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名前は自分が校則を破って二百点減点され、罰則まで貰ってしまった事を誰にも言わなかった。ハンナにも、ジャスティンにも、他の誰にも。しかしその日の夜には、少なくともハッフルパフ生の大半がその事を知っているようだった。
夕食の間、名前は周りの生徒達からちらちらと視線を向けられた。どうやらホグワーツでは、驚くほどのスピードで噂話が広まってしまうらしい。絵画の住人達は壁に掛かっているキャンバスを自由に行き来できるようだし、ゴースト達は壁をすり抜けることができるので、おそらくそのせいだろう。
「あの……名前? 貴方が禁じられた森へ忍び込んで、スプラウト先生から減点されたって話を聞いたんだけど……嘘よね?」
恐る恐る、といった様子で話し掛けてきたのは、同じ一年生の女の子だ。
名前が頷くと、彼女達は一様にまさかという顔をした。ハンナとジャスティンがぎょっとして此方を見ているのが解る。女の子達が離れていってから、ハンナは「まさか、本当の事を言ってるんじゃないわよね?」と恐々とした様子で言った。
「まさか、本当だよ」
「嘘……!」ハンナは小さく悲鳴を上げた。
「まあ、もっと正確に言うと、忍び込んだじゃなくて忍び込もうとしただけどね」
「名前……!」
ハンナは愕然とし、ジャスティンは呆気に取られているようだった。二人共それぞれ呆れているようだったが、名前が反省しているのを見てだろう、あまり強くは言わなかった。ハンナは森には危険な魔法生物も居るのだから行ってはいけないと言い、ジャスティンは規則は守らなければならないと言った。名前は頷いた。
ただ、大広間から出た時、二人が砂時計を一瞥しただけで後は目に入れないようにしていたのは少しだけ心に来た。どの砂時計も少ししか石が溜まっていなかったが、ハッフルパフのものだけはまったくの空っぽで、ダイヤモンドは一粒たりとも落ちていなかった。名前が大量に減点されたからだ。名前は深く反省した。寮杯なんて正直どうでも良いと思っていたが、友達に迷惑を掛けたいわけではなかった。
ハンナ達が優しいだけで、きっと他の寮生達には責められるんだろうなと思っていたが、意外な事に、名前は他の生徒達からもあまり責められなかった。名前は一年生であまり規則も知らないし、まさか自分から森に入ろうとするわけもないだろうから、何らかの行き違いがあったのだろうというのが大半のハッフルパフ生の見解のようだった。そして何より、学校が始まったばかりで、減点される点数が少なかったというのも、彼らの怒りを鎮めた要因らしい。馬鹿な新入生を気にするより、ハリー・ポッターの方が、ホグワーツの生徒にとってよっぽど重要だった。
もちろん、名前に対して怒る生徒も当然居た。しかし名前が殊勝にしているからか、彼らも怒鳴り散らす事は無く、「君のおかげで最高のスタートダッシュを切ることができたね」とか、「一度に二百点も減点されることなんてなかなかないよ」とか言うだけだった。
アーニー・マクミランは、名前の減点で怒り狂った数少ない生徒の内の一人だった。「いったい、何て事をしてくれたんだ?」
「君だけの責任じゃない、連帯責任なんだ! 僕達はハッフルパフ寮に選ばれた生徒で、君もハッフルパフだ! 君が目立ちたいと思う分には構わないけど、僕達を巻き込むのはやめてくれ! それに、森へ入るなんて、真っ当な魔女のする事じゃない!」
アーニーは名前と同じ、一年生の男子生徒だ。その彼が丸い顔を上気させ、カンカンになって怒っていた。一体全体、その小さな体のどこからそんなエネルギーが出てくるのかと、いささか不思議になるほどだ。談話室に入った名前を見るなり詰め寄ってきたアーニーに、ハンナとジャスティンは気遣うように名前を見たが、名前は何も言わなかった。
目立ちたいわけでも、度胸が試したかったわけでもなかったが、名前はアーニーの言う事を甘んじて受け入れていた。悪いのは名前で、彼の言うことはもっともだったからだ。
「君は僕がフリットウィック先生から貰った二十点をパアにしたんだ!」
「……えっ、待ってそれを怒ってたの?」
粛々としていた名前だったが、思わず口を挟んだ。すると元々赤らんでいたアーニーの顔がみるみるうちに真っ赤になり、名前は自分の失言を悟った。
アーニーは更に怒り出そうとしていたが、上級生が間に入ってくれた為、それ以上何も言わなかった。彼は名前に強烈な一瞥を投げ、肩を怒らせて去っていった。
次の日になっても、アーニーの怒りは収まっていないようだった。談話室で顔を合わせた時、アーニーは明らかに眉を顰め、名前が「おはよう」と言っても何も言わずに出て行ってしまった。
「嫌われちゃったみたい」名前は何でもない事のように言ったが、ハンナは困った顔をしていた。
ジャスティンも合流し、三人は大広間へと向かった。
