ジョーカーの行方

 トランプを手にしているギーマさんは実に絵になる。名前は男だったが、うっかりすると見惚れてしまいそうになるくらいだ。例えそれがババ抜きであっても。
 最後に一枚残るジョーカー。無論、それは僕の手の中だ。
「なあ名前、もうやめないか。二人でババ抜きなんて、むなしいにもほどがあるぜ」
「勝ち逃げっすか」小さく呻く。「それに、ギーマさんがやろうって言ったんじゃないですか」
「名前がそれしか知らないからだろ」ギーマさんが肩を竦めた。
「ポーカーでも何でも教えてやるって」
「嫌ですよ、面倒くさいし。それにどーせギーマさんが勝つって解ってるし」
 積まれたペアの山に、はみ出し者のジョーカーを投げやる。ギーマさんが苦笑した。彼のレパルダスすら何か言いたげな目で自分を見ている気がするが、名前は無視を決め込む。ポケモンの言葉解んないし。

「……そうでもないさ」
 ギーマさんがぽつりと言った。
「そうでなけりゃ、こうしてババ抜きなんてやっちゃいないぜ」
 言葉の意図が掴めず名前が彼を見ると、彼の方もちょうど此方を見ていた。その真摯な瞳に、思わずどきりとする。
 動揺が気取られたのだろうか? ギーマさんが僅かに目を細めた。
「俺は勝負は降りない。自分からはな。お前と一緒で負けず嫌いなのさ。勝ち目がないと解っていたって……お前をモノにするまで、俺は諦めないぜ」

 陸に上がったバスラオのように、名前の口はぱくぱくと開閉を繰り返すだけだった。ねこだましを食らったような気分だ。
 言うつもりはなかったんだがなと笑うギーマさんは、手慣れた動作でトランプを切る。シャッフルし終えた後、名前を見ながら「さ、もう一勝負といこうか」と笑うギーマさんは、ただの勝負師であり、紛れもない勝者だった。

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