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 ホグワーツには四つの寮があり、生徒達はその内のどれか一つの寮に所属し、学校での七年間を過ごすことになっていた。両親が魔法族で、後見人も魔法使いである名前はもちろんその事を知っていたし、きっと自分は両親と同じスリザリン寮になるのだろうと想像したことも何度かあった。蛇は好きだし、緑色だって悪くない。ちなみにキングズリーはグリフィンドール寮出身で、名前にもグリフィンドールになって欲しそうだったが、彼がそれを口にしたことは無かった。名前自身、自分が勇猛果敢だなんて思っていなかったので、それで良かったのかもしれないが。

 湖を渡り、城に着いた後、名前達は背の高い魔女の引率で小部屋に集められた。そして少ししてから(途中、ゴーストの一団が名前達の居る部屋を通り・・過ぎ、悲鳴や歓声が上がった)大広間へと案内された。かなり広い部屋で、巨大な長テーブルが四つ並んでいた。その席には大勢の生徒が行儀良く座っており、名前達を見詰めていた。恐らく全生徒が集まっているのだろう。頭上には当然屋根がある筈だが、どうやら魔法が掛かっているらしく、天井には満天の星が映し出されていた。幾千もの蝋燭がふわふわと漂う中、名前達は好奇の視線に晒されながら、大広間の上座付近まで歩いた。
 上座には四つのテーブル――恐らく、寮で別れているのだろう――とは別の、やや小振りな長テーブルが、四つのテーブルに垂直になるように据えられていた。座っているのは皆大人の魔法使いや魔女であり、彼らが教職員であることは一目で解った。当然ながら、皆ローブを身に纏っている。端の方には城まで案内してくれた大男も座っていた。
 背の高い、エメラルド色のローブを着た副校長のマクゴナガルは、一年生が揃ったのを確認すると、四本足のスツールを宙から取り出し、その上に見すぼらしい三角帽子を置いた。それから帽子は歌い始め、四寮の特質を紹介した。グリフィンドールは勇敢さ、ハッフルパフは誠実さ、レイブンクローは賢明さ、そしてスリザリンは狡猾さ。また、この帽子は「組み分け帽子」であり、新入生の入る寮を選別する役目も担っているらしかった。
 名前は四つの寮がある事は知っていたものの、生徒の寮を選ぶのが帽子だとは知らなかったので、かなり驚いた。周りを見た限りでは名前の他にも驚いている生徒ばかりで、恐らく彼らも親や兄弟に教えられなかったのだろう。『ホグワーツの歴史』にも書かれていなかったので(本には生徒の素質を以て選ばれるとしか書かれていなかった)、どうやら組み分けは公然の秘密という事のようだ。
 帽子が歌い終わると、マクゴナガル先生が名を呼ばれた順に椅子に座って組み分けを受けるようにと言い、それから組み分けの儀式が始まった。


 一年生が組み分け帽子を被ってから、寮が決まるまでにはそれぞれ時間に差があった。一分足らずで決まる子も居れば、数分掛かってやっと発表される子も居たのだ。例えばホグワーツ特急でヒキガエルを探していた二人組は、二人共かなり時間が掛かっていたし、例のハリー・ポッターも決定までには数分が経っていた。
 生徒が帽子を被ると、暫くの静寂の後、帽子は「レイブンクロー!」やら「グリフィンドール!」やらと叫んだ。四つのテーブルはやはり寮毎に分かれていたようで、呼ばれた寮の上級生達が新しい家族をそれぞれ拍手で出迎えた。
「名字・名前!」
 名前はマクゴナガル先生に名を呼ばれた時、意気揚々と前に進み出た。どの寮でも良かったが、しいて言うならスリザリンが良いな、と、そんな事を考えていた。
 組み分け帽子は近くで見れば見るほどボロボロで、過去千年間ずっと使われているからだろう、布地が薄くなっているところもあるようだし、何なら継ぎ接ぎだらけだった。魔法が掛かってはいるのだろうが、この調子でパッチワークを続けていくと、元の帽子はすっかり無くなってしまうんじゃなかろうか。まさか、初めからこんなにボロボロだったわけではないだろう。
 そして、名前が組み分け帽子を手にした時だった。「ハッフルパフ!

