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 チャーリー・ウィーズリーから返事が返ってきたのはこの頃だった。名前が手紙を出してから、三週間以上経過していた。
 朝食の時間、名前の元へ舞い降りて来たデメテルは、まさに疲労困憊といった様子で、名前が脚から手紙を外すや否や、くしゃくしゃになって眠り込んでしまった。西塔のふくろう小屋へ連れて行ってやりながら、ルーマニアというのは凄く遠い国なんだなあ、と、名前はそんな事を思った。ルーマニアが海を越えた先にある外国だということは解っていたが、実際にどの辺りにあるのかは知らなかった。多分、ヨーロッパだとは思うのだが。
 実際には、デメテルはクリスマス前にはチャーリーの元に着いていた。しかしチャーリーが手紙の返事を書くのが少々遅かった事と、クリスマスを過ぎた頃に彼の元へふらふらとやってきたウィーズリー家の梟、エロールをウィーズリー家まで無事に送り届けていた事とが重なり、ホグワーツに戻るのが遅くなったのだった。もちろん、名前はそんな事を知る由もないのだが。
 一時間目の授業に向かう道中、名前はチャーリーからの手紙を取り出した。



 初めまして、私はチャーリー・ウィーズリーです。貴方からの手紙を受け取った時は驚きました。女の子、それも年下の女の子から手紙を貰う機会は滅多にないからです。友人達は皆、私がドラゴンにしか興味がないと思っているようです。もちろん、それが大間違いというわけではありませんが。
 ドラゴンに関わる仕事は色々ありますが、私はドラゴン使いとしてこの研究所に雇って貰いました。なので私の経験からお話しします。
 まず、魔法生物飼育学という授業は必ず受けてください。三年生の時に、選択授業の一つとして選ぶことになります。ホグワーツでドラゴンを飼育するわけじゃありませんが、魔法生物に関わる仕事を考えているなら、殆ど必須と言ってもいいでしょう。次に闇の魔術に対する防衛術、呪文学、変身術、薬草学は勉強しておいて損はありません。私達ドラゴン使いはドラゴンという巨大な存在と相対する場面が多々あり、その場合に必要になってくるのは何より度胸と、そして知識からくる応用力だからです。それと、魔法薬学も履修を続けて下さい――



「魔法薬学?」名前は思わず声に出した。
 まさか見間違いだろうかと手紙を読み直すものの、確かにチャーリーの手紙には「魔法薬学」という記載がある。思わず鎧にぶつかりそうになってしまい、鎧が抗議の音を立てた。


 ――研究所には癒師も常勤していますが、軽い怪我や火傷等は、自分で薬を調合する場面も多いです。ドラゴンが持つ毒に対しても、学校で習う魔法薬学の知識が非常に役に立ちます。私はNEWTを取れなかったので、今とても苦労しています。スネイプ先生は成績優秀者しかNEWTのクラスを受けさせてくれません――



 チャーリーからの手紙はその後、箒に乗る機会が多いので練習しておくと良いという事、ドラゴンに興味がある一年生が居てくれて嬉しいという事、ハグリッドとケトルバーンに宜しく伝えて欲しいという事、それから名前へのエールが書かれていた。


 週に一、二度ではあるが、名前が図書室に通い出すと、どういうわけかハンナが喜んだ。曰く、やっとやる気になってくれたのね!だそうだ。実際には湖が凍り付いているせいで余った時間があるからだし、特に授業に関わる勉強をする為に本を借りているわけでもないのだが、わざわざ言う必要は無いだろう。
 名前達一年生は、この頃になると魔法の基礎が段々と解り始めていたが、それと同時に、自分達が知っている魔法が、実は魔法の魔の字にも至っていないのだという事に気付き始めてもいた。また、初めの頃は「教科書の三十二ページのコラムを読み、思った事を書きなさい」とか、「開錠呪文はいつ頃から使われ始めたか調べなさい」とかだった宿題が、近頃では「ゼニアオイの効能と主たる用途について羊皮紙二巻に纏めなさい」やら、「魔法議会成立の経緯を調べその有用性について述べなさい」やらになってきていた。要はいつの間にか、授業がかなり難しくなっていたのだ。
 他の同級生よりレポートに慣れているからと高を括っていた名前も、時々は図書館の本に頼らざるを得なかった。その為、名前はハンナが図書室へ行く時、その後をついていく事があった。
「最近よく本を借りているわよね。とっても偉いと思うわ。この間は何の本を借りてたの?」
「『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』」
「……名前!」
 名前が適当な本のタイトルを言うと、思っていた通り、ハンナはぷりぷり怒り始めた。名前がけらけらと笑いながら逃げるように駆け出せば、彼女も追い掛けるように走り出す。
 実際に借りていたのは魔法薬学についての本だったが、中身の半分も理解出来なかったので似たようなものだろう。もう少し簡単な内容の参考書を見付けなければ。