朝食の時間に合わせて梟郵便が届くようになっていたが、名前は昨日と同じ新聞を運ぶ森ふくろうだけでなく、群れの中にデメテルの姿もある事に驚いた。しかも手紙を運んでいる。
名前が手紙を受け取ると、デメテルは名前の皿から勝手にベーコンを摘まみ、そのまま飛び立っていった。差出人は当然キングズリーだ。名前は手紙を開封しながら、そういえば手紙を書くように言われていたなと思い出した。昨日は色々あったし、元より週末に出そうと思っていたのでまだ書いていなかった。
親愛なる名前へ
ホグワーツへの入学おめでとう。初めての寮生活はどうですか。慣れない事も多いと思いますが、貴方は友達を作るのが上手なので、きっとホグワーツでも上手くやっていけるでしょう。貴方はグリニッジに来た次の日、もうお友達と遊んでいましたね。私はとても驚きました。
それから、貴方はハッフルパフ寮へ組み分けられたと聞きました。貴方の口から直接聞けなかったことは残念ですが、私も名前の事を誇らしく思います。
さて、スプラウト教授から、貴方が禁じられた森へ入ったと聞きました。私は教授からの手紙を三度読み返し、信じられない思いでした。もしや自分の目は昼間受けた呪いが掛かったままで、実は全然別の事が書いてあるのではないかと疑いました。私の目は問題ありませんでした。次に、私はこの手紙は教授なりのジョークなのではないかと思いました。しかしながら、スプラウト教授は真摯な方なので、そんな悪質な冗談は仰らないでしょう。
貴方は本当に禁じられた森へ入ったのですか?
もしそれが本当ならば、それはとんでもない事です――
それ以降は説教が続いていて、名前は手紙を読むのをやめてしまった。もっとも頭ごなしに𠮟り付けるというよりは、困惑しておりしかし寮監の言葉が嘘とも思えないので一先ず注意を促すといった形だった。確かに、入学したばかりの一年生が森に忍び込もうとするというのは、なかなか信じられないものかもしれない。
名前は手紙は鞄にしまい込むと、そのまま忘れてしまった。
禁じられた森侵入未遂事件があってから、名前は何となく、教師達が自分を見る目が初めより厳しくなったように感じた。
この日の最初の授業は二度目の呪文学だったが、フリットウィック先生は授業中、何度も名前に視線を寄越した。名前が授業を抜け出して、禁じられた森へ走り出すと思ったのかもしれない。
二限目は変身術だったが、担当のマクゴナガル先生は出席を取った時、明らかに名前を数秒間見詰めていた。その険しい表情ときたら。しかしながら、名前がいの一番にマッチ棒を針に変えた時は、先生はそれまでにない穏やかな微笑を浮かべ、初めての授業で成功させる生徒はなかなか居ないと言って、ハッフルパフに五点をくれた。名前は変身術は得意科目かもしれないと感じた。
最悪だったのは午後の魔法薬学だ。スネイプ先生は若い男性教師だったが、真っ黒なマントを着ていて、低い声でぼそぼそと話した。魔法薬学の教室は地下にあり、壁一面に材料や薬品の詰まったガラス瓶が並んでいて、四六時中こういう所で過ごすとこういう人間になるのかもしれないなと名前は失礼なことを考えた。スネイプ先生は、一見すると育ち過ぎたコウモリのようだ。
そしてそのスネイプ先生は、どうやら名前の事がかなり気に食わないらしかった。おできを治す薬を調合する授業中、全員が一度はヘビの牙の砕き方が甘いやら、火加減が間違っているやらと注意されたが、名前に対する態度は他とは違っていた。名前は確かに干イラクサの分量を間違えそうになったし、牙の砕き方が甘いと注意されたし、ヤマアラシの針をうっかり火を消す前に加えそうになったが、最終的には薬を調合することができた。むしろ隣のハンナは緊張やら、注意された事への恥ずかしさやらでいっぱいになり、薄水色になる筈の薬が蛍光色の紫になっていたのだが、何故かハンナではなく名前が注意された。
「同窓の友であれば、注意を促すのが一般的だと思うがね。ミス・名字、君の自分本位な態度に対し、ハッフルパフ五点減点」
名前はぱかっと口を開けた。理不尽すぎる減点だが、誰も何も言えなかった。スネイプは有無を言わさない雰囲気だったからだ。折角変身術でマクゴナガル先生が褒めてくれたのに、これでプラスマイナスゼロになってしまった(二百点のマイナスを含めれば、マイナス二百のままなのだが)。あのアーニーでさえ、名前に対し、微かに同情しているような表情を浮かべた。
前日に、スネイプは誰にでもそうだから気にしないように、と上級生達が気を遣って名前達一年生に教えてくれていたが、悪い意味で想像以上だ。どうやらスネイプ先生は名前を問題児と見なし、他よりも厳しく接するように決めたらしい。魔法薬学が週に一度しかないのが不幸中の幸いだ。名前はこれからの魔法薬学を思い、小さく溜息をついた。
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