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 入学して二か月もすると、自分の中での得意不得意がはっきり解ってくる。例えば名前は変身術は不思議とかなり得意だったし、反対に呪文学は面白みがなくて好きじゃなかった。どちらも杖を振る授業だが、おそらく前者はある程度想像力がものを言う部分があり、後者は実技の授業の筈なのに中身が殆ど暗記科目でしかないからだろう。
 その他にも苦手な授業はいくつかあったが(スネイプは未だに名前を目の敵にしていたし、薬草学もつまらなかった)、天文学はその中でも最たるものだった。
 名前は星の等級とか、星座の成り立ちとか、季節ごとに見える星の移り変わりだとかに、さっぱり興味が持てなかったのだ。それに、夜の遅い時間に起き出して望遠鏡を覗き込んだり、星座図に書き込んだりするのはかなり骨が折れる。次の日も普通に朝から授業があるので尚更だ。冬になったら屋内で授業をするのかな、等と名前は楽観的に思っていたが、本格的な冬が近付いてきている今でも生徒達は天文塔で風に晒されながら授業を受けていた。シニストラ先生は素っ気ないが親切なので、生徒達の人気もあったが、名前にとっては間違いなく鬼門の授業だった。

 放課後、名前は談話室で天文学のレポートを書いていた。談話室で厄介な宿題に手を付けるのは、近頃の名前のお気に入りだった。居合わせた親切な上級生が、答えを教えてくれることがあるからだ。もちろん答えを丸々教えてくれる人はなかなか居ないが、運が良いとそれだけで煩わしい宿題が片付くし、授業の成績なんてどうでも良いと思っている名前からしてみれば、レポートの体裁を取っていれば良いので、上級生がちらっと教えてくれるヒントだけで十分なのだ。後は適当に教科書とかから引用して、自分はそうは思わなかったとか付け足しておけば良い。
 名前が羽ペンを動かしていると、ハンナが寝室から降りてきた。後ろにはスーザンやメグといった、ルームメイトの女の子達の姿がある。
「名前、レポートは終わった?」
「まだ」名前はうんざりした顔をしてみせた。「いまシニストラをやってるとこ」
「私達図書室に行くけど、名前も一緒に行く?」
 名前はほんの少しだけ考えたが、やがて羊皮紙やら羽ペンやらを片付け始めた。


 初めて訪れたホグワーツの図書室は、驚くほど広かった。恐らくだが、空間を拡張する魔法が掛けられているのではないだろうか。見渡す限り本棚が立ち並んでいて、しかもその一つ一つにぎっしりと本が詰まっている。机と椅子は申し訳程度に並んでいるだけだ。
 この図書室の蔵書を全て読破するのは、一生を掛けても無理なんじゃないだろうか、と、名前はそんな事を考えた。
 ハンナ達はそれぞれ思い思いの宿題に取り掛かり、名前もそれに倣った。

 三十分もすると、彼女達がどうして週に二度も三度も図書室に足を運ぶのかが判明した。名前はてっきり、ハンナやスーザンは読書が好きなのだと思っていた。名前だって本は好きだが、ホグワーツに来てまで図書室に籠るつもりは無いので、よほど読書が好きなのだろうと。彼女達は皆、学校から出されるレポートの課題に慣れていないのだ。
 天文学のレポートを適当にでっち上げた名前は、ハンナ達がレポート課題に苦戦しているのを興味深く眺めていた。頻繁に綴りを間違ったり、同音異義語が違っていたり、折角書いたと思えば読み直して一から消したり、また綴りを間違えてそれを直したり。延々とそんな事をやっている上、内容も授業で習ったことや参考にした本のものをそのまま書いていたり、かと思えば段々と内容が脱線していったり。
 例えばハンナ一人がそうであれば名前もあまり気にしなかったのだが、全員が全員そんな感じなので、少々面食らってしまった。
 きちんと聞いてみたことはなかったのだが、おそらく彼女達はこれまでずっと家庭学習だったのだろう。名前のように両親共に魔法族なのに、敢えてマグルの小学校に通う子供はかなり少ない。その為魔法の知識はあっても、それをレポートという形式で形にする事に慣れていないのだ。図書室に通うのはそのせいだ。
 もちろん、名前が宿題の出来に拘っておらず簡単に終わらせている事と、彼女達が真面目にレポートに取り組んでいるからという事も関係している筈だが。

 名前は暫く手持無沙汰でハンナ達を眺めていたが、やがて飽きてしまった。図書室では司書のマダム・ピンスが私語を厳しく取り締まっており、わいわい話しながら宿題をするというわけにも行かない。「少し辺りを見てくるね」と言って、名前はその場を離れた。


 それぞれの本棚につけられている案内を見ていると、各教科の関連の書籍の他にも様々な分野の本が集められている事が解った。
 例えば魔法史の棚の付近だと、有史から現在までの歴史書に始まり、魔法史研究、各出来事の専門書、マグル史研究、他国の魔法史研究、世界魔法史等々、それ以外にも沢山の書籍が立ち並び、加えて関連書籍として偉人の伝記や研究書、マグルの武器史、文化史の解説書等が揃えられている。
 魔法史関連の棚が終わったと思ったら、今度は料理についての様々な本が並んでいる。イギリスの郷土料理に始まり、魔法族とマグルの調理の比較研究、料理に使える魔法の手引き本、世界の料理についての研究書、ただのレシピ本。料理の関連だけで数万冊の蔵書があるだろう。それから錬金術、魔法薬学の棚と移り変わっていく。
 魔法は料理から始まったとも言われるし、関連書籍があるのは納得できるのだが、それにしても充実し過ぎている。ホグワーツに料理の授業は無い。夏にダイアゴン横丁のフローリシュ・アンド・ブロッツ書店に寄った時も本に溺れそうだと思ったが、ホグワーツの図書室はそれ以上だ。きっと海溝の底まで沈み込んでしまうに違いない。
 全部の本を読もうとすると一生掛かっても無理かもしれないと思ったが、一生が七回あっても無理かもしれないなと名前は考え直した。
 適当に手に取っていた『アズカバンの歴史』を本棚に戻すと、「何か探してるの?」と後ろから声が掛かった。振り返ると同じ歳くらいのグリフィンドールの女の子が居て、名前を見詰めていた。薬草学で見た事がある気がするので、恐らく一年生だろう。
「あー、ううん」名前が言った。「何でもあるなって思って」
「そうね、本だけでなく図録も豊富だし、過去の新聞も全て保存されているもの。もしかすると大英図書館より広いかもしれないわ。私、ここの本を全部読みたいと思ってるの。時間がいくらあっても足りないわ! あなたは……魔法史の予習?」
 名前は返事を濁した。その日から名前の図書室通いが始まったが、探し物が見付かったのは十二月に入ってからだった。

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