05

 他の寮も同じなのかは知らないが、ともかくも、名前の部屋は五人部屋だった。ハリーの部屋と同じだ。当たり前だが、同室者はフレッドだけじゃない。彼の双子の兄弟のジョージ・ウィーズリー、それからリー・ジョーダン。もう一人居るが、誰かと言うと、名前はリーと一番仲が良かった。相性が良いというのはこういうことを言うんだろうと、改めて実感したくらいだ。リーと一緒に居ると、楽しいことはより楽しく、辛いことまで楽しくなるくらいだった。

 もちろん、リーは「原作キャラ」だ。最終巻の辺りを思えば、あまり親しくなり過ぎるのは良くないだろう。しかし名前が知る限り、少なくともリーは死なない。同寮生の誰よりも気が合うのが彼だっただけのことだ。まあ、リーと一緒に馬鹿をやるだけなら、死にはしないんじゃないだろうか。大丈夫だ、問題ない。筈だ。
 元の小説では、リー・ジョーダンは双子の友達、相方、悪友、そんな印象を受けた。この世界でもそれは変わりがないようで、この間は双子と一緒になってミセス・ノリスを追い掛け回していた(そしてフィルチに捕まっていた)。しかし、四六時中彼らと一緒に居るわけじゃない。そしてリーは、双子と悪戯をする時以外、大抵は名前と行動を共にした。
 親戚の、いかにもスリザリンな連中と上手く馴染めなかった名前にとって、彼は初めての友達、親友となった。
「あいつらは、ちょっとぶっ飛び過ぎてるところがあるんだよなあ」
 スネイプの髪の毛をピンクにしてやろうと画策しているフレッドとジョージの背を見ながら、リーはそう呟いた。名前が同意を示すと、リーはちらっと此方を見て、それからどちらともなく笑い出した。


 この日も、リーは双子と行動を共にしていなかった。しかしながら、名前と一緒だったわけでもない。
 名前は昼食後、部屋に戻ってごろごろするつもりだった。入学してから一週間、慣れないことの連続だったのだ。スリザリンの連中は逐一馬鹿にしてくるし。――出された宿題を済ますのは、日曜日だって構わないだろう。名前はそう判断していた。
 自室の扉を開ければ、檸檬を凝縮したかのような、そんな刺激臭が鼻を突いた。思わずごくりと唾を呑む。正体は薄緑色の靄だ。恐る恐る触れてみれば、特に何事もない。名前はその靄をぱっぱと手で払いながら、ゆっくりと部屋の中に入った。
「よう、名前」
 そう言いながら振り返ったジョージは、どこかばつの悪そうな顔をしていた。傍らにはフレッドも居る。彼らの間には折り畳み式の大鍋が置かれていて、その鍋からポッポッと一定間隔で煙が噴き出されていた。緑の靄の出所は、火に掛けられたあの大鍋だ。
「えー、と」名前は少々言葉に詰まった。依然として、彼らとは積極的に関わりたくなかった。しかし上手い具合にリーも居ない。内心で溜息をつく。「ノックでもした方がよかったかな」
「まさか」双子が揃って言った。
「ただ、リーの奴は僕らがこうして大鍋とイチャイチャしてると、良い顔しないんだ」
「さっき戻ってきたんだけど、すぐに出てったな」
「ありゃ、ミセス・ゴシゴシを前にしたスネイプよりも早かったろうな」
 なるほどね、と名前は呟いた。
「僕よく知らないけど、そういうのって光が入ったら駄目とかあるだろ? 今回は大丈夫だったみたいだけどさ、なんか合図して入った方が良いかい?」
 フレッドとジョージは顔を見合わせた。「いやあ……」
「別に、気にするなよ。そこまで危なっかしいもんは、僕らだってやりゃしないさ」
「それより名前、普通は嫌がるもんだぜ。どうしてそんなに平然としてるんだ」
「嫌がるって?」
「自分の部屋で大鍋グラグラ、なんて普通は有り得ないからさ」
「証拠に、我らが同室者の残る二人は今談話室に居る」
 フレッドがそう言って笑った。
「でもここは君らの部屋でもあるだろ?」
「君、変わってるって言われないか?」と、ジョージ。
「いや?」
 名前が小首を傾げれば、双子は揃って破顔した。

「僕ら、店を開きたいんだ」
 ベッドに腰掛け、ネクタイを緩める名前に、ジョージがそう言葉を投げた。顔を上げれば、「悪戯専門店さ」とフレッド。
「自分達の店を持つのが夢なんだ」
「グッズも自分達で作ってさ」
「これからもお騒がせすると思うけど、まあ勘弁してくれよ」
「なるべくそっちに被害は行かないようにするからさ」
 名前は二人の顔を眺めていたが、そのどちらも真意は読み取れなかった。
「どうしてそれを僕に言うんだ?」
「君が名前だからかな」
 ウィーズリーの双子は、再び声をハモらせた。

 天蓋付きのベッドに寝そべる前に、「リー達だって、君らが夢を叶えたくてベッドに火を付けたり、寝室を爆破したりしてるんだって知れば、頭ごなしに嫌がったりはしないと思うよ」と名前が言えば、フレッドとジョージは「考えとくよ」と言って笑った。多分、二、三日後には彼らとリーが一緒に鍋を掻き混ぜている光景が見られるだろう。
 真紅のカーテンを閉めれば、ツンとする匂いは少しだけ薄れた気がした。
 目を閉じると、先程のフレッドの笑顔が瞼の裏に蘇った。眠気はすっかり消え失せてしまっている。火照る顔を押さえながら、例えリーと今以上に親しくなったとしたって、このことは言えやしないだろうなと名前は溜息をついた。

[ 329/832 ]

[*prev] [next#]
[モドル]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -