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 ケトルバーン先生とハグリッドは、名前が飼育学の後任になれば万々歳だと勝手に盛り上がっていたが、名前が「あたし、ドラゴン関係の仕事がしたい!」と言うと、「ドラゴン?」とそれぞれ口にした。
「ウェールズにグリーン種の研究施設がありますよね? あたし、あそこで働きたいの」
 ドラゴンは世界中に生息しているが、イギリスの固有種はウェールズ・グリーン種とヘブリデス・ブラック種の二種類だ。後者はヘブリデス諸島で厳重に管理されていて、その一族の人間しか携われないことになっている。反面、グリーン種に関しては、ウェールズの方に研究施設があった。イギリス唯一の研究施設と知ってから、名前はそこで働きたいとずっと思っていた。
「なるほど、名字は将来を考えていて偉いなあ」
 ケトルバーン先生はそう褒めるように口にしてから、やがてぼそりと「あそこは小規模だし本当に管理してるだけだからお勧めはせんがな」と呟いた。名前が「えっ」と口にすると、「いやいや、生徒の夢を壊すわけにはいかんな」と笑って誤魔化していた。
 将来設計ががらがらと崩れ始めた名前をよそに、ハグリッドが唸りながら「そういえば、今年ドラゴン使いになった奴が居たな」と言った。「ほれ、ウィーズリーの……」
「ああ、チャーリー・ウィーズリーか」
「チャーリー・ウィーズリー?」
 名前が鸚鵡返しに口にすると、ハグリッドは頷き、「俺は奴さんが気に入っとった」と言った。どこか寂しそうなのは間違いないだろう。

 チャーリーという名前は何となく聞いた事があるような気がするので、おそらくフレッドとジョージの兄の、卒業している内のどちらかがチャーリーなのだろう。そのチャーリーは、なんとルーマニアのドラゴン研究施設にドラゴン使いとして就職できたらしい。
 ルーマニアのドラゴン研究所と言えば、世界最大規模の研究施設だ。広さも、飼育頭数も、他の施設の比ではなく、ドラゴン研究の最先端と言っても過言ではない。
「ドラゴン使いって何するの?」
「ドラゴンの世話だな、主に」ハグリッドが言った。「ドラゴンが区域外に出て行かんよう見張ったり、他のドラゴンと喧嘩せんよう管理したり、そういう事だ。奴さんの弟が言うには、チャーリーはもうどでかい火傷を拵えたらしい。まだ卒業したばっかだっちゅうのに」
「……ドラゴンの炎に焼かれたの?」名前が心なしか小声で尋ねると、ハグリッドは痛ましげに頷いて、それからまたワインを煽った。
 ドラゴンが吐いた炎で火傷するということは、ドラゴンにそれほど近付ける仕事だという事だ。名前はドラゴンを一目見たいと思っていたし、ドラゴンの炎で火傷させられるなんて素敵すぎると感じた。例えそれで死んでも、ドラゴンの炎で焼かれて死ぬのなら最高の死に方なんじゃないだろうか。
「いいなあ、どうやったらドラゴン使いになれるんだろう」
「さあなあ。勉強はせにゃならんだろうが」
 ハグリッドはそう言ってから、ふと思い付いたとでも言うように、「チャーリーに聞いてみたらええ」と言った。
「チャーリーに?」
「どういう仕事なんかとか、どうやってなったんかとか、本人に聞くのが一番ええ。奴さんは良い奴だし、俺から聞いたって言えば、何でも答えてくれる筈だ」
 名前も、確かにそれは名案だと思った。ルーマニアで暮らしたいとは思わないが、実際にドラゴン使いになった人の話を聞いてみるのは、ドラゴン関係の仕事に就きたい名前にとって、かなり参考になる筈だ。
「名字もドラゴンが好きなのか」ケトルバーン先生は笑っていた。「ハグリッドと同じだな」
 名前は思わずハグリッドを見た。彼がドラゴンを飼ってみたいと打ち明けるので、名前は最高の考えだと絶賛した。もちろんドラゴン一匹にかなりの縄張りが必要なので、ホグワーツは狭すぎるが、言うだけなら自由だ。
 何のドラゴンが好きかとか、ワーロック法なんて無ければ良いのにとか、そんな事を話している時、名前はふとクィレル先生の視線を感じた。先生は名前と目が合うと、気まずそうに視線を逸らした。おそらく、名前がひどい火傷を負うかもしれないと聞いて、それでもドラゴン関係の仕事に就きたいと言っている事に引いているのだろう。気持ちは解らないでもない。

