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 名前がホグワーツに入学してから、早くも一週間が過ぎようとしていた。教科ごとに教室が違うので、広い城の中を毎回移動しなければならないのが大変といえば大変だが、授業も一年生向けだからか簡単だし、同じ歳頃の魔法使いや魔女達とずっと一緒に居るのは新鮮で楽しかった。
 ホグワーツでの魔法の使用は、授業の際と、寮内のみに限られている。授業は当然として、寮の中でも許可されているのは、生徒の自主勉強を促す為と、下級生の面倒は上級生が見ることに決まっている為だ。しかし、思春期の魔法使いが一所に閉じ込められると、当然事故が起きる。廊下で杖を振る生徒は当然居たし、そういう場合は決まって教師や、管理人のフィルチが現れた。
 名前はスリザリンの四年生とグリフィンドールの四年生が揉めている現場に出くわし、すわ決闘かと怯えたが、二人が杖を振る前にマクゴナガル先生が現れたので事なきを得た。マクゴナガル先生はそれぞれの言い分を聞いたうえ、平等に減点していた。皆が杖を持っていると、間違いで大事故が起きるのではないかとハラハラするが、同時に退屈しないことも確かだ。
 それに、一年生は授業数の関係上、金曜は午後から授業が無いので、名前達はワクワクしていた。勿論名前は罰則があるし、当然今日もスプラウト先生が待っている筈だったが、罰則自体は大して辛いものではないので気持ちは軽かった。
 スプラウト先生は名前が目立ちたいが為ではなく、何かの勘違いで結果的に禁じられた森へ入ろうとしたのだと考えたらしい。彼女が命じたのは簡単な書き取り罰で、ホグワーツの校則を写すことだった。持ち込み禁止品を逐一書いたり、禁止事項を書き写すのはかなり退屈な作業だったが、書いてあることを写せば良いだけなのでかなり簡単だ。おかげで使い慣れない羽ペンもすっかりマスターしてしまった。平日毎日なのは憂鬱だが、一時間だけだし、土日は休みにしてくれるというので恐らく楽な部類なのだろう。

 この日の最後の授業は変身術で、名前はやはりこの授業が得意だと感じた。昼食を取りに大広間へ向かいながら、名前はハンナ達と午後から何をするかと話していた。どうやらハンナは、先ほど授業でマクゴナガル先生が参考として挙げた本を図書室で探して読んでみるつもりらしい。名前は舌を巻いた。
「勉強熱心過ぎない? それに、折角の週末なんだよ?」
「だって、変身術ってとってもむずかしくって……授業についていけるか不安なんだもの」
「ハンナ、まだ始まったばっかりだよ。今からそんなこと考えなくっても」
「だって――」
 ハンナは途中で言葉を途切らせた。彼女の視線の先を追うと、教師だろう大人の魔法使いが大理石の階段を上がっていくところだった。名前達がぎくっとしたのは、彼のひょこひょこ歩きの理由が義足だったからか、それともローブから覗く左手が義手だったからか。いずれにせよ、かなり異様な風体だ。
 その魔法使いはやはり先生だったようで、名前達がハッフルパフの長テーブルに着いた時、彼も既に前方の教員用の机に着いていた。
「――どの授業の先生でしょうね」ジャスティンが言った。
 彼は失礼にならないように普段通りの調子を装っているようだが、少しばかり面食らっているのは隠し切れていない。
「……さあ」名前が言った。
 名前は興味が無かったが、ハンナが彼の風貌に怯えていた為、近くに居た上級生に何の先生か尋ねた。彼女は恐らく、今後四肢を失うような授業があるのかとうっかり考えてしまったのだろう。
「ああ、ケトルバーン先生か。シルバヌス・ケトルバーン教授、魔法生物飼育学の先生だよ」
 三年生はそう言ってから、「まあ、僕達もこれから初めての授業だから、どういう先生かは知らないんだけどね」と付け足した。名前は礼を言ってから、「だって」とハンナ達を振り返った。
「魔法生物……何学ですって?」
「飼育学」
 名前が付け足すと、ハンナは口をぎゅっと噤んだ。彼女が「絶対に選択しない」と言った気がしたので、名前は「絶対に面白いよ」と言い張った。
「どうしてそんな事が言えるの?」
「だって、魔法生物飼育学なんて、絶対楽しい筈でしょ? 魔法生物飼育学なんだから」名前が言った。「それにほら、先生の手足は無いかもしれないけど、上の学年にそういう人は居なかったから平気だよ」
 ハンナは名前の渾身の慰めを、何の足しにもならないと感じたらしかった。小さく「それでもおっかないわ」と言った。
「魔法使いなら、失った手や足を新たに付けることは可能ではないんですか?」
「どうかな、元が残ってたら引っ付けられると思うけど」名前が言った。
 義手や義足を動かしやすいように神経と繋ぐのなら兎も角、魔法で失った手を新しく生やすとなると、闇の魔術の領域に踏み込んでしまうだろう。正規の方法でも出来なくはないのかもしれないが、結局のところ魔法使いや魔女ならば杖腕さえ残っていれば日常生活に苦労しないので、ケトルバーン先生もそう考えているのかもしれなかった。

 いいなあ、あたし飼育学の先生になりたい。名前がぽつりとそう呟いた時、ハンナは食べていた卵をこぼした。「気は確か?」
 信じられないとでも言いたげな彼女に、名前はちょっとだけ考えた。先生として生徒を教えるのはかなり大変だろうが、沢山の生き物を扱えるのはとんでもなく魅力的だ。しかし――。
「――やっぱりやめた」
「そうよね」
「だって、ホグワーツじゃドラゴンは飼えないもんね」
「……なんですって!?」
 名前達のやりとりに、ジャスティンが小さく笑いを漏らしていた。
 昼食後、ハンナだけでなくジャスティンも図書室に行くと言うので、名前達は大広間で別れた。名前は樫の大扉を開け、霧雨が降る中、校庭に飛び出した。向かったのは、当然ながら禁じられた森ではない。
 名前はしばしきょろきょろしてから、やがて前方に見えるローブの集団を小走りで追い掛けた。ハッフルパフの、三年生の集団だ。彼らの後ろから、名前はこっそり後を付けた。三年生達が名前が先日森に向かった時と同じ小道を下って行ったので少々ぎくりとしたが、彼らが向かっていたのは禁じられた森ではなく、近くに設えられた放牧場だった。その脇には講義の為だろう、簡易な教卓と椅子が並んでいる。
 どうやら魔法生物飼育学は合同授業だったようで、ハッフルパフ寮生達に混ざり、グリフィンドールの生徒も居た。暫くして授業の開始を告げる鐘が鳴り(不思議な事に、城からかなり離れている筈だが、チャイム音は明瞭だった)、先ほど玄関ホールで見たケトルバーン先生が姿を現した。名前はどきどきしながら、先生が話し始めるのを見ていた。
 校則を書き取る罰則は退屈だが、良い面もある。何をしてはいけないか・・・・・・・・・・が解ることだ。名前が見たところ、別の学年の授業に参加してはいけないという校則は存在しなかった。

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