マイクロビキニを脱がさないで

 やった、と、吸血鬼マイクロビキニは確かにそう思った。クソ小生意気なガキ――もとい、名前に噛み付くことに成功したのだ。
 名前という女は、確かに人間にしておくには惜しいほど気の良い奴だったし、マイクロビキニ自身そんな名前に好感を抱いてこそいた。しかし、彼女には年長者に対する敬意というものが欠けている。やれ露出狂だの、そんなだから兄離れができないのだだの(これが一番カチンと来た)。
 そんなに言うなら今一度吸血鬼の怖さを知らしめてやろうじゃないかと、そんな思いでマイクロビキニは名前の首筋に噛み付いたのだった。

 無事に極小のビキニを身に纏った名前を前に、マイクロビキニは内心で自画自賛していた。ターゲットの人間と親交を深め、油断させてから食事にありつくのは、何百年も昔から高等吸血鬼としての常套手段だ。もちろん名前はターゲットというわけではなかったが、それはそれだ。俺もまだまだイケルじゃないかと、そう思った。
 名前は意外にも豊満な体を持っていたらしく、ビキニから溢れ出そうになっているその様は、何ともマイクロビキニの食欲を擽った。名前は数少ない友人の一人だし、これからも友達として付き合っていきたいと思っている。しかし、少しくらいなら許してくれるのではないか。最悪、今は催眠が効いているのだから――名前は今、マイクロビキニを身に纏うことこそ至高と考えている筈だ――他の事など考えられないだろうし、何ならもう少し強めに催眠術をかけてしまえば、マイクロビキニが若干の血を吸ったところで気が付かないかもしれない。
 もう一度、今度は別の目的の為に名前の首筋に噛み付こうとしたマイクロビキニだったが、その時になって漸く名前の異変に気が付いた。「……も」
「も、もうやだぁ」


 ……えっ、何? 何で?
 頭の中を駆け巡ったのはそれだった。マイクロビキニの予想では、名前は新世界の住人として、ビキニを纏うことを嬉しがる筈だったのだ。しかし今の名前は顔を真っ赤にし、子供のようにえんえんと泣きじゃくっている。
 確かに、催眠術や洗脳といった類は掛かり易い者とそうでない者が居ることは知っているし、催眠術を多重にかけることによって他の催眠が掛かり辛くなったりすることがあることも知識として知っている。どういう理由かは解らないが、名前には上手く洗脳が掛からなかったのだ。しかし今のマイクロビキニには、そんな事を考える余裕が無かった。名前が、泣いている。
「――……っ、名前、名前、落ち着け」
「ふ……うぅ、も、もうやだ……こ、こんな恥ずかしいのみられ……」
「いいから落ち着け、それにビキニは恥ずかしがるものではない!」
「う、うぅぅ……」
 もはや、羞恥に塗れた名前は、目の前に居るのが誰なのかも解っていないのかもしれなかった。もうやだ、もうやだ、と泣いている名前に、元からパニックに陥っていたマイクロビキニはますます焦り始める。
 落ち着けと言っても落ち着かない。泣くなと言っても泣きやまない。
 もはや、マイクロビキニは自分の方が泣いてしまいそうだった。見慣れない名前のビキニ姿に見惚れる余裕もあったものじゃない。「べ……」マイクロビキニが言った。「別にお前を泣かせるつもりじゃなかったんだ。ただ、ちょっと痛い目をみれば良いと……」

 いっそう大声で泣き出した名前。結局、名前は泣き止まなかったし、マイクロビキニは半泣きになりながら兄の野球拳大好きを呼び寄せるに至った。惨状を目の当たりにした野球拳はかなり困惑していた様子だったが、そのまま名前に野球拳を仕掛け、マイクロ波の洗脳を解くに至った。
 ちなみに、マイクロビキニの洗脳が上手く名前に効かなかったのは、数日前に野球拳大好きが名前に野球拳を仕掛けていたかららしい。名前が泣き出すほど嫌がったのも、先日丸裸にされた苦い思い出が蘇るからなのだと。クソ愚兄殺す。

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