真夏の夜の

※ソニックがナチュラルに変質者。うっすら性的。




 その青年を前にして、名前は唖然としながら一切の動きを止めた。パジャマ代わりのハーフパンツを履こうとして、片足を上げたところだった。自分がそのままの体勢で動きを止められたことに感動する。それから、最低限の衣服は着ていて良かったと思った。下着はちゃんと上下付けているし、Tシャツだって着ている。寝間着の代わりにしているそれのおかげで、ギリギリ――ギリギリ、大事な所は見えていない筈だ。
 と、いうか、
「……え、誰?」
 名前の口から言葉が漏れ出した。
「音速のソニックだ」男が答えた。
 それはもう、あっさりと答えた。

 段々と、名前の頭が冴え出す。この男は誰だ。いったい私の部屋で何をやっているのだ。ぽたりぽたりと、名前の髪から滴が垂れた。
 変質者――そうとしか思えなかった。見覚えのない男、聞き覚えのない名前。挙げ句の果てに、此処は私の部屋だ。誰かを招いた覚えはないし、そもそも私は今までシャワーを浴びていたのだ。そして、浴室から出た時には確かに誰も居なかった。
 場違いにも、窓から入り込む夜風がひどく気持ち良かった。そう、窓が開いているのだ。
 窓は、開いているのだ。
 この……音速の、ソニック? とかいう輩は、窓から入り込んだらしい。そりゃ、こんな真夏の時分、エアコン代をケチって窓を開けておくことぐらいあるさ。此処はマンションの十二階だ。まさか窓から不審者が入ってくるなんて、思わないじゃないか。

 名前の頭の中に、最悪の場面がさっと浮かんだ。考えないようにしていたのに。

 見れば見るほど見覚えのない、というか、本当に見た覚えがなかった。誰だこいつ。この明らかな不審者は、存外整った顔をしている。街中で会ったら、振り返ってしまいそうなくらいには。
「そんなに見詰めるなよ」
 その言葉を聞いた時には既に、男の手は名前の腰に回されていた。ちょっと待て、何が起きた。驚きの声を上げたかったのに、それすらも未遂に終わることとなる。叫ぼうとしたその時には、もう口が塞がれていたのだ。
 ぬるりとした男の舌が、名前のそれを絡め取る。突如として現れた異物の感覚。そしてキスの相手が見知らぬ男だということに、名前は吐き気を催しそうになった。我に返って男の両肩を押したのだが、ほっそりとした見た目に反し、びくりとも動かない。それどころか、腰に回されていた手の一方が、名前の後頭部を抑える始末。
 手首に圧迫感を感じた時、名前の体はベッドに寝かされていた。またしても、名前には何が起こったのか判断が付かなかった。ただ解るのは、ソニックと名乗った男が依然として自分に口付けていることと、自由になった彼の右手が、名前のTシャツの裾から侵入し、その先にある膨らみを揉みしだき始めているということだけだ。ひんやりとした男の手に、うっかり叫びそうになる。音速のソニックはその隙を逃すことなく、より深く口付けようと身を乗り出した。男の舌がぐっと伸びてきたような気がして気持ちが悪い。
 男は執拗に名前の舌を追い掛け、何度も角度を変えた。男の唾液と、自らのそれとが混ざり合い、どろどろになって喉の奥へと流れ込んでいく。いつの間にか両手は縛られていて、ブラのホックも外されている。男の手が直接胸へと触れる、そのおぞましい感覚から名前は身を捩って逃れようとした。
 今の名前の中では、恐怖感と嫌悪感、そして――一縷の期待感のようなものがない交ぜになっている。
 屈辱感に名前が泣きそうになっている、その事に気付いているのかいないのか。男はニヤッと笑ったようだった。

 男を最初に見た時、自分は殺されてしまうんじゃないかと思った。しかし、もはやそれでも良い。一刻も早く、この行為を終わらせて欲しかった。自分が身悶えしているのが男の手から逃れる為なのか、それとも別の、快感を求めてのことなのか、解らなかった。
 ソニックの手が下半身へと這っている。ひどく緩やかな動きで、下着越しに名前の秘所へと触れた。そして、男は目を見開いた。


 終わりは呆気なく訪れた。名前は俄かに自身の両手が自由の身になったことに気が付いた。それに、今の今まであった圧迫感も消えている。男は既に、ベッドから二メートルほど離れた所に立っていた。名前はさっと起き上がり、自分の体を抱えるようにしてその男から離れる。もっとも逃げ場などどこにもなく、壁際に身を寄せただけという結果に終わったが。
 音速のソニックはもはや、行為を続ける気はないようだった。羞恥心や何やらで顔を真っ赤にし、自身を睨み付けている名前を見ながら薄ら笑いを浮かべている。
「続きはまた今度だ」
 男は笑った。

 一週間後にまた来るからな、と、そう言い残して男は消えた。全てが一瞬だったようにも、小一時間が経っていたようにも思えた。取り敢えず、
「引っ越そ……」
 名前はそう呟き、そして脱力した。

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