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次の日、名前とアーニーが一緒に朝食を食べているのを見て、友人達は驚いていたが、不思議な事に、それ以上に喜んでいたようだった。まあ確かに、同じ寮生同士、仲が悪いよりは良い方が良いに決まっている。そんな中、言った通りだろうと笑っていたのはジャスティンだ。
「名前とアーニーは気が合うだろうと思っていたんですよ」
「何だい、それ」
にこにこと笑っているジャスティンに、アーニーはやや困ったような顔をしていた。
名前とアーニーはいきなり大親友になったわけではなかったが、少なくとも普通のクラスメイトくらいの間柄にはなっていた。顔を見れば挨拶をし、宿題が厄介過ぎると文句を言い合う。どちらも互いに気を遣っているが、以前のような関係でないのは確かだ。
アーニー達が話しているのを眺めながら、また森に行きづらくなっちゃったなと、名前はそんな事を思っていた。
イースター休暇が訪れた(マグル生まれのジャスティンは、「イースターも祝うんですか? 本当に……? 復活祭を……?」と面食らっていた)。
クリスマス休暇と同じく二週間程度の休暇だったが、クリスマスと違い、意外にも学校に残る生徒は多かった。名前が見たところ、上級生になるほど家に帰らない生徒が多いようだ。ハッフルパフの一年生の中でも、家に帰ったのは半数程度に留まっていた。ホグワーツに居られるのは当然七年生までなので、今の内に学校で思い出を作っておきたいという事なのかなとそんな事を思ったが、実際は違っていたようだった。
イースター休暇には名前達一年生も、これまでにないほど沢山の宿題が出された。量も多ければ、全ての教科が宿題を課している。一年生でそうなのだから、上の学年はそれ以上なのだろう。学年末に試験があるので、その追い込みという事らしい。それに加え、五年生と七年生には、学校の試験とは違う別の試験が待っていた。
一心不乱に参考書を捲り、時折唸り声を上げ、取り付かれたように羽ペンを動かしている五年生や七年生達を、名前達一年生は恐々と眺めた。
「OWLとかNEWT試験って、そんなに重要なの?」
同じ一年生のウェインがそう口にした。名前は肩を竦める。代わりにハンナが答えた。
「進路に影響してくるんですって。NEWTで合格できていないと、なれない職業なんかも多いらしいわ」
「へえ。マグルにもそういうのあるよ、CSEっていうんだ。まあ、今はGCSEだけど」
ウェインは、確か母親がマグルだと言っていた。その為、どうやらマグル界の事情にも詳しいらしい。ここにアーニーが居れば「OWL、そしてNEWTは将来に直接関わる重要な試験なんだ! もちろんどんな職業に就きたいかで、その重要度は大きく変わってくる。皆は当然将来についてもう考えているよね?」等と言っただろうが、彼は実家に帰省しているので、名前達はのほほんと宿題を進めるだけで済んだ。
四月に入り、名前は一通の手紙を受け取った。てっきりマグルの友達か、さもなくばキングズリーからだと思ったのだが、驚いた事にハグリッドからの手紙だった。要領を得ない文章だったが、要するに、大変すばらしい事が起こったから会いに来て欲しい、そんな内容だ。名前は首を捻りつつ、朝食後、一人ハグリッドの小屋へと向かった。
小屋はカーテンが閉まっていたが、いくらか物音はするので、どうやらハグリッドは中に居るらしかった。名前が扉をノックすると、物音が一瞬静まり返り、それからハグリッドが顔を覗かせた。「おお、名前」
扉を開けたハグリッドはかなり険しい顔付きをしていたが、外に立っていたのが名前だと知ると途端に顔を明るくさせた。かなり浮かれている様子だ。
「ハグリッド、わざわざ手紙なんて送ってきてどうしたの?」
「おまえさんはきっと気に入ると思ってな。入れや、さあ」
内心で首を傾げつつ小屋に入ると、ハグリッドは戸の閉め、それから鍵も掛けた。厳重だ。
ハグリッドをこれほど喜ばせる素晴らしい事とはいったい何なのか、すぐに明らかになった。部屋の中央のテーブルの上に、見慣れない物体が置かれていた。クアッフルより大きいくらいだろうか。丸に近い卵型で、そして驚くほど黒い。
