強気にグイグイ攻めてきて、バシッと決めてくれる子

 ショットの「あれ、サテツじゃないか?」という声に、ロナルドは彼が指し示した方を見た。少し先を、確かにサテツらしき人が歩いている。彼の二メートル近い身長は見落とす方が難しいし、いつも頭一つ以上飛び出ているおかげで遠くからもよく見えるのだ。ただしその彼は今、小柄な女性――サテツと比べると誰でも小柄に見えるので、あの女性も特別小柄というわけではないかもしれない――と一緒に居る。
 ロナルドがバッとショットの方を見ると、ショットも同じようにロナルドを真剣な眼差しで見詰めていた。
「……えっ、あれはアレなのか? 道聞かれてるとかでなく?」
「馬鹿、道聞かれてるだけならああも一緒に歩くかよ。いやサテツだったら道案内くらいしそうだけど」
「きゅ、吸血鬼に美人局されてるとか……」
「俺らじゃねえんだぞ」ショットはそう言ってから、「言ってて悲しくなってきたわ」と呟いた。
 歩いている内に、段々とサテツの後姿が大きくなってきた。同時に、一緒に居る女性の姿もよく見えてくる。特別派手ではなく、さりとて特別地味でもなく。大人しそうな女の子だ。
 ただの通行人、道を聞いているだけの人、退治人を罠に掛けようとしている吸血鬼、退治人仲間、コバルくんの友達、etc。考えに考えたが、サテツを見上げて笑っている彼女の横顔は楽しげで、女性経験が皆無に等しいロナルドであっても流石に認めざるを得なかった。サテツには、彼女が居たのだ。

 このまま歩いていれば、サテツ達に追い付いてしまうのでは――ロナルドは漸く、サテツが隣の女性のペースに合わせて歩いていることに気が付いた――そう思った時、前を歩いていた二人は手を振り、それぞれ別の道を歩いていった。ロナルドはショットと目を見交わし、次の瞬間には走り出していた。


 ショットが声を掛けると、サテツはかなり驚いたようだった。そして二人掛かりで彼女なのかと詰め寄れば、始めは誤魔化そうとしていたものの、やがてはこくりと頷いた。人の良さが邪魔してしまったのだろう。サテツは今、見ている此方が照れてきそうなほどに真っ赤になっている。
「水臭いぜ、彼女居たこと隠してたなんてよ」
「別に隠してたわけじゃ……というか聞かれなかったし……」
「それでも紹介してくれたって良いじゃねえか。俺達、友達だろ?」
「退治人とは何の関係も無い子だし、紹介したって皆だって困るだろ」
「うーん正論」
 確かに、同僚且つ友達の彼女ほど、接し方に困る人間は居ない。ロナルド自身、あの女の子を紹介されたところで、まともに会話が続かないことは手に取るように解る。万が一二人きりになってしまった場合、気まずい沈黙が場を支配すること請け合いだ。
 それならよ、とショットが切り出した。「あの子が――あっちの方でリードしてくれる子なのか?」

 一瞬の間。サテツは「わーーーー!!!」と大声を上げたが、ショットは少しも怯まなかった。ロナルドはそんな彼を尊敬しているし、同時にサテツが彼女を紹介しなかった本当の理由に、何となく察しがついてしまう。
「強気にグイグイ攻めてきてバシッと決めてくれる子が好きなんだろ?」
「そ、そそそそれは物の例えだろ!」
「ちょっとぶたれたりもしたいって?」
「名前はそんなことしないもん!」
「ふーん、名前ちゃんっていうのか……」
「わーーー!!!」
「お、おいその辺りにしてやれよ、サテツ泣いちゃうだろ」
 ロナルドがそう口にした時には既にサテツは泣いていた。大きな体を縮こまらせ、しくしくしている。しかしながら、「好きになった子と好きなタイプとは違うんだよ……」とめそめそと泣きながら言われ、ロナルド達の方が大怪我を負う結果となった。
 あの、サテツくんのお友達なんだよね……?と、スマホを構えつつ、恐々とした様子でサテツの彼女が話し掛けてきたのはその時だった。サテツの声が聞こえてきたような気がして、急いで戻ってきたのだという。通報一歩手前な彼女の様子に、ロナルドとショットは死に物狂いで弁明する羽目になった。ちなみに、サテツは羞恥に死んでいた。


 結局、その後無事に復活したサテツは、ロナルド達に自分の恋人の事を紹介してくれた。未だ恥ずかしそうにはしていたが。
 名前は名前で、彼女が下等吸血鬼に襲われていたところをサテツが助け、それが縁で知り合ったらしい。ぺこりと頭を下げた名前に、ロナルドとショットも慌てて頭を下げる。
 名前が言った。「えーとそれで、あっちの方でリードされたいっていうのは……」
 サテツが再び「わーーー!!!」と泣きながら叫んだが、ロナルドとショットもそれは同じだった。サテツがいつ義腕を振り回して暴れ始めるか解らなかったし、むしろ今後、サテツがオンオフ関わらず敬語で話してくる可能性だってある。
「いつも無理にしてくれてるんだったら――」
「違、そういうわけじゃないから! ほんとに!」
「けど――」
「名前は気にしなくていいから!」
「サテツくんが喜んでくれるのなら、私もがんばるね」
「えっ!?」
 頬を染めてそう口にする名前に、真っ赤な顔で彼女を見るサテツ。ロナルドとショットは心に深い傷を負い、サテツはそれから暫く口を利いてくれなかった。

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