足し、二人で医務室に向かった。
ハリーは未だ目を覚ましてはおらず、名前達はお見舞いのカードや、とっておきだった蛙チョコカードの箱、寮生達から持たされたその他の見舞いの品々を、ベッド脇のテーブルに置くだけに留めた。次々と見舞客が来るからだろう、マダム・ポンフリーが苛々していたし(悪ふざけなのか、誰かがトイレの便座を贈ったらしい)、そんなマダムをこれ以上刺激したくない。
医務室を出ると、偶然にも名前が会いたいと思っていた人に遭遇した。ハーマイオニーだ。
ハーマイオニーはロンと一緒で、二人はハリーがまだ目を覚ましていないと聞くと、明らかにがっかりした様子だった。しかしそんなハーマイオニーが名前と二人で話したいと言うので(ロンはかなり当惑した様子だったが、結局彼女の好きにさせた)、名前はハンナに先に寮に帰ってもらい(彼女は彼女でかなり後ろ髪を引かれた様子だったし、無言で名前に「後で聞かせて……!」と言っていた)、二人で近くのベンチに座った。
それから、ハーマイオニーは自分達が何故ハグリッドのドラゴンの卵の入手先を気にしていたのか、その一部始終を教えてくれた。ハーマイオニー達は去年の夏頃、偶然四階の廊下に迷い込んでしまい、そこで三頭犬のフラッフィーに出会ったらしい。そして、その犬がニコラス・フラメルから頼まれたものを守る為にあそこに配置されているのだとハグリッドが口を滑らせたので、それからずっと調査をしていたのだという。
名前はハーマイオニーの話を聞きながら、同時にクリスマス頃の事を思い出していた。ニコラス・フラメルの事を尋ねた名前に、スネイプがあれだけしつこく訳を聞いてきたのは、名前が賢者の石の事に首を突っ込んでいると思ったからだろう。今思えば、それから暫くの間、スネイプはかなりきつく名前を監視していた。名前が調べているにしろ、誰かに唆されているにしろ、石の守りに直接携わっていたスネイプが名前を警戒するのは仕方がないことだった(もちろんだからと言って、数々の理不尽な減点や罰則を許せるわけではないのだが)。
そして、名前はもしかすると、本物の賢者の石を見た事があるのかもしれなかった。それどころか、直接手にしたことがあったのかもしれなかった。ダンブルドアに手渡された、あの赤い石。もしもあれが賢者の石だったなら、確かに宝石であるとも、そうでないとも言えるだろう。
ハーマイオニー達は、ハグリッドがドラゴンの卵を手に入れたのは、石を狙った何者かが、わざとドラゴンの卵をハグリッドに渡したのだと考えたらしい。ハグリッドが言ったような、闇の売人が偶然持っていた卵を厄介払いの為に手放したかったのではなく、フラッフィーの事を聞き出す為にわざとドラゴンの卵を渡したというのだ。
「……ドラゴンの卵を手放したかったのは、本当だったかもね……」
「名前?」
名前がこぼした小さな呟きに、ハーマイオニーは心配そうに名前を呼んだが、名前は首を振るだけに留めた。
彼女が言うには、今ホグワーツを流れている噂は、大袈裟に歪曲されているものも多いが、事実な部分もあるらしい。彼らが賢者の石を守る為に先生達が仕掛けた罠の数々を踏破した事や、ハリーが例のあの人から石を守り抜いた事等だ。
――普段の名前は、名前とクラッブが友達だという事を知ると、付き合いをやめるようにと言ってくる人達に辟易していた。名前と友達になる誰かは、いつも決まったように同じ事を言ってくるのだ。その度に名前は反論したり、否定したり、無視したり、怒ったり、話を逸らしたりしてきた。しかし今、名前はついついハーマイオニーに言いたくなってしまっていた。ハリー・ポッターと友達を続けるのは、金輪際やめた方が良いと。
しかし結局は何も言わず、「ハーマイオニー達が無事で良かったよ」とだけ言って、行く所があるからと言ってハーマイオニーと別れた。
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