ゆうかんギルガルド

 ひっそりと隣に佇んでいた筈のギルガルドが、俄かにブレードフォルムになった。突然の変化に、名前はびくりと身を跳ねさせる。――ギルガルドの一つしかない瞳が、一心に“それ”を見詰めていた。
「どうしたの? ギルガルド」
 名前がさりげなくそう尋ねると、ギルガルドは気まずそうに顔を背けた。やがて静かに腕を収めると、シールドフォルムへと戻る。

 ギルガルドは名前のパートナーポケモンだった。初めてヒトツキに出会った時、そのミステリアスな風貌に心を射抜かれ、以来一緒に生活している。ヒトツキがニダンギルになった時も驚いたが、闇の石でニダンギルがギルガルドになった時は本当に吃驚した。刀が二振りになったと思ったら、今度は一振りの大剣に進化したのだ。なんてへんてこりんなポケモンだ。しかし――そんなギルガルドに、名前はますます惚れ込んだ。見た目もさることながら、鋼とゴーストという珍しい複合タイプであることや、攻守を巧みに入れ替える特性バトルスイッチも、ギルガルドの魅力だろうと名前は思っている。
 そんな名前のギルガルドは、何物をも恐れない勇敢な性格をしていた。どんなに相性の悪い相手でも怯むことなくバトルをするし、いつだったかフレア団に襲われそうになった時は、一匹だけで彼らに立ち向かい名前を助けてくれた。
 とても勇敢なギルガルド、それが名前のギルガルドだ。
 しかしながら、その勇敢さは、実はとても脆いものなのだということを、名前はよく知っていた。


 ギルガルドはいつも、こうして名前の側に居ることが多かった。バトルの時だけでなく、日常的に名前の隣でふよふよと浮いているのだ。買い物に行く時も、洗濯をしている時も、いつどんな時でも二人は一緒だった。名前が夜眠りにつく時は、ギルガルドも一緒になって、ベッドのすぐ脇に佇み眠っている。
 最初はそんなギルガルドの様子に戸惑ったものだが、何度モンスターボールに戻しても勝手に外へ出てくるので、いつからかギルガルドの好きにさせるようにした。大切な友達といつでも一緒に居られるのは、とても素敵な事だった。

 はっきり尋ねたわけではないのだが(何せ、ポケモンは口が利けない)、いつも名前の側に居たがるギルガルドは、どうやらボディーガードをしているつもりらしかった。どうもフレア団の一件から、彼の過保護っぷりには磨きがかかったらしいのだ。そんなに頼りないのだろうかと、トレーナーとしては少し情けなくなるわけだが、やはりポケモンであるギルガルドからしてみると、名前という存在は弱々しく映るのだろう。ギルガルドはどんな攻撃でも防げる盾を持っているわけだし、尚更だ。
 ――ギルガルドは、名前を保護対象として見ている。
 無論名前だって、それが嬉しくないわけではない。ポケモンにこれほど愛されているなんて、トレーナー冥利に尽きるというものじゃないか。名前の身に危険が迫ると一瞬にして刃を抜き、どんな相手にも立ち向かうギルガルド。
 しかしながら、そんなギルガルドだって、怖い物がないわけじゃない。


 シールドフォルムに戻った後も、ギルガルドは一点を見詰めていた。その視線の先には――火の点いたガス台がある。
 ギルガルドは四六時中名前の側に居たがった。名前のことを守るべき対象と信じているからだ。家事をする時もそれは変わらず、彼は名前が得意のパンケーキを作っている間も、当然ながら名前の傍らに浮かんでいる。
 ギルガルドの弱点はいくつかあるが、鋼タイプを複合しているギルガルドは炎に弱かった。そして、料理には火が必須だった。
 本当は――ギルガルドは火が大嫌いだったのだ。そして、同時に恐れてもいる。火に立ち向かうことはできるが、まったく怖くないわけではないのだ。唐突に、ブレードフォルムになってしまうくらいには、ギルガルドは火を嫌っている。しかしながら、彼はいつでもこうして名前の隣に居る。

 やっぱり、自分のパートナーとはちゃんとした付き合い方を模索していくべきだよなあ。
 名前は友人のトレーナーを思い出した。彼女は手持ちのヌケニンのもしもの時の為に、常にげんきのかけらや、げんきのかたまりを持ち歩いている――そんな事を考えながら、名前は焼け上がったパンケーキを皿へ移した。受け取ったギルガルドはそれを机の上に置くと、瞬時にブレードフォルムになって、それを六等分する。その鮮やかさたるや。
 フォークで差し出されたパンケーキを少しずつ食べているギルガルドを見ながら、名前は心に決める。うん、やっぱりIHにしよう。

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