ごわごわ
私はそんなに物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
いや、確かに思ってはいたさ。触りたい触りたい触りたい。だからといって、命を救われたすぐ後で、まさか「可愛いですね、ちょっと触ってみていいですか」なんて、名前だって言わない。死んでも言わない。
ごく間近で見た番犬マンは、それはもう、ふかふかしていそうだった。白い毛のコスチュームは、今やその大部分が血に染まっている。しかしだからこそ、汚れていない白い部分がよりいっそう柔らかそうに見えるというか何というか。
番犬マンは特に表情を変えず、「触らないのか」と言った。
触ってみるか、と言ってくれた彼は、もしかすると「触って良いですか」と聞かれ慣れているのかもしれない。
「ほ、本当に良いんですか?」
「そう言ってる」
「し……失礼します!」
名前は番犬マンの左頬辺りに手を伸ばした。先程盛大に巨大怪物の首を捩じ切っていた彼は、真正面から血を被ったらしく、白い部分を探す方が難しかった。比較的広いのが、彼の顔の左側の部分だったのだ。番犬マンはぴくりと体を揺らしたが、名前の手を拒みはしなかった。
「おお〜……お、お? うん?」
ごわごわ、ごわごわ。
「思っていたよりも柔らかくないです」
「だろうな」
柔軟剤使ってないからな、と番犬マンは言った。いやに生々しい。
「かったい……番犬マンさんのすごいかったい……」
「お前その言い方は語弊あるだろ」
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