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今週の土曜日にグリフィンドール対スリザリンの試合が行われることになっていたが、ぴりぴりしているのはその二寮の生徒達だけではなかった。この日の魔法薬学は荒れに荒れていた。スネイプは容赦無く生徒達のミスを注意し、間違いなくクラスの全員が指摘を受けていた。お気に入りの名前と来たら、この日だけで既に二度のネチネチを経験済みだ。
「スネイプ先生、どうしたんだろう」
そう呟いたのは、レイブンクローのアンソニー・ゴールドスタインだ。彼は毎回のように名前がスネイプから注意を受けるので、この頃では毎回のように調合の際に一緒に組を作ってくれていた。もっとも成績の悪い名前を気遣ってというよりは、少しでも名前のミスを減らし、スネイプが嫌味を言う時間を減らしたいという魂胆のようだった。自分への指摘でなくとも、他人が怒られているのは聞いていてあまり気持ちの良いものではない。
「クィディッチがあるからでしょ」
名前は午前中のマクゴナガル先生の様子を思い返しながら言った。先生は生徒達がボタンに針を付けようとしている間、険しい表情で虚空を見詰めていた。マクゴナガル先生が根っからのクィディッチ狂というのは専らの噂だ。マクゴナガル先生はグリフィンドール、そしてスネイプはスリザリンの寮監だった。
「そうじゃなくて、先生怪我してるみたいなんだ。さっきそこを通った時、足を引きずってるみたいだった」
名前は首を伸ばしてスネイプを見た。ちょうど、パドマ・パチルとマンディ・ブロックルハーストの組を注意しているところだった。スネイプが歩き出すと、確かに普段より遅いスピードで歩いているように感じるし、足を引きずっているように見えなくもない。名前が頷くと、アンソニーは「だろ?」と言った。
「どうしたんだろうね」
「医務室にはいかないのかな? 校医の先生なら、すぐに治してくれると思うけど」
二人でこそこそと話しながらも、大鍋の具合にはきちんと気を付けていた。湯気は未だゆらゆらと立ち昇っているが、この湯気が緑色に変わったら、急いで次の材料を入れるのだ。
「魔法薬の先生なんだから、自分で治せるんじゃない?」名前はそう言ってから、ちょっと考えて付け足した。その時、アンソニーが焦ったような顔をしたことには気が付かなかった。「精製に失敗したのかな」
「それで恥ずかしくて、医務室に行けないのかも」
「周りを見る余裕があるとは結構ですな」
名前はぎくっとした。いつの間にかスネイプが背後に立っていたのだ。鍋の様子には気を配っていたが、スネイプの所在までは気にしていなかった。
先生は私語は慎むようにと嫌味たらしく注意してから、ハッフルパフから減点した。アンソニーは申し訳なさそうに名前を見ていたが、名前は気にしないでとぎこちなく笑うので精一杯だった。
土曜日の十一時の少し前、名前はハンナと共に校庭に向かった。途中、ジャスティンが合流してきたので、名前は少しばかり意外に思った。名前がアーニーと本格的に仲違いしてからというもの、彼は殆どアーニーと行動するようになっていた。顔に出てしまったのだろう、ジャスティンは「だって、一緒に行こうって約束したじゃないですか」と拗ねたような振りをしてみせた。名前は少し笑い、三人でクィディッチ競技場へと向かった。
競技場はクィディッチのピッチに合わせて楕円型になっており、観客席は赤と緑が多く見受けられた。この日の対戦はグリフィンドールとスリザリンで、ハッフルパフの名前達はどちらの寮にも程遠い真ん中辺りに座った。十一時になると、両チーム七人の選手達が箒を持って登場し、三つのボール――二つのブラッジャーと、金のスニッチ――が放たれた。それから審判のマダム・フーチの合図の下、選手達が空に舞い上がった。
名前はクィディッチの基本的なルールこそ知っていたが、生で見たのは初めてだった。選手は全員が未成年の魔法使いや魔女なのに、縦横無尽に飛び回っていた。スピードも速いし、上下左右の移動もお手の物だ。飛行訓練の時、マダム・フーチはスピードを出さないようにと注意していたが、こんな風に飛べる事を知っていれば、確かにそうやって飛んでみたいと思うかもしれない。
十月にクィディッチの事を話した時は、名前もハンナもジャスティンに対してさも有識者かのように話していたが、此処に来て二人共クィディッチを見た事が無い事が明らかになった。つまり、三人共初めてのクィディッチだ。何なら、マグルのスポーツの試合なら観戦したことがあるというジャスティンの方がずっと経験者かもしれない。
三人は同じタイミングで息をのんだり、歓声を上げたりした。
「彼は何をやっているんですか? ああいう作戦なんですか?」
ジャスティンが示した方向に、小さな赤い影があった。おそらくシーカーのハリー・ポッターだろう。シーカーは元々小柄な選手が選ばれがちだが、一年生のハリーはチームの中でひときわ背が低かった。
「ど、どうしたのかしら」ハンナが恐々と言った。
ハリーの箒はじぐざぐと小刻みに揺れ動き、今にも乗り手を振り落としてしまいそうだった。
「――作戦じゃないかな、シーカーは一番狙われるポジションだから、ブラッジャーを当てさせないようにしてるんだよ」
名前はハンナが怖がらないようにそうフォローを入れた。しかし次の瞬間、大勢の観客達が悲鳴を上げた。ハリーは今や、片手で箒にぶら下がっていた。ハンナはきゃっと息を呑み――その隣でジャスティンも恐怖に駆られた顔でハリーを見詰めている――名前にしがみついた。
名前は大丈夫だよと念を押し、震える彼女の背を撫で続けたが、その言葉がただの気休めなのは隠しようがなかった。紅いローブを着た二人の選手が、すっかり箒のコントロールを失ったハリーの下で旋回を続けているが、上手く受け止められるかは解らない。しかし――恐怖の瞬間は訪れなかった。ハリーは突然元の素晴らしい箒捌きに戻った。それどころかそのまま目を見張るような鮮やかな急降下を見せ、次の瞬間にはスニッチを手にしていた。
「グリフィンドール、一七○対六○で勝ちました!」実況担当の生徒が大声を上げた。
「ほら、もう大丈夫だよハンナ」
見事なスニッチ(マウス)キャッチに観客が湧く中、名前はそう言ってハンナを促したが、彼女は暫くピッチを見れないでいた。ジャスティンは箒に振り回されたハリーが落ちずに飛び続けた事を尊敬するやら、スニッチを掴んで百五十点が加わることにやはり納得がいかないやらで、複雑な表情をしていた。名前はというと、クィディッチは面白いのだろうが、そう何度も見たいものではないなと、一人そんな事を思っていた。
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