組み分けを嘆く彼の話

 組み分けが決まるのは、速い時もあれば遅い時もある。それはその本人の秘めたる才能や、溢れ出る魅力、そして希望する意思を汲んでいる為、組み分け帽子が迷わざるを得ないからだ。実際のところ、組み分け帽子と一切会話をせずに寮が決まる生徒は少ない。
 名前・名字はその少数派だった。
「グリフィンドール!」

 おい、とシリウスは隣に居たジェームズに小突かれた。彼がちょいちょいと指差す方を見ると、先程ホグワーツ特急のコンパートメントで一緒だった少年が居た。机に突っ伏していたが、あの飴色の髪は見間違えようがない。端正な顔をしている癖に、喋ると残念になる、奴だ。
 途端に顔を顰めたシリウスを見て、ジェームズがうっすらと笑ったのだが、彼は全く頓着しなかった。少年を見つめるのに忙しく、気付いていないらしい。
 何がスリザリンが良いだ、何がハッフルパフが良いだ。
 シリウスは心の中で毒突いた。彼が、そして自分が今着いている席は、間違いなくグリフィンドールの長テーブルだ。同じ寮になった事は癪だが、ザマーミロと思った事も確かだった。名前はダンブルドアの話の際も、食事の際も、ずっと顔を伏せたままだった。

「ね、ねえ、そろそろ夕食が終わっちゃうよ?」
 何と言ったのかは此処からははっきりとは解らないが、どうせそんなところだろう。名前の隣に居た少年が、突っ伏したままのの肩をおずおずと叩き、食事を促している。
 ピーター・ペティグリューにとって、こうも隣で拒否されているのはひどく居心地が悪かった。まるで自分が拒否されているみたいだ。同じ一年生なのだからと勇気を振り絞り、そう話し掛ける。もしや寝ているのではと思った時、少年がむくりと起き上がり、ひどく怠慢そうな態度でピーターに答えた。
「ミスター、僕が座っている此処は間違いなくグリフィンドールか?」
「え? うん、そうだよ」
 次の瞬間聞こえた雄叫びに、シリウスは思わずカボチャジュースを噴き出すところだった。ジェームズは間違いなく咽せ返ったし、他の何人かもぎょっとしてを見つめた。
「グリフィンドールとかあああああ!」

 おいおいと泣き出した名前に、隣にいたピーターが焦る。
「ど、どうしたの? 何が嫌なの?」
「……だって信じられるかい、グリフィンドール寮は塔の上にあるのだよ!」
 は? という音を、ピーターは慌てて呑み込んだ。
 嫌だ嫌だと繰り返す名前を、何人もの生徒が不思議なものを見る目で見物していたし、シリウスとジェームズもそうだった。
 名前・名字がグリフィンドールを嫌がったのは、グリフィンドールが嫌いなのではなく、ひとえに寮が塔の上にあるからだった。ハッフルパフを強く希望していたのは、寮が地下にあるからだ。スリザリンを候補から外したのは、両親が魔法の一切使えない非魔法族生まれの吸血鬼だからであり、スリザリンがマグルを良しとしない事を列車での会話で知ったからだ。しかし勿論、その事を知っているのは本人しかいない。
 ばっかじゃねーの、と呟いたシリウスに、ジェームズも首を縦に振る事で同意を示した。スリザリンを否定し、グリフィンドールに憧れてきたシリウスにとって、彼がああもグリフィンドール寮を嫌がる事は、実に腹立たしい事だった。だからこそシリウスは次の日、寝室から降りてきたジェームズが、名前・名字とすっかり意気投合していた事に絶句する以外なかった。

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