キングと私
あ、と、名前は思わず声を漏らした。
指先には赤い玉が浮かび上がり、それがやがて膨張して――なんて可愛いものではなかった。思いの外ざっくりやってしまったらしい。一瞬にしてスプラッタだ。だらだらと流れ続ける血液を前に、名前はぼんやりとしていたが、やがて我に返った。取り敢えず口に含んでおく。鉄臭いし何よりまずい。
ゆっくりと口から出してみれば、すぐに血が噴き出した。これ、ほんと深いとこまで行ってんじゃね?
仕方なく、手近にあったキッチンペーパーを手に取り、ぐるぐると巻き付けた。
「キング氏ー、絆創膏持ってない?」
「は? 絆創膏?」
見事に16コンボが決まっているところだった。
ちょっと指切った、と言うと、キングはぎくりと身を震わせ、ゲーム画面を一時停止させ、此方を振り返った。
「ウワアアアアァァァ」キングが叫んだ。
「驚き過ぎでしょ……それより絆創膏……」
「名前氏それ! それは絆創膏には少し荷が重いかと!」
「いやいやいや、ほんと大丈夫だから落ち着いてよ」
あわあわとキングが立ち上がり、その無駄に大きな図体であちこちの引き出しを開け始めた。ご丁寧なことに、キングエンジンも作動している。心配性というか、ビビリというか。そう思い笑いながら手元を見てみると、キッチンペーパーは見る影もなく赤く染まり、それどころか血が滴っていた。
うん、これは引くわ。
バタバタ、バッターンと喧しい音を立てながら、キングが救急箱を抱えて駆け寄る。彼の家に救急箱などというものがあったことに驚きだ。本人よりも慌てているものの、彼は名前が何を言う間もなく消毒をし、ガーゼを当て、包帯を巻いてくれた。
元の指の三倍の太さになっている指を見ていると、キングがおずおずと言った。心なしか顔色が悪い。
「びょびょびょ病院へ行こうよ名前氏。付き添うから」
「や、大丈夫だよ。派手に血は出たけど、全然痛くないから」
「本当に?」
「ほんとほんと」
にへらと笑うと、彼の方も漸く納得してくれたらしい。それ以上、病院へ行こうとは言わなかった。時々心配そうに名前の方を見やるばかりだ。
本当はもう傷口なんて塞がった、なんて言わない方が良いんだろうなあ。
名前はそう思いながらも、包帯で太くなった指を見てにやにやするのを止められなかった。まあでも、料理なんてするもんじゃないな、やっぱり。
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