「さあ、講評のお時間だ!」五人を労った後、オールマイトが言った。いつも通りの笑顔に安心したものの、次の彼の言葉で名前達はだいぶん驚くことになる。「今回一番良かったのは蛙吹少女だ! さあ、理由が解るかな!?」
 名前でもなく、ましてや瀬呂でもなく、蛙吹が一番――?
 名前達五人を含め、クラスの殆どの者が驚いた。今回は爆豪のように大きなマイナス点もなかった筈だし、誰もがヒーロー役、敵役に徹していた筈だ。てっきり先と同じくオールマイトに褒められると思っていた名前は、がっかりすると同時に、勘違いしていた恥ずかしさと、言い知れないもやもやとした気持ちが浮かんできたのを感じた。
 ――上手くヒーローを捕えた名前ではなく、何故蛙吹なのか。手を挙げたのは八百万一人だった。
「常闇さんを人質に取られたあの状態で、尚も敵の確保に向かうなど、愚の骨頂ですわ」

 八百万の言葉に、ようやく名前もハッとなった。
「確かに、敵が核兵器を有している以上、大きな犠牲は免れないでしょう。仲間一人を犠牲にし、核兵器の確保に努める方が、より賢明な判断なのかもしれません。しかし、勝利を確信した時が一番油断する時だとも言いますし、それ以前に、蛙吹さん一人で切島さん、瀬呂さんの二人を相手にするのは分が悪すぎますわ。時間の限られた訓練ですので、今回は敵の勝利となりましたが……敢えて負けを宣言し、隙を伺う方が、ヒーロー組の勝率は高かった筈です」
 そう言ってから、八百万は小さく「世間には非難されるかもしれませんが……それでも、仲間を見捨てるよりはマシですわ」と呟いた。
「……その通り!」オールマイトが声を張り上げた。「仲間を見捨てて、何がヒーローって話だよ!」
「今回は敵の勝利となったが、絶体絶命の場面でも、それを乗り越えていくのがヒーローだ! 諦めない限り、必ずチャンスは訪れる! ――皆、覚えておけよ。チャンスの神様ってのは、正義の味方が大好きなんだぜ。不屈のヒーローってやつがさ!」

 その後、残りの四組の戦闘訓練も無事に終了し、第一回目のヒーロー基礎学は終わりを迎えた。


 ヒーロー基礎学が終わり、その日の授業が全て終わった放課後――突然駆け寄ってきた切島に、名前は驚く。「さっき瀬呂とも話してたんだけどよ、穴黒、今から反省会しねーか?」
「反省会……?」
 名前が問い返せば、切島は「おう!」とにっかり笑う。すると名前の前に座っていた蛙吹も振り向き、「面白そうね、私も混ぜてくれる」と首を傾げた。
「大歓迎だぜMVP! ちくしょー!」
「ケロ……」
 心底悔しそうに言う切島に、若干顔を赤らめる蛙吹。二人のやり取りに呆気にとられていた名前だったが、突然背後から肩に手を置かれ、びくりと身を震わせた。
「その反省会……俺も混ぜてはくれないだろうか?」飯田だ。「オールマイトは良かったと言ってくれたが、俺としては悔いが残る。あそこで麗日くんの攻撃に対処できてこそ、本物のヒーローの筈……!」
 名前は飯田の勢いに呑まれながら、もちろんだよと小さく言った。その後ろから、「私も入れてー」と麗日が顔を覗かせている。
「待て待て、反省会やるなら俺も入れてくれ。お前らから見て俺達どうだった?」
 砂藤がそう言い、その横では口田もこくこくと頷いている。「私も興味ありますわ」とやってきたのは八百万で、結局、未だ保健室から戻ってこない緑谷と、早々に帰ってしまった爆豪を除き、ほぼクラス全員で反省会を行うことになった。


