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闇の魔術に対する防衛術の授業では、簡単な呪いの対処法から、魔法生物への対策についての単元に移っていた。名前はクィレルの事は今なお頼り甲斐の無い先生だと思っていたが、彼の授業自体はそんなに面白くないわけじゃないと認識を改めていた。ただ猛烈につまらないだけだ。
「お、狼人間の牙には特殊な毒の成分があ、あり、これが血のぎょ、凝固作用を邪魔します。な、なので、万が一狼人間にか、噛まれたら、い、いち早く専門の、癒師の治療を受ける事」
生徒達は皆、そもそも人狼に噛まれたら狼人間になってしまうじゃないかと思っていたが、誰も茶々を入れなかった。名前は欠伸を噛み殺しつつ、『幻の動物とその生息地』を黙って眺めていた。
授業後、珍しくジャスティンが名前達の元にやってきた。名前が以前フレッドとジョージに教わったハッフルパフ寮への近道になる抜け道を教えると、彼はかなり驚いていた様子だった。どうやら抜け道を知ったのは初めてらしい。
「あの、狼人間に噛まれると、狼人間になってしまうんですよね?」
「そうだね」名前が答えた。
「そして、狼人間には治療法が無い……」
ジャスティンは何か心配事がある様子だったが、それはすぐに判明した。「マグルでも、やっぱり狼人間になってしまいますか?」
狼人間はマグル間でも知られている存在だ。その特性上、人間の生活圏に存在し、そして完全に制御することが殆ど不可能なので、限定的な情報のみマグル界にも流布されているからだ。
マグル生まれのジャスティンは当然狼人間を知っていて、そしてそれが実在すると知ってしまったので、自身の家族や友達が噛まれたらといっそう不安になったのだろう。そして名前が魔法生物に詳しいので、こうして聞きに来たのだ。
名前は一瞬どう答えるか考えたが、名前よりも先にスーザンが返事をした。
「大丈夫よ、人狼はマグルを襲わないわ。元々マグルの狼人間なんて、今まで聞いたことがないもの」
「そうなんですか」
彼女の言葉に、ジャスティンはかなりほっとした様子だった。
スーザンが言った答えは完全に正しいわけではなかったが、マグルが多い地域に狼人間が少ないことも確かなので、名前は黙っていた。いたずらに不安にさせるのは一度だけで充分だ。ハンナが名前を振り向いたので、名前は目を瞬かせた。
「名前は魔法生物が好きだけど、人狼は嫌いなの?」
「――別にそんな事はないけど、何でそう思ったの?」
「だってあなた、普段なら居眠りしてるのに、今日はちゃんと起きてたでしょう。それなのに、すごくつまらなそうな顔で教科書読んでるんだもの」
「……普通逆じゃない、それ?」
名前は少し笑った。
狼人間のことを怖がっていたジャスティンだったが、何年か前に脱狼薬というものが開発されたと知ると元気になった。「それじゃ、何も問題ありませんね」
「脱狼薬って言うけど、本当に狼人間を殺すわけじゃないよ。変身してる間に理性を失わないようにするだけ。狼を人間に戻す完全な脱狼薬は存在しないんだよ」
「でも、それを飲んでいたら満月の時に危険は無くなるという事でしょう? それならやはり問題ありませんよ」
そう言って人の良い笑顔を見せるジャスティンに、名前もハンナもスーザンも、三人共すっかり驚いてしまった。魔法界で育った名前達には、到底口にできない台詞だった。しかしながら、ジャスティンがそう言ったのは、決して彼がマグル生まれだからだというわけではないだろう。
土曜日、名前は一人図書室に居た。この頃の名前の興味は、魔法薬学から再び湖探索に戻っていた。もっとも黒い湖は未だ厚い氷が張っているので、専ら湖に居るであろう生物を調べているところだ。近頃では、生物関連の本を探すより、ホグワーツの事が書かれた歴史書を調べた方が早いのではないかと思い始めたところだった。
名前が『ホグワーツの歴史』を取ろうとした時、後ろから「あっ」と声がした。振り返ると同じくらいの歳の男の子が立っていて、彼の視線は名前の手元に注がれている。スリザリンだ。
「あ、もしかしてこの本?」名前が言った。
名前は本棚に一冊だけ残っていた『ホグワーツの歴史』を手に取ると、「はい」と男の子に渡した。
「……ありがとう」
「いいよ、別に急いで読みたいわけじゃないし」
『ホグワーツの歴史』は以前に読んだことがあった。入学前、キングズリーが買ってくれたのだ。何度か読んだので内容は何となく覚えているし、湖について詳しく書かれていたわけではないのだが、読み飛ばしている部分もあるかもしれないので確認したかっただけだ。
適当に借りていくかと近くの本を手に取った時、男の子が名前に話し掛けてきた。
「君、ハッフルパフだろ? クィディッチを見に行かないのか?」
「クィディッチ?」
名前が聞き返すと、その男子生徒は訝しげな表情で名前を見ていた。「今日はハッフルパフの試合だ。ハッフルパフ対グリフィンドール」
「……ああ!」
談話室がいつもより賑やかだった気がしたが、クィディッチの試合があるからだったのか。そういえばハンナ達もそういう事を言っていたような気がする。名前が一人合点していると、男の子はますます怪訝そうな顔になった。
「だから此処、いつもより人が少ないんだね」
「まあ、そうだけど……行かなくて良いのか?」
「別に良いよ、前に見たもん」
寮のチームのことを応援はしているが、名前は特にスポーツに興味があるわけではない。その為、この寒空の下、わざわざもう一度見に行く気にはなれなかった。試合時間が決まっているスポーツなら兎も角、クィディッチはどちらか一方のシーカーがスニッチを掴むまで終わらないので、長時間かかる場合もあるのだ。名前は寒がりだし、それに正直なところ、勝とうが負けようがどっちでも良い。
男の子は「そういうのじゃないだろ」とか何とか言ったようだったが、名前は気にしなかった。
「あなたも行ってないじゃん」
「僕はスリザリンだ」
そういえばそうだと頷いた。今日はハッフルパフとグリフィンドールの対戦なので、スリザリン生の彼はあまり関係が無い。別に自分の寮は応援に行かなきゃならないという規則は無かった筈だと名前が主張すると、男の子はかなり微妙な顔をして去っていった。どうやら彼の中では、自分が所属する寮のクィディッチは見に行って然るべきものらしい。
別に名前一人応援に行かなかったところで、誰も何も気にしないだろうと思っていた。しかしながら、寮に戻った後、たまたま顔を合わせたセドリック・ディゴリーは名前がクィディッチを見に行っていないと知ると、「み、見てない……!?」とかなりショックを受けた様子だった。どうやら、自分の寮の試合くらいは見に行った方が良いようだ。名前は考えを改めた。
ちなみに、この日の試合は開始五分足らずでスニッチを捕られてしまい、歴史的大敗となってしまったらしい。名前はシーカーのセドリックにどう声を掛ければ良いのか解らず、迷いに迷ってプランプトンの記録よりはもってるよと慰めた。
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