名前はその異様な存在感を放つ卵を暫く眺めていたが、やがて口を開いた。「ハグリッド、まさか本物じゃないよね」
ハグリッドは、明らかにがっかりした様子だった。
何をどうやって手に入れたのかは解らないが、テーブルの上に置かれているのは間違いなくドラゴンの卵だった。どうやらハグリッドは名前も狂喜乱舞すると思っていたようで、「おまえさんなら喜んでくれると思ったのに」とか何とかぶつぶつ言っている。
「Aクラスの取引禁止品目だよ?」名前が言った。
「そんな事は解っとる。だが折角貰ったんだ、無事に孵してやらにゃ、そうだろ?」
「絶対ダメ、ワーロック法違反だよ。今ならまだ罰金で済むし、そもそも孵してどうするの? ホグワーツじゃ広さも足りないし、それにこれ、ノルウェー・リッジバックだよ、他より早く火を吐けるようになるんだから」
「ノルウェー・リッジバック!」ハグリッドは目をきらきらとさせた。「あの黒い奴だな? 背中がとげとげした」
「おまえさん、卵を見ただけで種類まで解るんか、いいぞ」
「良くないよ! いい? 絶っ対、孵しちゃ駄目だからね!」
名前が再三法律違反だと口にすると、ハグリッドは煩わしそうに髭を震わせた。
「自分は禁じられた森に入ろうとしとったのに、よくまあ俺に説教垂れられるもんだ」
「校則と法律は違うじゃん!」名前は焦れた。
「それにあたし、友達が捕まるところなんて見たくないよ」
ハグリッドは微かに目を細めたが、「こんなチャンスは二度とねえんだ」と小さく呟いた。名前も実際は同感だ。もしも自分がドラゴンの卵を手に入れたら、何とか孵化させてみたいと思うに違いない。赤ちゃんドラゴンはそりゃもう可愛い筈だ。
しかし、ドラゴンを飼うには、あまりにも全てが足りなすぎるのだ。例えハグリッドが常人より体格が良く、力が何倍も強くても、ドラゴン相手ではどうにもならない。法律違反で捕まるだけで済むならまだましだ。このままではハグリッドが丸焼けになってしまう。
名前は校長に相談すべきだと主張したが、ハグリッドはダンブルドアには迷惑は掛けられないと言い張った。
「それじゃ、せめてケトルバーン先生に相談しようよ。多分、先生ならドラゴンの飼い方だって解る筈だし」
おそらく、ケトルバーンならもっと理論的にハグリッドを止め、それからきちんと諭し、説得してくれるだろう。名前の言う事は聞かなくても、ケトルバーンのアドバイスになら従うかもしれない。もっともそのケトルバーンがハグリッドと結託し、二人でドラゴンを育てる方向に行かないとも言い切れないところが怖いが。しかしながら、名前の目論見は外れてしまった。
「それは出来ん。ケトルバーン先生は今停職になっちょる」
「て、停職……!?」
「ああ」
名前はかなりぎょっとしたが、ハグリッドは特に気にした様子もない。
「言っとくが、そう驚く事でもねえぞ。ケトルバーン先生はしょっちゅう停職なさっとる。あの人は俺が学生ん頃から飼育学を教えとるが、年に一回は停職になっとるな。ちいと熱心すぎるんだ」
「……どうして停職になったの?」
「ボウトラックルが先生の目玉をほじくり出したらしい」
「そう……」
視神経は繊細なので、念の為にロンドンの聖マンゴ魔法疾患傷害病院で入院しているという事だった。復帰にはまだ暫く掛かるらしい。
「飼育学の授業はどうしてるの? ハグリッドが教えてるの?」
「俺が? 馬鹿な……」
そう言いながらも、ハグリッドはやや嬉しそうな顔をしていた。ちなみに、魔法生物飼育学は代理の先生が教えているそうだ。
結局、名前はハグリッドの説得を諦めた。何を言っても響いていない気がするし、言えるだけの事は言ったからだ。名前に残されたのは、ハグリッドが考え直すのを神に祈るか、孵化が失敗することを期待することだけだ。決して「おまえさんだって赤ん坊のドラゴンは見たいだろ?」という言葉に屈したわけではない。
育て方を調べに図書室に行かなくてはと張り切るハグリッドを、名前は黙って見詰めるより他に仕方なかった。
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