研究したいの

 数日前から視線を感じる。それは大抵日中に起こり、日に日に強くなっているようだ。野生のポケモンかと思えばそうでもないらしい。四六時中感じるわけでもなく、アクロマは首をひねっていた。
 周りの団員に聞いてみれば、皆一様に「ああ」と頷いた。
「あの子ですよ、ほら、名前さん」
 よく知る名前に安堵し、そして不思議に思った。彼女は何故、自分を付け回しているのだろうか。

 考えても解らなかった。仕方なく、アクロマは行動に移す。別に、行動を監視されているのは、他ならぬ彼女であるため嫌でも何でもない。ただ、その理由を知りたかったのだ。
 再び例の視線を感じた時、アクロマはこっそりロトムを放した。暫く待っていると、背後の物影から「うきゃう」と可愛い悲鳴。どうやらロトムは上手くやってくれたようだ。近寄ってみれば、ロトムにまとわりつかれている名前が、気恥ずかしげにアクロマを見上げていた。


「楽しかったですか?」
 プラズマフリゲートの一室で、コーヒーを出してやりながら尋ねる。彼女の為だけに用意されている砂糖とミルクは、今のところ切れることがない。アクロマの問いが予想外だったのか、名前は瞠目した。微笑んでみせれば、彼女はその白い頬を朱に染める。
「わたくしの後を付けていたんでしょう?」
「ス、ストーカーしてたわけじゃないんです!」
 では何を、と尋ねれば、名前はあうあうと口籠もった。
「ア、アクロマさんを、研究……したくて」

 今度はアクロマが目を瞬かせる番だった。
「研究……ですか」
 曰く、アクロマがいつも研究しているのが面白くなかったのだとか。曰く、自分も何か研究してみればその面白さが解り、尚且つアクロマの気持ちも解るのではないかと思ったとか。曰く、研究をするなら好きなものがいいと思ったとか。
 要は、彼女に退屈さや不安感を与えていたのだな。アクロマはそう合点する。
「それで」アクロマは問い掛けた。「研究の成果はどんな様子ですか?」
 名前はますます顔を赤くさせ、「アクロマさんのこと、もっと好きになりました」と呟いた。

「わたくしを研究したいなら、もっとすぐ側でなさい」
 そう言ってやれば、名前はパッと顔を上げた。その表情には喜色が浮かんでいる。幸せそうに笑う彼女に、アクロマもつられて微笑んだ。

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