 しん、と辺りが静まり返った。名前は帽子を受け取った体勢のまま、びしっと固まってしまった。帽子が寮の名前を叫んだ。名前はまだ座ってもいないのに。
 誰も何も言わなかった。近くの新入生達はぽかんと名前を見ていたし、座って見守っている上級生達も唖然としていたし、マクゴナガル先生ですら少しばかり目を丸くさせていた。名前が動かなかったのを見てだろうか、帽子は「ハッフルパフ!」と再び叫んだ。
「に、二回も言わなくても聞こえてるよ!」
 名前は小さく悲鳴を上げた。
 やがてハッフルパフの長テーブルからぱらぱらと拍手が鳴り始め、それから普段通りの喝采が沸き起こった。いや、いつも通りではなかった。その拍手には明らかに笑い声が混ざっていた。名前は次に名前を呼ばれた生徒に組み分け帽子を渡すと、真っ赤な顔のままハッフルパフ寮の長テーブルへと小走りで向かった。
「すごいよ、きっと最短記録だ」
 近くに座っていた上級生は笑いながらそう口にし、名前は「どうもありがとう!」と唸った。

 組み分けの儀式が終わると、ダンブルドアがごく短い挨拶をし(「新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。では、いきますぞ。そーれ! わっしょい! こらしょい! どっこらしょい! 以上!」)、そうかと思えばいつの間にか金皿が料理で埋め尽くされていて、新入生の歓迎会が始まった。
 ディナーは素晴らしかったが、こんなに大勢で同じテーブルを囲んでの食事は初めてだった為、ついつい食べるのが遅くなってしまった。ローストしたポテトも、揚げた魚も、シェパーズパイも何もかも美味しいが、同じ歳の子達とわいわい話しながら食べるのはもっと最高だ。
 歓迎会の後半では、名前は殆ど聞き役に回っていた。同じテーブルの一年生達は、ホグワーツでこれから何が待っているかについてや、それぞれの家族について話していた。名前のはす向かいの辺りに座っていた金髪の男の子は、自分は代々魔法使いの家の出で、ホグワーツに来ることは生まれる前から解っていたのだと言った。また、どうやら同じ寮だったらしいジャスティンは、既に決まっていた学校を辞退してホグワーツに入学したのだと話していた(マグル界では誰でも知っている名門学校なのだが、イートン校を蹴ったという事実に衝撃を受けた様子だったのは、見たところほんの数人だった)。
 やがて料理の皿がデザートの皿に変わり、そしてまた元のぴかぴかの大皿に戻った。ダンブルドアが話し始めた。「新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある」
「一年生に注意しておくが、構内にある森に入ってはいけません」
「森? 学校に森があるの?」名前は思わず小さな声で言った。「どうして入っちゃいけないの?」
「そりゃ、森には危険な魔法生物がたくさん棲んでるからさ」
 近くに居た上級生が同じくひそひそ声で答えてくれた。名前ダンブルドアのとびきり長い白髭から目を離し、「何が居るの?」と振り返ったが、三つ編みを垂らした同じ一年生の女の子が「校長先生のお話をちゃんと聞かなきゃだめよ!」と小さく注意したので、渋々また前を向いた。
 ダンブルドアはその他の注意事項について話していたが、名前は禁じられた森について考えるのに忙しく、あまりちゃんと聞けていなかった。ホグワーツの近くにはマグルが住んでいない筈だし、となるとかなりの魔法生物が居る筈だ。『危険な魔法生物』とはいったい何だろう。ひょっとするとグラップホーンとかが居たりするだろうか。
「最後ですが、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下に入ってはいけません」

