難関がたくさんある僕の話

 名前・名字最大の難関は、薬草学だった。
 薬草学、それは未だ始まっていない飛行術を除けば、唯一の戸外で行われる授業だ。名前はそれこそ広く浅く、友好関係を築いていた。ホグズミードで店を開く大人達に可愛がられて育った名前には、社交性という物が身に付いていたのだ。やけに絡んでくるジェームズ・ポッターを除けば、名前には特別親しい友という人間は存在しなかった。
 だからこそ、名前には無断で薬草学を休む事が、どうしても出来なかった。
 短い付き合いながらも、ジェームズが好意で自分に構ってくる事は解っていたし、そんな彼が、授業を欠席した名前を心配する様は容易に想像ができた。日光に弱い吸血鬼を屋外に出るよう強要する事はできないと、校長から薬草学には出席しなくても良いと許可は貰っていた。名前は誰も居ない教室の中で小さく笑い、パチリと指を鳴らした。
 その瞬間、名前・名字の体は消え去り、そこには髪の毛一本とも残っていなかった。

 薬草学が行われる温室に着いた途端、グリフィンドール生は唖然とした。
 温室っていうのはこう、もっと……
「ガラス張りだったり、ビニールで張られていたりするものじゃないのかしら」
 リリー・エバンズが呟いた一言は、その場にいた誰しもの心の声を代弁していた。魔法界ってやっぱり違うのね、と、マグル生まれの彼女は納得したが、誰しもがそう思えたわけではない。
 辿り着いた温室は、屋根という屋根、壁という壁が板で塞がれていた。扉ですら木製だ。木で出来た温室など聞いたことがない。こういう物と言われてしまえばそれでお終いだが、何せ、木で覆われているのは自分達の目の前に建っている、八号温室だけだ。他の一から七までの温室は、一般的な温室の姿をしている。
 先にやってきていたハッフルパフ生達も戸惑っていたらしく、代表がジャンケンをして、負けたグリフィンドールは潔くその木で出来た小屋へと踏み込んだ。

 入ってみれば、なんの事はない普通の温室だった。むわっとした熱気が籠もり、見たこともないような植物が所狭しと並んでいる。赤い葉にピンクのひだのような触手が生えている木、ふらふらくねくねと動く細長い木、歯のような物が生えている実がなっている木。普通の温室との違いがあるとすれば、その植物達が全て鉢植えだという事だ。
 そうまるで、急に拵えた代物のように。
 が、ホグワーツにやってきた一年生達は、そんな事に勿論気が付かなかった。違和感を覚える事もなかった。使う温室が急に変更になった事もまったく不思議がらなかった。八号温室を使う生徒が自分達しか居ないのだという事も、勿論知らないだろう。
「やあやあ遅かったね。とっくに授業開始の合図はなっていたのに」
「名前! 君今までどこにいたんだ、僕は探し回ったのに」
 ごめんごめんとジェームズに謝る名前の表情は、どこか嬉しそうだった。

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