 それぞれが自身の反省点を挙げたり(麗日は「ちょっとデクくんに頼り過ぎだったし、八百万さんが言った通り乱暴やったよね」と苦笑したし、常闇は「瀬呂を出し抜いてやったと思ったんだが、それが油断に繋がったようだ」ときっぱり言った)、友人達の欠点や改善点を指摘したりした(切島は青山に「戦闘服に気を取られ過ぎだったぜ」と言って肩を叩いたし、砂藤はペアだった口田に対し「もっと大胆にやっても良かったんだぞ」と眉を下げた)。
 しかし中でも盛り上がったのは、一番最初の緑谷達の戦いの事と、名前達の戦いで改めて痛感した、“大勢を助ける為に一人を犠牲にしていいのか”という問題についてだった。

 前者については、盛り上がっていた時に偶然緑谷が顔を見せた為、更にヒートアップした。包帯を巻いたままの緑谷を見て、切島は「ますます男らしいぜ緑谷……!」と半ば感動すら覚えていたようだったし、多少乱暴なやり方だったが、緑谷達の連携が素晴らしかったことは間違いないというのが皆の意見の一致するところだった。
「あの……麗日さん、緑谷くん、大丈夫なのかな? 包帯巻いてたけど……」
 麗日と二言、三言話した後、すぐに姿を消してしまった緑谷は、リカバリーガールに診てもらった筈なのに、未だ全快していないようだった。麗日も少し眉を下げ、「何かね、デクくん、こないだも診てもらったばっかりだから、体力的なアレが足りないんやって」と言った。
「怪我を治す為には、まず自身が体力をつけることが重要だからな」そう言ったのは飯田だ。「恐らく、リカバリーガール先生の“個性”は人の治癒力を活性化させるものなのではないか? 緑谷くんは個性把握テストの時も、保健室に行っていたからな」
 すごい“個性”だが、改善点は多いなと飯田は口にし、尚も不安そうにしている名前を見てか、「そんなに心配しなくても大丈夫さ」と力強く付け足した。

 その後、戻ってきた緑谷も仲間に加わり、一年A組の反省会は更なる様相を見せた。仲間を犠牲にしてでも、大勢が助かるならそうするべき、そう言い放ったのは上鳴電気だった。
「いや、だって核だぜ核! 核爆弾はやべーだろ!」
 対処できるヒーローだって早々いねえよ?と、皆の視線を受けて、上鳴は付け足した。「爆発しちまったら何百万人も死ぬんだぜ、それよか全然ましっしょ」
「ま、アンタには無理かもしれないけど……」
 そう言ったのは耳郎響香、上鳴とペアを組んでいた生徒だ(彼女の言葉を聞き、上鳴は「ひでえ!」と叫んだ)。「必ずしもそうとは限んないじゃん」
「ウチら今、ヒーロー飽和社会の真っ只中に居るわけじゃん? 核兵器くらいどうとでもできる“個性”持ち、居るんじゃないの? 原子力ヒーローみたいなさ」
「そういうヒーローは覚えがないけど……」緑谷が微かに眉根を寄せながら言った。「確かに、対処できるヒーローは居るかもしれないね。燃焼系ヒーローのエンデヴァーみたいな超火力なら核爆発も抑え込めるかもしれないし、スペースヒーローの13号なら核爆弾ごとブラックホールに吸い込めるよね」
 聞き覚えのあり過ぎる名前に、名前はびくりと身を震わせた。しかしながら、誰もそんな名前の様子には気が付かなかったらしく、議論は続いていく。仲間は断固として救うべき、とは切島の言だ。
「仲間見捨てるなんて男らしくねーし、何よりヒーロー失格だぜ」
「核が爆発したら何千万人と犠牲が出るんだぞ、そっちの方がヒーローとして駄目だろ」
 普段こそ仲の良い上鳴と切島だったが、二人とも少しも譲らなかった。大勢を救えるなら一人を犠牲にしても良いのか、一人を救う為に大勢を犠牲にしても良いのか――反省会というよりむしろ会議の場になってきたが、ヒーローを目指す者としては無視してはいられない問題だ。
 皆それぞれ思うところはあったが、結局答えは出ず、轟の「どっちも救けられるようになりゃ良いんじゃねぇのか」という言葉を合図に、反省会は終了となった。

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