 名前は魔法薬学が好きではなかったが、魔法薬学のNEWTを取っておいた方が良いというアドバイスに従い、自主的な勉強を渋々始めていた。しかしながら、スネイプが如何に性格に難のある教師だからといって、スネイプ抜きの魔法薬学が簡単かと言われると、まったくもってそんな事はない。むしろ、結局はスネイプの囁くような解説を一つも聞き漏らさず頭に叩き込む方がよほど勉強になるので、世の中そう簡単にはいかないのだ。
「名前ったら、遊んでばかりじゃだめよ――待って名前、危ない!」
 ハンナが呼び止めてくれたおかげで、名前は間一髪のところでこちらに向かって歩いていた――飛び跳ねていた男の子と正面衝突せずに済んだ。しかし、名前がぶつからなかったにも関わらず、その男の子の体がぐらっと傾いたので、名前は慌ててその子の腕を掴んだ。
 どうにか二人共倒れずに済み、「あ、ありがとう……」「ううん」とそれぞれ言い合った。よく見ると、確か薬草学の時に同じクラスに居る男の子だ。そしてどういうわけか、その男の子の足は左右ぴったり引っ付いている。ぐらぐらしているのはそのせいだ。
「あなた、ネビルよね。いったいどうしたの……?」
 ハンナが恐々と問い掛けると、ネビルと呼ばれたその男の子は、彼女以上に怖がっている様子で「マルフォイにやられたんだ、呪文を試してみたかったって」と呟いた。殆ど泣きそうになっている。恐らく、足縛りの呪いだろう。

 原因が解っても、名前もハンナも呪いの正しい解き方を知らなかった。ルーモスの反対がノックスなように、ロコモーター・モルティスにも反対呪文がある筈なのだが、誤った呪文を使えば呪いがますますひどくなってしまうかもしれないからだ。今にも泣きそうなネビルを前に、ハンナは困ってしまって、先生の所に報告に行くべきだと勧めたが、当のネビルは嫌がった。おそらくだが、先生に告げ口した事によって報復される事を恐れているのだろう。
「……じゃ、一先ず寮に戻ろうよ。グリフィンドール寮ってあっちの方だっけ?」
 名前が指を指すと、ネビルは小さく頷いた。


 名前がネビルに肩を貸し、ハンナは二人分の荷物を持って、三人で城の東側に位置するグリフィンドール塔に向かった。途中、何人もの生徒とすれ違ったが、皆笑うばかりで、呪文を解いてくれるどころか、手も貸してくれなかった。名前はそんな彼らに「笑ってないで手伝ってよ!」とがなったが、彼らはくすくす笑って逃げていくし、ネビルがますます恥ずかしそうに身を縮こませることもあり、結局何を言うのもやめてしまった。

 ネビルが案内した廊下は突き当りになっていたが、その奥の壁に大きな絵が飾られていた。ピンクのドレスを着ている、とても恰幅の良い――もとい、とても太った女の人の肖像画だ。
「あら」肖像画の婦人が言った。
「合言葉は、えぇと……マックルド・マラクロー」
 どうやらこの絵がグリフィンドール寮の入り口で、そしてスリザリンと同じく合言葉で入れるようになっているらしい。名前はこの大きな絵がドアになるんだろうか、等と思いながら成り行きを眺めていたが、絵画に描かれた婦人が眉を寄せたので、少々意外に思った。
「その人達はグリフィンドールじゃないわよ」
 名前はハンナと目を見交わした。別にグリフィンドール寮に入りたかったわけではないが、故意でないとはいえ、他寮の合言葉を知ってしまったのは良くなかったかもしれない。名前は「あたし達帰るよ」と言ったのだが、ネビルは「待ってよ!」と引き止めた。
「僕、一人じゃ寮に入れないんだよ」
 いつの間にか太った婦人の肖像画は手前側に倒れていて、絵が掛かっていた壁には穴が空いていた。細い抜け道のような隙間が続いていて、奥には明かりが見える。
 壁の穴は少々高い位置にあったので、なるほど確かに足を縛られた状態では通れないだろう。名前とハンナはやっとの事でネビルを持ち上げ、ネビルは何度もお礼を言って、小さく飛び跳ねながら談話室へ入っていった。

 名前達は当初の予定通り図書室へ行き、その後ハッフルパフ寮に戻ると、近くに居た上級生に足縛りの呪いの解き方を知らないかと尋ねた。名前は魔法薬学の参考になる本を探していたが、ハンナは呪いの反対呪文を調べていた。しかし上手く見付からず、そのまま寮に戻ってきたのだ。
 セドリックを始め、何人かの上級生に尋ねたが、彼らは皆申し訳なさそうにするだけだった。ちょうど監督生のガブリエルが戻ってきて、名前は彼にも足縛りの呪いの反対呪文を尋ねた。ガブリエルは少し考えた様子だったが、「反対呪文は知らないな」と言ったので、名前は心底がっかりした。監督生の彼が知らないなら、他の誰に聞いても同じだろうと思ったからだ。しかし、ガブリエルはそのまま言葉を続けた。
「でも呪文の効果を打ち消す呪文なら知ってるよ。フィニートだ。大抵の呪文なら反対呪文として使えるから、反対呪文が解らない時は試してみると良いよ」
 ガブリエルはそう言ってから、名前達にフィニート・インカンターテムを簡単に教えてくれた。今回は間に合わなかったが、これで少なくとも次にうさぎ跳びをしている人に会った時は、首尾良く助けることができるだろう。

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