 やがて生徒と教師全員で校歌を歌った後(かなりヘンテコな歌だった。歌詞も変だし、好きなリズムで歌って良いなんて洒落過ぎている)、名前達は監督生の引率でそれぞれの寮に向かう事になった。
 大理石の階段を降り、左手にあるドアを通って再び階段を降りると、松明が掲げられた廊下に出た。地下の筈だが、不思議と重苦しくなく、むしろ松明の炎が柔らかく燃えていて、かなり明るい雰囲気だ。
 少し歩くと大きな樽が山積みになっていた。ハッフルパフ寮はこの樽の先にあるのだという。監督生のガブリエルが決まったリズムで樽の蓋を叩かなければならないと説明した時は少々身構えたが、なんて事はない、数回叩けば良いだけだった。ヘル、ガ、ハッ、フル、パフ、とっても簡単だ。
 土の坂道を上った先は円形の広々とした空間だった。部屋の形も丸ければ、ドアも丸いし、本棚まで丸い。天井は低いが、居心地は良さそうだ。ガブリエルは新入生が全員迷子にならずについてきている事ににっこりすると、ハッフルパフ寮内の簡単な案内や、学校生活での注意事項を教えてくれた。
「――ハッフルパフが一番賢明ではないという噂だけど、それは根強い誤解なんだ。つまり、僕達は確かに一番うぬぼれてない寮だけど、才能ある魔法使いを輩出した数でいったら他の寮と遜色ないんだよ。グローガン・スタンプは歴代の魔法大臣でも最も有名な一人だし、アルテミシア・ラフキンとドゥガルド・マクフェイルもそうだ」
 ガブリエルがハッフルパフの歴代のお偉方々について紹介している間、名前は談話室の中をあちこち見回していた。ソファーのクッションはどれも座り心地が良さそうだし、部屋のあちこちに不思議な植物の鉢植えが置かれていた。部屋の隅でゆっくり揺れているものもあれば、天井から吊り下がっているものもある。不思議な事に窓がいくつかあり、下草が月明りに照らされているのが見えた。また、マントルピースには穴熊らしき意匠がいくつも施され、暖炉の上には魔女の肖像画が掲げられていた。魔女は名前と目が合うとぱちんとウィンクをし、それから金のカップを小さく掲げてみせた。名前は目を丸くさせた。
「――それに、魔法生物の世界的権威、ニュート・スキャマンダー」
 聞き慣れた名前にはっとし、ガブリエルを見る。「数字の7の魔法的な力を初めて発見したブリジット・ウェンロック、ホグズミードを作ったウッドクロフトのヘンギスト、みんなハッフルパフさ」
 それからは偉人の出身寮について揉めてしまいレイブンクロー生と決闘した話や、ハッフルパフ寮がいかに闇の魔法使いを輩出していないかという話になっていった。名前は辛抱強く聞いていたが、結局、最後の方は殆ど聞き流してしまった。
「ホグワーツで一番親切で、慎み深く、辛抱強い寮の一員になれておめでとう」ガブリエルはそう言って、穏やかに笑ってみせた。

 談話室の奥に丸いドアがあり、そこからアナグマの巣穴のようなトンネルの廊下が伸びていた。名前達はそれぞれ寝室へ向かい(名前は五人部屋だった)、挨拶もそこそこに、パジャマに着替えるとすぐさまベッドに潜り込んだ。
 同室の女の子達は、殆どすぐに寝てしまったようだった。名前も隣のベッドの女の子の寝息を聞きながら、とても良い気持ちでまどろんだ。どうせなら親と同じ寮になりたかったし、残念ながらクラッブとも別れてしまったが、ここでも楽しくやっていけそうだ。何せ、あのスキャマンダーもハッフルパフだったのだ。いつしか名前は眠ってしまい、こうしてホグワーツの最初の一日は終わりを迎えた。

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