隷属

 じゃ、足でも舐めてみます?

 は、と是の返事を返そうとして、名前はそのまま固まった。その間にも、ククルカンは靴を脱いでいる。見慣れている筈のその動作を、何故か惹き付けられるようにして凝視してしまったが、はっと我に返った。
「隊、長……?」
「あ、こういうのって何か意味あったりするんスかね。右と左で何か違ったり?」
 此方を振り返ったククルカン。丸々とした目で見詰められた。
「いえ、私は何も存じませんが」
「そっスか」
 特に気に留めた様子もなく、彼はそのまま靴下を降ろし始めた。
 少々筋張った、生白い足が現れた。
 自分が今から何をさせられるのか。それが解っているからこそ、動けない。名前はククルカンのその足から――何にも覆われていないその素足から、目が離せなかった。

「ほら早く、名前さん」
「は、あ、いえ、隊長、まさか本気で――?」
 何を馬鹿なことを言っているのだ、と、そういう目でククルカンが名前を見遣る。しかし、何を血迷ったことを、と、そう言いたいのは名前の方だ。自身が所属する部隊の隊長を相手に、口を裂けても言えやしないが。
「名前さんが言ったんじゃないスか。オレに……忠誠? 誓ってるんスよね? だったらほら、足、舐めてみて下さいよ」
 ごく当たり前のことを言うように、ククルカンは笑った。彼が椅子に腰掛けている為だろう、へらんちょと笑っている隊長の顔がよく見える。

 彼は、名前ができないと解っていて、言っているのだ。

 すっとしゃがみ込み、名前はククルカンの右足首を掴んだ。僅かだが、彼が痙攣したのが解る。そのまま背を曲げるようにして、足の甲へ口付けた。すえたような臭いが鼻を突く。そのままべろりと舐め上げてみれば、うっすらと汗の味がした。下へずらし、親指を甘噛みしたところで、足が引っ込められた。それも勢いよく、だ。前歯が痛い。
 名前が顔を上げると、此方を見下ろしていたククルカンと目が合った。その顔はいつもより焦っているように見え、同時に少しばかり紅潮していた――多分、私の顔は彼以上に紅くなっているのだろうが。
「……まさか本当にやるとは」
 ククルカンが呟いた。ざまみろ。

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