 クィレル先生の口数が減った事に二人も気付いたのか、ケトルバーン先生が「先生はこんな話、聞いててもつまらんだろう」と言った。クィレル先生は慌てたように「い、いや」と言った。どもりが戻っている。
「じゅ、授業でま、魔法生物を扱うこともあるし、と、とても興味深いと思う。……も、もちろん、ドラゴンじゃな、ないがね」
「違いない」ケトルバーン先生はけらけらと笑った。かなり笑う基準が低くなっている。
「そういや、先生は今年から闇の魔術に対する防衛術を教えてなさるんだったな。マグル学はやめたんかい?」
 ハグリッドが尋ねると、クィレル先生は一瞬ややどきっとした様子だった。
「……代役をつ、務めて下さったバ、バーベッジ教授が、そのままつ、続けたいと仰ったんだ。な、なので、私は空いていたぼ、防衛術の担当となったわけだ……。ま、まあ、防衛術には多少、お、覚えがあるし……」
 そう言ってから、「バーベッジきょ、教授は研究熱心な方だから、か、彼女に教わる方が生徒達もた、為になるだろう」と付け足した。
「頑張り屋さんだな、あの先生は。いっつも本に埋もれちょる」
「信じられんな、机に齧り付く生活なんて……」
 ケトルバーン先生は身震いするような動作をした。よほど座学が嫌いらしい。魔法生物飼育学は屋外での授業のようだが、案外そういう理由だったのかもしれない。クィレル先生は居心地悪そうに笑みを見せ、先日六年生の授業を垣間見たがあれは何をしていたのかと話題を変えた。


 それから小一時間経ち、日はすっかり沈んでしまったが、名前はまだハグリッドの小屋に居た。ケトルバーン先生とハグリッドが話しているのを聞くのは楽しかった。しかし、一般的な大人がどのくらい飲むのか解らないが、二人共かなり飲んでいる筈だ。ハグリッドの場合は体が大きいので、酒も沢山飲めるのかもしれないが。
 お酒はケトルバーン先生が持参した分の蜂蜜酒と、クィレル先生が貰い物だがあまり飲まないからと持ってきてくれたワインだけだ。それにしては延々と乾杯をしているなと思っていたが、名前はクィレル先生が定期的に酒瓶に杖で叩いている事に気が付いた。先生が杖で叩くと、空の酒瓶が立ちどころに補充される。
 視線を感じたのだろう、クィレル先生は名前を見ると、少々迷ったような様子を見せたが、「つまり、」と口を開いた。
「厨房から失敬しているんだ」
「厨房?」
 クィレル先生は頷いた。
「つまり、君も知っていると思うが、食料は自由に増やすことができない。ガンプの元素変容の法則の例外に当たるからだ。なのでこれは厳密には増やしているのではなく、呼び寄せている形になる。ホグワーツでは魔法の伝達が容易だし、君のような一年生でも楽に呼び寄せることができるだろう。もちろんあまり褒められた事ではないが……今日くらいは良いだろう」
 さっきは元のどもり口調に戻っていたのに、またすらすらと話している。吸血鬼に怖い目に遭わされて、震えるようになってしまったという噂だし、もしかすると酩酊するとその恐怖を忘れてしまうのかもしれなかった。
 名前はクィレル先生が言った言葉の半分も理解できなかったが、先生は特に気にしていなかった。元々一年生が解ると思っていないのだろう。
「まあ、そろそろ増やすだけにすべきだな。見た目を変えるだけなら簡単だ」
 そう言ってから先生は再び空の酒瓶に杖で触れたが、先程と違い、今度は下から湧き上がっているようだった。

 ハグリッド達の会話が堂々巡りし始めた頃、クィレル先生は「ああ、もうこんな時間だ」と言って立ち上がった。
「すまないハグリッド、シルバヌス、そろそろ戻らないと。六年生のレポートを採点しなければ」
 ケトルバーン先生が何事かを言ったが、上手く聞き取れなかった。どうやら二人はまだ飲むらしい。クィレル先生は「おいで、ミス・名字」と名前を促し、「今日はありがとう」と言って小屋を後にした。


 小屋の中が暖かかったので、風が驚くほど冷たく感じる。名前はマフラーをしっかり巻き直した。クィレル先生もかなり飲んでいた気がするが、足取りはしっかりしていた。彼と二人で城までの道を歩くのは、聊か妙な感じだ。
「ミス・名字はハグリッドとよく話すのかね? 随分仲が良さそうだったが」
「今日仲良くなりました」
「きょ、今日……!?」
 クィレル先生は異様なものを見る目で名前を見た。何か変な事を言っただろうか。先生は何事かを言ったようだが、名前は上手く聞き取れなかった。

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