40
薬草学の授業の後、名前はロンに呼び止められた。彼の後ろには何故か元気が無さそうなハーマイオニーと、それから渦中の人であるハリー・ポッターが居る。もっともハリーの場合、注目を集めていない方が珍しいが。
何故ロンを見た事がある気がしていたのか、名前は漸く思い出した。ハーマイオニーと仲が良いからだ。
ロンが困ったように名前を見ていた事もあって、名前はハンナ達に先に行ってもらうようにお願いした(ハンナ達も、あまり積極的にハリー・ポッターと関わりたくないのか、聊かほっとした様子で、足早に次の呪文学へと向かった)。ごめん、と小さく口にするロンに、名前は首を振った。
「怪我治ったの? 良かったね」
「ああ、うん。それで君と話したかったんだ。おかげで助かったよ、あの薬が届くまで、マダムは二週間は医務室で安静って言ってたんだ。君、チャーリーの事知ってたの?」
「ちょっとね。前に手紙をやりとりした事があったから」
ロンは目を丸くしたが、いずれにせよ納得したようだった。彼は再度「ありがとう」と言った。
彼らも次は屋内の授業らしく、四人で城へ向かう。名前はロンと連れ立って歩きながら、名前がリッジバックの事を知っていた理由を話したり、逆に三人が何故ドラゴンの事を知っているのか尋ねたり(彼らがドラゴンの事を知ったのは偶然だったらしいが、元々彼らは――というよりハリーが――ハグリッドと懇意らしい)、彼ら三人が孵化の瞬間に立ち会ったというので死ぬほど羨ましがったりしたのだが、その間にハーマイオニーが一言も口を利かない事が気に掛かった。
ハリーとは話したことが無いので、彼がどんな性格をしているのかはいまいち知らないが、ハーマイオニーはいつも名前に声を掛けてくれるし、会話に混ざらないのもおかしい。背負った本が多すぎるわけではないようだ。
「あの……ハーマイオニー、何かあった?」
名前はこそっとロンに話し掛けた。彼はどういうわけか、かなり驚いたようだった。「君、聞いてないの?」
「彼女、減点されたんだ。一人五十点、あんまりだよな」
「あれ、ハーマイオニーのことだったの?」
名前が思わず声を上げると、後ろを歩くハーマイオニーは明らかにドキッとした様子だった。彼女に目をやると、慌てて視線を逸らされる。隣のハリーも居た堪れない様子だった。彼女は薬草学の授業中、一度も挙手をしなかったのだが、どうやらそれが理由だったらしい。
「あのさ、一応言っておくけど、僕ら、別にマルフォイを嵌めようとしてたわけじゃないんだ」ロンが小声で捲し立てた。
「僕達、チャーリーと手紙で打ち合わせしてたんだ。ノーバートをルーマニアに送る為にやった事なんだよ。ドラゴンなんて、堂々と昼間に運べないだろ? だから真夜中に天文塔で待ち合わせて、チャーリーの友達に運んで貰ったんだ。マルフォイはそれを偶然知って、僕らを捕まえて先生に突き出そうとしてたんだ。まあ、あいつはその途中でマクゴナガル先生に見付かったけど。僕は噛まれて行けなかったから、ハリーとハーマイオニーがノーバートを運んだんだ。で、それでその帰りにフィルチに見付かったんだよ」
名前は絶句した。そんな名前の様子を見て、ロンは「ネビルは、マルフォイが僕らを捕まえようとしてるって、僕らに知らせようとしてくれたんだ」と付け加えた。
「……ノーバートって?」
「ハグリッドのベイビーだよ」
少なくとも、名前が心配していた問題は解決したようだ。ハグリッドが逮捕される事はもう無いだろう。わざとマルフォイを呼び出したわけではないのだと念を押すロンに、名前はゆっくりと頷いた。
三人が次の授業に行くと言うので、名前達は玄関ホールで別れる事になった。結局、ハーマイオニーは一度も口を利かなかった。名前はどう声を掛けて良いか解らなかったが、結局「またね」と言うしかなかった。
「またね、ロン。ハーマイオニー、ハリーもまたね」
名前がそう言って手を振ってみせると、顔を上げたハーマイオニーは、顔をくしゃっとさせて、「ええ、またね名前」と小さく手を振った。その隣で、ハリーもおずおずと手を振り返した。
その日の放課後、名前はハグリッドの様子を見に行った。彼は怪我もしていなかったし、小屋が焼け落ちていることもなかった。もっとも、何となく焦げ臭さは漂っている。
ハリー達はノーバートを送り出してからフィルチに見付かったらしいが、ハグリッドがこうして何のお咎めも受けていないところを見るに、どうやらドラゴン自体は与太話だと思われたようだ。ハリー達が飛び交っている噂に対し、積極的に肯定も否定もしていないのも、それが理由だろう。本当にドラゴンが居たとなれば、どうしたって誰が持っていたのかという話になってしまう。彼らはハグリッドを庇ったのだ。
ハグリッドは、すっかり意気消沈していた。
「おまえさんの言う通りだった。どうかしてたんだ、俺は」
「そんな事ないよ。あたしだって、ドラゴンの卵を手に入れたら、多分、孵してたと思うし」
名前はそう言って慰めたつもりだったが、ハグリッドは力無く笑うだけだった。そうかと思えば、悲しそうにじっと虚空を見詰めている。重症だ。
常識外れな事だとはいえ、彼はきっとリッジバックを可愛がっていたのだろう。城への帰路の中、名前はもう一度チャーリーに手紙を出してみようかなと考えていた。お願いすれば、ノーバートの写真を送ってくれるかもしれない。
五月に入り、生徒達は試験勉強に明け暮れる事となった。名前はというと、別段普段と変わらない日々を過ごしていた。湖の観察に赴き、クラッブにちょっかいを出し、三階の女子トイレに冷やかしに行き、箒の練習をする。宿題は一応きちんと提出したが、それだけだ。
しいて言うなら、魔法薬学だけは自主的に勉強していた。が、それでも一年生の授業で習った薬は高が知れているし、教科書を暗記する以外に出来る事は殆ど無いので、早々に投げ出していた。スネイプが授業で扱っていない魔法薬をテストに出す可能性が無いわけではないが、結局の所OWLが重要なだけで、あとは進級さえ出来れば良いのだから、頭が痛くなるほど勉強する必要はないだろう。
保護者が学校の成績についてとやかく言ってこないのを良い事に、名前は遊び惚けていた。時折、同級生達の心配だか羨望だかの眼差しを受ける事があったが、名前は気にしなかった。そして月が替わり、学年末の試験が始まった。
[ 875/921 ]
[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]