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薬草学に使う温室はいくつかあったが、名前達一年生は一号温室で授業を受けることになった。温室に入ると、土と花、それから肥料の匂いが鼻を衝いた。温室内には見慣れない植物はもちろん、見た事もないような奇妙な花や植物が所狭しと植えられている。中央のスペースは広く設けられていて、そこには教卓代わりの架台があり、その手前には名前達が使うのだろう小さな作業台が人数分並べられていた。
担当のスプラウト先生は老年の小柄な魔女だったが、とてもはきはきしていて、感じの良い先生だった。継ぎ接ぎだらけの帽子を被っていて、ローブは何故か既に泥だらけだ。ちなみに、名前達ハッフルパフ生にとっては、彼女は寮監の先生でもある。
スプラウト先生は名前達が全員温室に入った事を見届けると、まず初めに「こんにちは、皆さん」と挨拶をし、出席を取り始めた。先生は一人一人名前と顔を確認していたが、ハリー・ポッターの番になると、僅かに身を強張らせた。生き残った男の子は教師にとっても興味の対象らしい。
全員が揃っていることを確認すると、名前達がこれが初めての授業だからだろう、スプラウト先生はホグワーツの授業についての簡単な説明した。授業の時でも寮の得点の加点や減点は行われる為、予習や復習を怠らないよう努める事。六月には試験があり、成績が悪ければ留年もあり得るという事。その後、先生は薬草学についての注意事項を話し始めた。
「植物は非常に身近な友人でありながら、同時に危険な暴徒でもあります。例えば毒触手草、悪魔の罠。ロートスの木、ムコドの木。この一号温室にはそうした危険な植物は植わっていませんが、皆さんの学年が上がれば、当然そういった植物も扱っていく事になります。なので、上級生が使う温室には決して許可なく入らない事」
しかしながら、とスプラウト先生が優しく言った。ハンナを始め、名前達の何人かが震え上がったからだろう。「いかに攻撃的な性質を持つ植物でも、皆さんがきちんと勉強をしてさえいれば、危険な事は何もありません」
「毒触手草は絡め取られれば厄介ですが、初動が非常に緩慢なので、魔法で簡単に弾くことができるでしょう。慣れれば素手でも対処できるようになります。気を配っておけば、トラブルになる事はありません。その代わり、もしも気付かずに巻き付かれてしまった場合には、焦らず冷静に対処する事。切り裂き呪文はとても有効な手段となります。悪魔の罠も同じく蔓性植物ですが、毒触手草より更に強力で、悪魔の罠は一瞬で獲物を絞め殺します。しかし暗闇や湿気を好み、乾燥や日光を嫌います。日の光を当てたり、火を付けることができれば容易に逃れる事ができるでしょう」
皆さんが勉強に励み、植物や薬草についての理解を深めてくれることを望みますとスプラウト先生は言葉を結んだ。
その後、名前達は『薬草ときのこ一○○○種』を片手にノートを取り、その後飛びはね毒キノコの世話について学んだ。あからさまに毒々しい色をしていて、そのうえ名前の通りぴょんぴょん跳ねるキノコだ。毒があるのに跳ねるのかと思ったが、スプラウト先生が言うには、逃げる為ではなく主に胞子を撒く為にジャンプするらしい。名前はこれがホークランプならなと思いつつ、霧吹きで水を掛け続けた。
次の授業は呪文学だった。フリットウィック先生はかなり小柄な男性で、甲高いキーキー声で喋った。しかし口調は朗らかで、理論立って話したので授業自体は解りやすかった。もっとも、習った事をきちんと実践できるかはまったく別の問題だ。
フリットウィック先生も、スプラウト先生と同じようにまず初めに出席を取った。その後呪文学についての基礎を話し、それから生徒達にいくつか質問をした。手を挙げた生徒は少ないが、まったくのゼロというわけでもない。どの質問にも名前は挙手しなかったが、隣に座るジャスティンは綺麗に手を挙げていた。今回指名されたのは別の男子生徒だった。
「バルッフィオです。彼は呪文を間違えて、バッファローに変身させてしまいました」
「オーッ、その通り、よく勉強していますね!」フリットウィックはニコニコだ。「ハッフルパフに五点!」
「本来なら『F』の発音をしなければならないのに、彼は『S』の音をしてしまった。その結果、バルッフィオはバッファローに押し潰されてしまった。我々が使う魔法は呪文を礎にしていて、非常に利便性が高いですが、同時に小さな間違いが大きな過ちに繋がってしまう事にもなります。良いですか皆さん、呪文は一音一音、丁寧に発音すること」
フリットウィックが杖を振ると、彼が踏み台にしていた本に羽が生え、ぱたぱたと羽ばたき出した。先生が頭上よりも高く浮き上がると、名前達は歓声を上げた。再び杖を振ると教卓がぴょんぴょん駆け出し、羽ペンはタップダンスを踊った。フリットウィック先生がもう一度杖を振ると、それらは全て元通りになった。先生は積み上がった本の上に綺麗に着地した。
名前達は早く魔法を使ってみたくてたまらなかったが、その日はフリットウィックの説明を聞いたり、板書を逐一書き写したりするだけで終わってしまった。どうやら魔法をきちんと使うには、きちんとその理論を理解してからでなければならないらしい。
名前達は呪文学の後、大広間へ向かって昼食を摂った。午後は魔法史だったが、かなりつまらない授業だというのは衆目の一致するところだった。授業の中で一番盛り上がったのが担当教諭が教室に入ってきた時というのは、正直かなり難ありだ。ビンズ先生はゴーストだったが、彼がゴーストであることは講義のつまらなさにはまったく関係ないだろう。
昼食後の授業ということもあって、名前は全力で堪えようとはしていたものの、ハンナに何度も肩を揺すられる事になってしまった(そのハンナもかなり眠たそうにしていた)。
授業が終わった後は、各々好きなことをして良いことになっていた。名前達一年生は授業が少ないので、この日の授業はこれで終わりだった。魔法史の教室を出ながら、名前達はぺちゃくちゃと好きな事を話していた。ある者は寮の掲示板に出ていた呪文クラブを見に行ってみようと言い、勉強熱心な者は図書室へ行って勉強をすると言い張った。
ハンナは談話室に戻って明日の授業の予習をすると言った。
「名前も一緒に行きましょうよ」
「ごめんね、あたし行くところがあるの」
ハンナは目を丸くし、ジャスティンと目を見合わせた。「入学したばかりなのに、もう予定があるの? どこへ行くの?」
「――内緒」名前はにやっと笑った。「ハンナ達も一緒に行く?」
ハンナは困ったような顔をしていたが、結局ハンナは断り、ジャスティンも同じように首を振った。名前は玄関ホールで彼らと別れ、二人の姿がドアの向こうへ消えるのを確認してから踵を返した。四つの巨大な砂時計(中に詰まっているのはなんと宝石で、どれもほんの少しだけ下方に石が落ちていた)の横を通り、樫の扉を抜けて城の外へ出た。
良い天気、とは言えなかった。雨こそ降っていないものの、薬草学の時には薄曇りだった空は殆ど雲に覆われている。名前が住んでいたのはイングランドでも南の方なので、もはや涼しいほどだ。学校が始まったばかりだからだろう、外に出ている生徒は殆ど居ないようだった。名前は左右を確認してから何気ない仕草で歩き出し、そして駆け出した。良い天気ではないが、初めての森探索には絶好の日和だった。
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