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飾りばかりの扉をノックすれば、中から様式に則っただけの返事が聞こえた。特に何の躊躇もなく名前が部屋へ入ると、その部屋の主であるキリサキングと目が合った。その脇には例の人間の子供が、ぶるぶると震えながら立っている。
「ああ……名前ちゃんか」
吐き捨てるような声音だった。
彼のお楽しみを、あと一歩のところで引き延ばしにしてしまったのかもしれない。申し訳ないことをしたなあと、名前は少しだけ反省した。
「その子供、まだ生きていたのね」
「ああ……」キリサキングはぼんやりと宙を見上げた。もっとも、彼の刃たる両腕は、人間の子供から少しも離されてはいなかったが。「ガロウちゃんは駄目だったよ」
「このガキを殺さなかった」
名前は「人間怪人ガロウ」とやらに、会っていなかった。彼がヒーロー協会に喧嘩を売っていたことは知っていたが、さしたる興味は抱かなかったのだ。人間を躊躇なく殺すことができたら怪人の仲間入り。しかしガロウは、人間を百人殺すどころか、子供一人殺さなかったらしい。
運よく今まで生き延びてきた子供に、名前は目を向けた。名前が人間に近い成りをしているからか、その子供は今必死になって名前に助けを求めている。黒い煙を吐き出しながら笑ってみせると、人間の子供はそれ以上何もしなかった。
見れば見るほど、不細工な子供だった。しかしそんな子供ですら、キリサキングの目に留まるのだから妬ましい。彼自身の殺戮衝動を抑える為に、と連れてこられたその子供。
このガキを殺して見せれば、キリサキングは私を殺してくれるだろうか。
「もしかして、名前ちゃんもそっち系? あなたもさあ、元人間だったよね。子供が殺されるのは駄目だ……って?」
「ううん、まさか」
「さすが名前ちゃん」
はは、と、キリサキングは乾いた笑みを漏らした。
結局のところ、私は彼が楽しそうにしているのが好きなのだ。キリサキングに殺されたいのも本心だが、彼の笑顔を奪ってまで殺されたいとは思わない。
キリサキングが人間の子供に目を向けると、不細工な子供はびくりと身を震わせ、がたがたと震え出した。その様が愉快で仕方ないという風に、キリサキングはうっすら笑っていた。
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